DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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言葉の技術

Book reviewer: 廣田 周作 / Shusaku Hirota

今回は、電通のクリエーティブ・ディレクター/コピーライターの磯島拓矢氏の『言葉の技術』を取り上げます。本書は、タイトルの通り、人に伝わる言葉とはどういうもので、どうすれば書けるようになるのか、といった「言葉」を考えるプロセスがとても分かりやすく書かれています。(まだぺーぺーの僕が、会社の大先輩の本の書評をするだなんて、僭越なことをしてスイマセン。いちプランナーとして読んで感動したので、どうしても感想を書いておきたいと思ったのでした。偉そうにスイマセン。しかも、ちゃっかりスイマセンという文体をまねしてスイマセン)

本書は、基本的には、コピーライターやコピーライター志望の方向けに書かれてはいますが、普段なかなか上手く企画書が書けないと悩みを抱えている僕のようなプランナーやマーケターにとっても、というか、言葉に関わる人なら誰でも(=つまり、誰にとっても!)とても勉強になる本です。

ただ、この本は(本書でも指摘されている通り)ちまたによくある「文章術」のような内容にはなっていません。また、思いつきやひらめきを生むための安易な「アイデア術」のような内容も書かれてはいません。作者である磯島氏は、「コピーは、パッとした思いつきやひらめきから生まれるわけではなく、伝わる「言葉」は「考え」に限りなく近いことである」と述べています。つまり、伝わる言葉に近道はないということです。

この指摘が本書の一番の重要なポイントだと思いました。

僕は、これまで素晴らしいコピーとは、一部の特殊な才能やセンスを持った人が、まるで即興詩人のようにぱっとひらめいて、一瞬で書き切っているかのような先入観を持っていました。(だから、センスのない自分には言葉を書くのは無理だと思っていました)でも、実はそうではなくて、コピーライターは、人よりたくさん考えているからこそ、クライアントや生活者に、「なるほど!」と思ってもらえる表現になるというのです。つまり、僕が良い文章を書けないのは、センスの問題というよりも、考え抜いていないことこそが問題である、ということです。センスがないことを言い訳にできず、自分はただ考え抜いていないということが分かってしまうのは、とてもつらいわけですが、人よりも一歩深く考えることで伝わる表現にたどり着けるということには、救いもあります。

磯島氏の言葉を、少し本文から引用してみましょう。


僕らコピーライターにチャンスがあるとしたら、広告を見る人もクライアントさんも忙しいということです。なんだか情けないチャンスですけどね。広告を見る人もクライアントさんも、その商品についての言葉は、第一印象で止まっています。最初に思いついた言葉で止まっています。なぜなら(繰り返しますが)忙しいから。みんなに「なるほど」と言ってもらうコピーを書くためには、その第一印象や思いつきでは届かない所まで、考えればよいわけです。より深く考えればよいわけです。



そして、磯島氏は本書を「言葉を伝えるために言葉を強くする技術ではなく、人に伝えるだけの価値ある言葉を見つける技術」と称しています。言葉自体を磨き、輝かせていくのではなく、人が受け取る時に価値として見てくれるような表現を見つける=考えるということです。

本書では、電通の新入社員研修で出された課題と、新入社員が応えた実際の解答を具体的に取り上げながら、それがどれだけ考えられている言葉なのか、どういう価値を生んでいる言葉なのかが解説されていきます。(考え抜かれた言葉がいかに鮮やかか知りたい人はぜひ、本書を手にとってみてください。使われている言葉はシンプルで簡易ですが、とても伝わってきます。コピーライターという職種の方に改めて敬意の念を抱きました)

僕は普段、主にデジタル領域のソリューションの開発やプランニングの仕事をしているのですが、技術革新のスピードが速く、それについていくのが精いっぱいなため、ついつい枠組みや仕組みの設計から入りがちです。でも、そもそも、どこにどういう狙いがあって、生活者やクライアントにとってメリットは何なのか?なぜそれを喜んでくれるのか?その視点を考え抜くことが重要です。僕の今の仕事は、言葉を考えること自体が仕事の中心ではないですが、WHATなきHOWには、価値は宿りません。この仕組みには、どんな価値があるのか?一歩深く考えること。伝わる言葉は考えるに近くなる。伝えるという意味では、どの部署もどの職種も一緒です。一歩深く考えること、その重要性を改めて知ることができた一冊でした。


Posted: 2014年5月22日 11:13 | コメント(0)

はじめまして、DMCラボの書評ライター5人目、藤田卓也と申します。
メンバーの中では最年少で、社会人3年目になったばかり。職種はコピーライターなのですが、デジタルネイティブ世代ということもあり、ソーシャルを活用したキャンペーンやアプリを企画することも多いです。
ライター陣ただひとりの20代でもありますので、若者世代ならではのリアルな目線から、これからのコミュニケーションについて考えていきたいと思います。

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、アビー・グリフィン他著の『シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(プレジデント社)を取り上げます。

ビジネスのルールを変え、生活を変え、ときとして数百億円レベルの稼ぎを生み出すイノベーション。それを大企業の中で、しかも何度も繰り返せる人材。「シリアル・イノベーター」とは、そんな魔法使いのようなビジネスパーソンのことなのです。
本書がひもとくのは、単なるその特徴の紹介にとどまりません。彼らが持ち合わせる能力の詳細な分析から、発掘と育成の秘訣、さらにはマネジメントのあり方にいたるまで実に幅広いレイヤーでシリアル・イノベーターの謎を解き明かしていきます。

広告やコミュニケーションとは無縁の本に映りますが、実は広告会社の中でイノベーション関連の話題はとてもホット。ラボメンバーの元には、さまざまなクライアントから広告に関する相談のみならず、新規事業の立ち上げや経営戦略といった課題も舞い込んできます。そんな現場で、クライアントが今まさに必要としているのはシリアル・イノベーターだからです。

10人の会社に天才は何人いるだろうか。答えは1人だ。100人の会社ではどうだろう。答えは2人。では1000人の会社では?パターンは見えている。3人だ。それでは1万人の会社では?答えは4人ではなく、ゼロだ。大企業では、天才やイノベーターは追い出されてしまうんだ。

と、本書で紹介されてしまうほど大企業に珍しいシリアル・イノベーター。巨額の利益を企業にもたらす可能性がある一方で、その独自の働き方やプロジェクトプロセスは組織の中で問題を引き起こすことも。
たとえば、シリアル・イノベーターの代表例として何度も紹介される、トム・オズボーンも例外ではありません。P&Gの研究員である彼は、年間数十億ドルを稼ぐ生理用ナプキンブランドを育て上げました。しかしそこに至るまで、彼は問題社員の烙印を押され、解雇寸前にまで陥っていたのです。会社としてのサポートはすべて打ち切られ、オフィスと電話しか与えられていなかった時期もあったというのですから驚きです。

彼らは、普通の社員といったい何が違うのでしょうか?
本書ではその能力を、「MP5モデル」という独自のフレームで徹底解剖していきます。

①パーソナリティ:全体像を捉えようとするシステム思考が身についている
②パースペクティブ(仕事観):「とにかく利益を生み出したい」というビジネス観と、「利益よりも、世界をよりよくしたい」という倫理観のバランス
③モチベーション(やる気):解決すべき問題を抱えた顧客や企業が目の前にあるという外的要因と、自分の中にある創造への欲求という内的要因
④プレパレーション(準備・心構え):生涯を通じて学習者であろうとする姿勢

以上の要因に加え、

⑤プロセス
⑥社内における政治駆け引き(社内政治)

といった、組織の中での動き方をプラスした6つの能力がシリアル・イノベーターの特徴です。

こんなにたくさん図抜けた能力を持っていたら、そりゃあイノベーションのひとつやふたつ...とも思ってしまいますが、圧巻はここから。彼らはこの6つの能力を駆使して、全く新しいイノベーション過程を実現してしまうのです。その過程とは、「イノベーター主導型」と呼ばれるもの。
通常、イノベーションには大きく2つのタイプがあるといわれてきました。1つ目が、企業の研究開発部門からスタートする、「技術主導型」。そして2つ目が市場のニーズを発見することで始まる「市場主導型」です。
実はこの2つ、それぞれいいところもありますが欠点も多い。技術主導型は、技術を画期的な商品に応用することができず、企業に利益をもたらさない「打つ釘のないカナヅチ」づくりになってしまうことがあります。市場主導型は、市場にニーズはあるんだから開発さえできれば大ヒットまちがいなし!...と思っていたら開発に10年も20年もかかってしまい、できたころには市場が変化していた...なんてことも。

そこで今回、本書が注目したのがシリアル・イノベーターたちが起こす、第3の道筋である「イノベーター主導型」のイノベーション。
簡単に言ってしまえば、技術開発も顧客インサイトも市場ニーズの発見も、同じ人間がすべてやってしまうことです。彼らは画期的な技術の探求も、顧客ニーズの精緻な理解も、市場という大きなマーケットの分析も、全部を何度も行ったり来たりしてプロジェクトを引っ張っていくのです。


本書を読めば、明日からあなたもシリアル・イノベーターに変身できる。そんな本ではありません。むしろ400ページにも迫るボリュームの中に詰め込まれた鋭い知見と豊富な実例に触れれば触れるほど、すべての人がシリアル・イノベーターになれるわけでもなさそうです。ちょっと落ち込みます。
でも、日本語版の監訳を務められ、東京大学i.school(http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/)など日本におけるイノベーション人材育成の第一人者である市川文子・田村大の両氏は、巻頭にこんな言葉を載せておられます。

「シリアル・イノベーターとして、あるいはシリアル・イノベーターと共に企業で働くこと。それは会社員としてイノベーションを起こし、社会にインパクトを与える生き方の選択だ。(中略)不屈の意志でイノベーションを成し遂げる社員の存在は、企業の明るい未来そのものといえるだろう。」

イノベーションは個人の専売特許ではなく、チームが積み重ねた努力の結晶である。そんなメッセージこそ、大企業で働く人々にとってなにより響くのではないでしょうか。

藤田卓也 第3CRプランニング局

東京大学大学院 工学系研究科を修了後、2012年電通入社。コピーライターとして、コピーやCM制作だけでなく、デジタル領域の企画なども手がける。


Posted: 2014年5月 7日 19:14 | コメント(0)