DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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はじめまして。DMCラボ書評、廣田、京井に続く三番バッターの滝村泰史と申します。コピーライターをやっています。

20年以上もコピーライターをやってきたので、すっかりテレビ・新聞ありきで表現を考える「メディア中心脳」になっていましたが、このラボに参加して、少しずつ脳もほぐれてきました。

旧世代のトラディショナルな広告経験も踏まえつつ、次のコミュニケーションを考える本をご紹介できたらと思います。趣向としてはコピーライターらしく、本の帯にある言葉をとっかかりにしようと考えています。

で、今回は、山崎亮さんの『コミュニティデザイン』を取り上げます。帯の言葉は、「モノをつくるのをやめると、人が見えてくる」。

建築デザインから人をつなぐデザインへ
著者の山崎さんは、もともとは建築デザイナー。帯にもあるように、建築という「モノづくり」を通じて、ランドスケープや公園をデザインされてきました。それが徐々に人のつながりに関心が移り、いまでは自らのことを「コミュニティデザイナー」と呼んでいます。

「コミュニティデザイン」とは、過疎や観光集客といった地域コミュニティの課題をその地域の人たちが自ら解決できるよう、場やしくみをデザインする仕事。具体的には「まちづくりのワークショップ」を開いたり、「住民参加型の総合計画づくり」を手伝ったりしながら、人と人をつなげ、長期的な課題解決を目指されています。

建物や公園が必要になるケースでも、そうした具体的なモノづくりは他の建築家にゆだね、自らはコミュニティづくりというソフトに力を注ぐことが多いそうです。

そんな山崎さんですが、コミュニティデザインをはじめた当初は、「ハードをデザインする仕事に従事していた人間として、僕はその部分をほかの人に任せるというのが本業を捨てるような感覚だった」と言います。

これは、畑ちがいとはいえ、同じモノをつくる人間として、よくわかります。広告クリエーティブは、作品とはいえませんが、どうしても「自分が企画し、アイディアを出した仕事」という感覚が捨てきれない。逆にそれを捨ててしまうと、なんだかモチベーションが下がることもあるのです。

自分が離れても成り立つしくみづくり
ただ、山崎さんは、思いきって「モノづくり」を人に任せることで見えてきたことがあると言います。それは、一言にまとめると「使う人の気持ちに寄り添うこと」。

自分が建築家として「こんなものがつくりたい」と思っていると、どうしてもその考えに引っ張られてしまう。まずは、住人の方の話をとことん聞き、誰に話をもっていくか、誰を中心に据えるかといった座組みに頭を使うそうです。

ワークショップの時にも、自分のプロとしてのアイディアを押しつけるのではなく、住人の方からアイディアが出るのをじっくり待つ。その結果、新しいモノはつくらず、ソフトだけを変えていくという結論も、十分あり得るわけです。

いずれ自分は地域から離れてしまう。けれど、楽しみながら街を変えていこうというコミュニティを地元に生み出せれば、長い期間にわたって活動が持続する。そんなふうに考えているのです。

この言葉を読んで、僕はある人の発言を思い出しました。それは、前に講演をお聞きしたウェブデザイナーの中村勇吾さんの言葉。「ウェブデザインは、農園業みたいなもの」という主旨でした。

グラフィックデザインとちがい、ウェブのデザインはつくったら完成ではなく、そこからユーザーといっしょに育つものである、と。「育っていく器をつくる感覚」ともおっしゃっていました。

いまのSNSやソーシャルメディアでは、ユーザー主導のコミュニティがカギを握るといわれていますが、まさしくその本質をついた言葉ではないでしょうか。そして、今回山崎さんの本を読んで、リアルな場である地域コミュニティでも、デザイナーの果たすべき役割は同じなんだと感じました。

トラディショナルな広告でも同じような発想の人がいた
さらに、もっと昔にも同じニュアンスの言葉を聞いたことがあると思ったら、僕らの大先輩、コピーライターの糸井重里さんでした。

正確な言葉は忘れてしまったのですが、コピーを書く時に、「遊び場をつくる」ことを意識しているという内容でした。コピーや広告は、遊び道具を世の中に提案するようなもの。バットとボールを原っぱに置いておけば自然と野球がはじまるように、コピーを通じて遊んでもらえれば、その言葉は成功する、と。

たとえば、「昼間のパパは光ってる」という某建設会社のコピーですが、これは、「働くお父さん」をテーマにしたCMソングとして、忌野清志郎さんの曲もつくられました。「昼間のパパはちょっとちがう」「昼間のパパはいい汗かいてる」「昼間のパパは男だぜ」という歌詞は、「夜中のパパはちょっとちがう」「夜中のパパはいい汗かいてる」「夜中のパパは男だぜ」ともじられることを意識して書いたとか(笑)。

糸井さんは、現在では「ほぼ日刊イトイ新聞」という日本最大級のコミュニティを主宰されていますが、コピーライター時代の「みんなの遊び場をつくる」という感覚の延長に、ネットでの成功がある気がします。

一瞬の完成度はもちろん、時間とともに育てる感覚を
ほかにも少しずれるかもしれませんが、小学館のCMで「ピッカピカの一年生」という器をつくり、その中でいろんなクリエーターを遊ばせた杉山恒太郎さんなど、「育っていく器をつくる感覚」は昔からあったようです。

そして、コミュニティづくりがカギとなるいまの時代こそ、こうした感覚がどんどん重要になっているのではないでしょうか。

僕たちの世代は、一瞬一瞬の完成度を上げる「瞬発力」の訓練は受けてきましたが、これからは「持久力」も身につけなければならない。「持久力」というとなんだかしんどいですが、みんなと一緒に育てていく感覚。どこまでこれまでの「モノづくり」の感覚を抜け出せるか、かなり意識的になる必要があるかもしれません。



滝村 泰史
第3CRプランニング局

コピーライター(東京コピーライターズクラブ会員)。言葉を核に、コピーライティングから、コンセプトメイキング、コミュニケーションデザインまで手がける。ACC金賞、読売広告大賞グランプリ、毎日広告デザイン賞最高賞、準朝日広告賞、クリオ広告賞銀賞、ニューヨークフェスティバル金賞ほか。日本映画好き。特に70〜80年代のもの。


Posted: 2013年12月26日 16:15 | コメント(0)

今回は、ロンドン・ビジネススクール教授で、英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりに選ばれたリンダ・グラットンの著書『ワークシフト』を取り上げます。
本書は「2025年、僕たちはどんな働き方をしているか?」がテーマになっています。2025年といえば、東京オリンピックの5年先。そう考えると、そんなに遠い話ではなさそうですね。

2010年には中国が45カ所の空港の建設を進めていた、携帯電話を使用した送金システムのイノベーションを牽引しているのはケニア、2025年までに世界の50億人以上が携帯端末で結びつくなどなど、ふんだんなデータから僕たちの未来に何が待っているかが明らかにされていきます。
本書では、人々の働き方が変わる要因は、以下の5つのトレンドによるものだと述べられています。

①テクノロジーの発展
②グローバル化
③人口構成の変化と長寿化
④個人、家族、社会の変化
⑤エネルギーと環境問題

そのような環境変化の中で、人々が主体的に以下の3つにワークシフトすることが必要になってくると説かれています。

①広く浅いゼネラリストではなく、専門技能を次々習得する連続スペシャリストへ
②孤独な競争から、みんなでイノベーションする協創へ
③金儲けと消費から、価値ある経験の選択へ

このようなシフトは、「予想」ではなく「予測」、つまり今すでに起きているトレンドの延長上にある必然だということです。

企業やブランドは、この未来予測をどう捉えるべきでしょう。
人々の働き方が変わるなら、当然、ライフスタイルや価値観も変わっていきます。ならば、企業やブランドから人々への提案も変わっていかなければならないはずですよね。

特に③のように「お金や消費ではなく、自分にとっての価値ある経験」を主体的に選択する働き方は、そのまま消費行動にも影響を与えます。企業やブランドの従来の価値観による一方的な商品やサービスの提案は、意味がなくなっていきます。企業やブランドは、一人ひとりにとってどれだけ価値ある経験を提供できるか、そのサービスや商品に、一人ひとりと関与するどんな意味やストーリーがあるのかが問われるようになっていくわけです。
ならば、企業やブランドは今からその対応をしていく必要があります。提案するサービスや商品もコミュニケーションも、究極的には一人ひとりの価値観にどう最適化していくかを考えていかなければなりません。

これらは「すでに起こった未来」です。本書には以下のように結論づけられています。

「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生がある。

これは人々に向けられたメッセージですが、企業やブランドにも同じことが言えるはずです。人々の未来を拓く提案をしていくために、今こそ動く必要があるわけですね。

京井良彦


Posted: 2013年12月12日 13:17 | コメント(1)