DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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ウェアラブルが変える僕たちの未来とは?

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

昨年あたりから、急速に話題になっている「ウェアラブル」。今回は、佐々木俊尚さんの新著『ウェアラブルは何を変えるのか?』を取り上げましょう。

「ウェアラブル」(正確には「ウェアラブル・デバイス」ですが)とは、人の身体に装着できる形状のITデバイスのことです。すでに、眼鏡型、腕時計型、フィットネス・ブレスなどは、一般向けに販売されていますね。
先日ラスベガスで開催されたエレクトロニクスの見本市「CES 2014」でも注目度が高く(編集部注:CES2014のイベントレポートはこちら)、3月にはウェアラブルのイベントが東京で開催される予定だったり、2014年はウェアラブル祭りになること必至です。
ただ、このように次々と発表される製品が、ウェアラブルの本質的な価値を見極められてのものかどうかは、まだ疑問という感じもあります。

本書では、ウェアラブルの登場をIT業界における一過性の流行りではなく、僕たちの未来を大きく変えるであろう、重要な兆しとして位置付けています。
たとえば、こんな捉え方がされています。

「単に眼鏡にカメラをつけたとか、腕時計に液晶画面をつけてメール着信ができるようにしたといった『電子オモチャ』的な捉え方ではなく、体に装着することで体の感覚を拡張し、インターネットと身体をダイレクトにつなげていく基盤になるものだ」

ウェアラブルの価値は、常に身体に装着されているところにあります。それによって、身体内部の情報と外界環境の情報が蓄積されていくのですね。
つまり、ウェアラブルは、単にスマートフォンの情報を眼鏡や腕時計上に表示するものではなく、心拍や運動量、体温、血圧といった身体の状態や、気温や湿度といった外界の状態をセンサーで取得し、これらをクラウドに送信してビッグデータ解析をしていく入り口になっていくわけです。

本書では、ウェアラブルが活用されていく世界についても解説されています。たとえば、自動車メーカーやグーグルが開発を進めている自動走行車から、高速道路や水道設備、ビル設備、病院、送電、街角の防犯カメラなど、あらゆる都市インフラにセンサーを組み込んでリアルタイムに計測し、その情報に基づいて運用が行われる構想です。

「アナログなモノをネットにつなげるための『媒介役』になるのが、センサーです。モノそのものはネットにつながらなくても、モノの状態をセンサーで測り、そのデータを通信モジュールによってクラウドに送信することで、擬似的にネットにつながることが可能になる」

米インディアナ州のある市は、頻繁に氾濫事故を起こす古くなった下水を、多額の予算をかけて作り直すのではなく、下水路の各所にセンサーを取り付けて汚水の量をコントロールするという選択をしたそうです。このようなことが、あちこちで起きているというのです。

これが、ウェアラブルとどうつながるか、分かりますか?
今後5年、10年で、ITの世界は、単にバーチャルなネット空間の中に存在するものではなく、リアルな空間を、センサーを媒介役として取り込んでいく方向へと大きく進んでいきます。
これは、「Internet of Things」、つまり「モノのインターネット」と言われる概念です。あらゆるモノ(それは人の体内の要素も含みます)とクラウドが接続され、ネットワークが形成されていく。そんな中、ウェアラブルもこの大きな潮流の一部として位置づけられるべきというわけです。
本書にはこのような説明がされています。

「ウェアラブルによって、身体とITがダイレクトに接続されていくような未来が作られ、クラウドに置かれている情報や知識は、すべて身体とリアルタイムでシンクロナイズしていくということになるのかもしれません」

こうなると、ウェアラブルで取得される情報から、本人の意識していないニーズを捉え、コミュニケーションを成立させることが可能になっていきますね。
たとえば、ターゲットの体内の情報から空腹値を算出し、GPS情報との掛け合わせで最寄りのハンバーガーショップをレコメンドしたり、その情報を自動的にソーシャルにシェアしたりするというようなものです。

果たして僕たちがこんな世界を望むかどうかは別にして、これはもうSFの話ではなく、目の前に迫っている現実です。人とテクノロジーは、ますます共進を遂げていき、コミュニケーションは無意識の領域に進んでいくということです。
このままいくと、これまでのコミュニケーションのあり方もガラリと変わりそうです。人間はどんどんバカになっていきそうな気もします。僕たちも、広告人として、いやその前に一人の生活者として、来るべき世界に向けて準備をしなければなりませんね。

京井良彦


Posted: 2014年1月30日 00:18 | コメント(0)

「グロースハッカー」

Book reviewer: 廣田 周作 / Shusaku Hirota

グロースハッカーという言葉を知っていますか?
広告業界の人には聞き慣れない言葉かもしれません。
どうせまた、現れてはすぐに消えていく、
数あるバズワードのうちの一つでしょ?くらいに思われるかもしれません。

しかし、今、このグロースハッカーという新しい肩書を持った人たちが、既存のマーケティングの手法を根本から変えようとしているとことは、知っておいて損はないと思います。

グロースハッカーとは、英語で Growth+Hacker つまり、直訳すれば、「成長を促すハッカー」という意味になります。「ハッカー」というと、中にはセキュリティを突破するちょっと怖い人達のイメージを持っている人もいるかもしれませんが、本来の意味は、主にコンピュータや電気回路一般について常人より深い技術的知識を持ち、その知識を利用して技術的な課題をクリアする人々のことを指します(wikipedia)。悪い意味で使われているわけではないのです。(ちなみに、ライフハックという言葉も流行りましたが、これも、技術を上手に生活や仕事に取り入れて、生活の質を上げていく方法という意味で使われています)。グロースハッカーとは、「技術に長けた、ブランドの成長請負人」と言っていいかもしれません。

本書は、このグロースハッカーなる職種の人のことを「新世代のマーケティング担当幹部である」と評しています。既存のマーケティングチームは「淘汰される」とまで書かれています。これは、私たち「既存の」マーケターにとっては聞き捨てならない非常に強い表現です。実際、著者のライアン・ホリデイ(アメリカンアパレルのマーケティング責任者)自身が、グロースハッカーという存在に対して、衝撃を受けたと述べています。

「「グロースハッカー」という新しい職種は、シリコンバレーの文化と融合している。そして彼らの存在は、優秀なマーケターにとって、コーディング能力と技術的な知識が重要になってきていることを示している。グロースハッカーはマーケターとエンジニアのハイブリッドで、「うちの製品の顧客をどうやって獲得するか」という旧来の課題に、A/Bテスト、ランディングページ、バイラル係数、メール到達品質、オープングラフなどを駆使して答える。(中略)これまでのマーケティングチームは淘汰される。マーケティング担当幹部率いる非テクニカル系マーケターのチームに代わるグロースハッカーとは、エンジニアが率いるエンジニアのチームなのだ」

グロースハッカーたちは、広告業界で長らく使われてきた「マインドシェア」や「シェアオブボイス」といった指標にはほとんど目もくれません。ビッグデータによって可視化された膨大なユーザの情報を元に、メッセージやサービスの改善を繰り返すことで、顧客を増やすアプローチを徹底的に検証しながら最適な方法を突き詰めていくところに特徴があります。

したがって、彼らはコミュニケーションを広告ありきで考えません。

「製品の立ち上げに当たっては、これまでマーケターに期待されてきたような、無からでっちあげる派手なキャンペーンは必要ないのだ」

グロースハッカーは、サービスそれ自体に深くコミットして、サービスが自然に拡散性を持つようなアプローチを考えます。製品開発とマーケティングを同じプロセスの中で考え、相互作用させていくのが彼らのやり方です。

エバーノートや、ドロップボックス、インスタグラムといったサービスがほとんど広告を打たずにユーザ数を獲得してきたことを考えれば、その驚異の拡散性は理解出来るでしょう。

「グロースハッカーの目標は、製品自体を数百万人の顧客にリーチする自己永続マーケティングマシンにすること」と言います。

つまり、グロースハッカーとは、サービスデザインとマーケティングデザインの垣根を取っ払い、サービスそのものが提供する「ブランド経験」が、同時に、他の顧客への「コミュニケーション(マーケティング)」にもなるような仕組みを設計出来る人達のことなのです。クチコミが自然に発生するような仕掛けや、ユーザがユーザを連れてくるような仕組みを考えながら、効率を最大化するのが彼らの仕事です。

グロースハックを行うための具体的な手法や、事例などは、是非、本書を読んで頂ければと思うのですが、この本の中の主張で非常に大事なのは、「グロースハッカーになれるか? それはマインドセット=考え方を変えられるかどうかに尽きる」と述べられていることではないかと僕は思います。テクノロジーが苦手だからといって、グロースハッカーになれないわけではないのです。そもそも、サービスとプロモーションを分ける発想や、まずは、「広告ありき」でついつい考えてしまう発想をやめて、サービス自体が人を引き付けるにはどのような改善が必要か? どこに顧客がいて、何を欲しているのか? 本質的な発想に立ち返ることがまずは重要なのだと思います。(もちろん、技術を使いこなせることも重要なので、習得していく努力は必要なのですが)

マーケターとして、僕らもブランドやサービスの本質からまず考えられるように、マインドセットを変えていく(あるいは、忘れがちになっている重要なことを再度思いだす)ことが重要なんだと思い知らされる一冊です。


PFB局廣田周作


Posted: 2014年1月16日 07:55 | コメント(0)