DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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5年後メディアが稼ぐためには何が必要か?

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、『5年後メディアは稼げるか』(佐々木紀彦著、東洋経済新報社)を取り上げましょう。
ご存じ、佐々木紀彦さんは、東洋経済オンラインの編集長。1979年生まれで、まだ30代半ばのニューヒーローです。
本書は、主に新聞や雑誌の紙メディア業界の話ですが、テレビ、そして広告業界にも当てはまるでしょう。
すべての変化は「メディア新世界」の到来に起因しています。
メディア新世界とは、紙からデジタルに主役が逆転する世界です。
しかし単に、紙の読み物がウェブになるというだけの話ではありません。
本書によると、「デジタルを起点にして、紙、広告、イベントなどのすべての戦略を考えるようになり、人事面でもデジタル部署に社のエースを投入するようになる」といいます。

本書では、メディアのマネタイズモデルは8つに整理されています。
「①広告、②有料課金、③イベント、④ゲーム、⑤物販、⑥データ販売、⑦教育、⑧マーケティング支援」の8つです。
現在、この中の収益の柱は「広告」と「有料課金」。ただ収益の安定性とジャーナリズムの強化という観点で、広告依存度が高いことはリスクだといいます。
ならば、デジタル化したメディア新世界では、有料課金こそを収益の本命にしていくべきという主張です。
その具体的な方法論は、「フリーミアム」。ヒントは成功しているネット企業のビジネスモデルにあるとしています。

たとえば、ドワンゴが運営するニコニコ動画です。
ここは、無料視聴でPVを稼ぎながらも、収益の柱はプレミアム会員からの収入になっています。プレミアム会員には、混雑時の優先権の他、出演者と電話で話せるなどの特典があります。
また、料理レシピサイト「クックパッド」もフリーミアムの成功モデルです。プレミアム会員は、人気順検索が使え、殿堂入りレシピなどがすぐに閲覧できます。
本書では、これらから学べばメディアができることはたくさんあるとして、例が挙げられています。

「広告表示もページ分割もない特別なレイアウトを提供する」
「無料のイベントに会員を優先招待する、もしくは有料イベントを割引する」
「好きな筆者に質問を送ることができる」
「自分の興味に合った記事が読めるパーソナライズ機能を追加する」
「世界中の企業を網羅した企業検索サービスを使える」
などなど、考えうるオプションを総動員し、コンテンツと組み合わせて有料会員を募る。

有料課金へのシフトとは、すなわち、広告収入に頼っていたためにPV至上主義になっていた体質からの脱却を意味しています。
では、広告はどうすればいいのでしょう?
本書では、「広告を面白くする。それに尽きる」と明言しています。
これは今年のバズワードのひとつ、コンテンツマーケティングに通じるものでしょう。

デジタルに置き換えられるものは、際限なく価格が落ちていきます。しかし、面白いもの、クリエイティブなもの、数字に換算できないものは、過当競争に陥りません。ですから、広告主がおカネを出したくなるような、面白い広告を創る力を高めることに全力を注ぐべきです。ネット広告をコモディティー化から救うのは、テクノロジーではなく、人間の力なのです。

ネットの世界ではメディアの数が無数になる一方で、広告主企業の数は変わりません。となれば、相対的にメディアの価値が下がり、広告主企業の力が高まります。
さらに今後は、本書にもある通り、広告主企業がジャーナリストを雇ってオリジナルコンテンツを創ったり、読者データを集めてターゲッティングしたりすることも増えていくでしょう。広告主企業の力は、ビジネス、コンテンツの両面で増していくわけです。
そうなると、「メディア側の広告担当はこれまでと比較にならないほどの能力とセンスが求められる」と述べています。

単なる営業力だけでなく、コンテンツの企画力、アドテクノロジーへの造詣、紙やイベントとパッケージ化した販売戦略など、あらゆることに精通しなければなりません。複数の領域をまたぎ、つなげるという点では、編集者の素養とも重なります。つまり今後は、広告担当者の"編集者化"が進むのです。

これまでのメディアでは、「編集」と「広告・ビジネス」とは分離されているものでした。しかしこう見ると、今後この2つは融合していかざるを得ないことが分かります。

このようなメディア新世界で生存していくために、具体的に必要なスキルセットはどのようなものでしょう。
本書では、メディア界隈に存在する人たちを「紙メディア族」「ウェブメディア族」「ビジネス族」「テクノロジー族」の4つに分類しています。
本来の有望なキャリア形成は、これらの族のなかで抜きん出る存在になることですが、それは簡単なことではありません。
なので、これからは、今の自分のポジションがどの族なのかを理解した上で、異なる族のスキルを掛け合わせて差別化していくことだといいます。

たとえば、

- 紙メディア族+ウェブメディア族=コンテンツ作成のプロ:次世代エディター、次世代ライター。
- ウェブメディア族+ビジネス族=ネットマネタイズのプロ:オンラインプロデューサー。
- ビジネス族+テクノロジー族=データのプロ:データサイエンティスト、デジタルマーケター。

などなど、計10パターンが例示されています。

5年後の稼ぐ姿が、おぼろげに見えてきたメディアビジネス。
今度は、それを実現する人の育成が急務になっているようです。


Posted: 2014年3月25日 20:52 | コメント(0)

最近、クライアントから「コンテンツマーケティングに興味があって、当社でもちょっと取り組んでみたいのですが、どういう風にやっていけばよいか相談させてもらえませんか?」と聞かれることが立て続けにありました。

 

コンテンツマーケティングという言葉は、調べてみるとネット上では既にバズワードになっているようで、(様々な誤解や、間違った解釈なども含めて)その新しい「手法」への興味がマーケターやウェブ担当者、あるいはブランドの担当やPRの担当者の間で高まってきているようです。

 

広告会社の中には、「コンテンツでマーケティングを行う?? それって、我々広告会社がこれまでずっとやってきたことなんじゃないの?」と即座に思う方もいらっしゃるかもしれません。

 

でも、(この本を読めば)答えはNO。広告とは違うということが分かります。

 

では、コンテンツマーケティングとは、一体、どのようなマーケティングの概念なのでしょうか? それは、僕らマーケターにとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか?

 

本書の第一章から、この言葉の定義となる部分をすこし引用してみましょう。

 

(コンテンツマーケティングと)典型的なマーケティングや広告手法との違いを挙げるならば、コンテンツを使うことは販売でもなく、広告でもないことだ。

 

対象となる消費者グループに対してメッセージをスプレーで噴きつけるようなプッシュマーケティングでもない。むしろ、相手を引きつけるマーケティングである。消費者が必要だと探しているときに、信頼できて、わかりやすく、役にたち、思わず注目したくなり、魅力的で、面白い情報がそこにあるという状態にすること。つまりは、引きつける戦略のことだ。(下線は筆者)

 

本書には、コンテンツマーケティングを成功に導かせるためのガイドラインとして、かなり細かいテクニック論や具体的なソリューションやツールも紹介されているのですが、上記の引用の通り、コンテンツマーケティングの一番の鍵は、いかにお客さんを引きつけるか?ということにあるようです。

 

広告ではいかにお客さんに見てもらうか?(アテンションを稼ぐ)ことに力点があるとするならば、コンテンツマーケティングは、いかにお客さんが自発的に見に来てくれるか(インテンションを誘発する)ことに力点があります。要するに、マーケターがいかにお客さんにうるさい、とか、うっとうしいと思われないように、自然と役に立つ情報を提供できるか? つまり、コンテンツマーケティングを行うためには、マーケターがお客さんに向き合う際の姿勢、大げさに言えば、「思想」がとても大事になってくるのだと思います。

 

思想が抜けたまま、表面上のテクニックだけを取り入れると、ステルスマーケティングに加担してしまったり、ユーザにうるさいと思われてしまったりして、むしろブランドの信頼を損ねてしまうこともありえます。

 

ちなみに、こうしてコンテンツマーケティングの基本的な考え方を理解していくと、この本につけられた(ちょっと謎めいた)タイトル「編集者のように考えよう」の意味が分かってきます。

 

これまでのマーケターは、(未だに打ち合わせなどで、「刈り取り施策」なんて言葉を平気で使う人がいるように)顧客をハントする(狩る)発想でマーケティングのプランを考えてきましたが、これからのマーケターは、コンテンツを使って、顧客に見つけてもらったり、関係性を築いたり、長期的に育てていく、という視点が必要になってくるといえます。

 

市場を細かくセグメントして、そこにどういうビークルを使ってメッセージをリーチさせようか?と発想するのではなく、潜在的なお客さんが課題に思っているであろうことを想定して、自社のリソースをやりくりしながらその課題に答えたり、楽しませたりするコンテンツを創造していくわけです。そういったことを実現しようと思うと、新聞や雑誌で魅力的な記事を企画している編集者的な視点が必要になりますよね。

 

もし、今後コンテンツマーケティングがより浸透していくとしたら、コンテンツを作れる人=「編集者」はさらに活躍のフィールドを広げていけるようになるかもしれません。また、これまでの広告を担当してきた人も、発想を変えて、コンテンツマーケティングを理解し、新たなチャレンジをしてみることによって、顧客との新しい関係性を作れるようになるかもしれません。

 

編集部注:『~編集者のように考えよう~ コンテンツマーケティング27の極意』の翻訳を手がけた電通iPR局郡司晶子氏のインタビュー記事はこちら(http://dentsu-ho.com/articles/778)


Posted: 2014年3月13日 11:15 | コメント(0)