DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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今回は、戦略PRの第一人者でブルーカレント・ジャパン代表取締役の本田哲也氏と、多種多様なメディアに関わり、現在はLINE株式会社上級執行役員法人ビジネス担当を務める「メディア野郎」こと田端信太郎氏の共著『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』を取り上げさせていただきます。


タイトルに釣られました

広告やメディアやマーケティングに携わる人間にとって、非常に挑発的なタイトルです。私も、まんまと手に取ってしまいました。いやいや、そんな乱暴な言い草はないだろう、と憤慨しながら読み進めていくと、最終的には「本書の書名をより正確に言い換えると〜」というくだりで以下のように言い直されます。


(これまでのように)広告やメディア(だけ)で(たくさんの)人を動かそうとするのはもうあきらめなさい。


なるほど、そういうことであれば、同意するのもやぶさかではない。(偉そう)

「これまでだって(ただ無為に)広告やメディアだけ使えばたくさんの人に動いてもらえるなんて(簡単な)もんじゃなかったですよ!」と言いたい気持ちをぐっと飲み込み(書いてますが)、確かに、メディアが多様化し、情報が氾濫している今の世の中は、そっちを向いているのは間違いありません。

それでは、これから、ただ無為に、広告やメディアだけを使うのではなく、たくさんの人を動かすためには、いったいどうすればいいのでしょうか?

クロスメディアで多角的、多重的にメッセージをリーチさせる?
ソーシャルメディアでバズを起こす?
そうか!今流行りの「☓☓☓☓マーケティング」を導入すればいいのか!
いえ、田端氏による「まえがき」には


マーケティングにおける「不易流行」。特に「不易」を意識しつつ本書を読んでいただき、表面的テクニックやトレンドとは別の本質を感じ取ってほしいと思う。


とあります。マーケティングにおける「流行」は無意味ではないが、それよりも大切な「本質」がある、というのです。本書が語る「マーケティングの本質」とはいったい何なのでしょうか。


マーケティングとメディアについてのリアルな現状認識、主導権は受け手に移りつつあり、事前にすべてはコントロールできない

田端氏の執筆するPART1「『たくさんの人に見てもらえるほどよい』は本当か?」では、マーケティングとメディアについての現状認識に関して重要な2つの指摘があります。


・情報爆発時代において主導権を持つのは「受け手」
・演説ではなく会話を。事前にすべてをコントロールしようとする発想をあきらめる


HDDレコーダーによるテレビ番組のタイムシフト試聴や、ウェブに転載された新聞や雑誌の記事は、これまで情報の発信者(=広告やメディア)にあった「編集権」や「編成権」を受け手に移行させました。テクノロジーは、ユーザーにとって便利で使い勝手がいい方向に進化していくので、この流れは止められません。今まで広告やメディアが持っていた強い力が相対的に弱まる中、訴えたいことを聞いてもらうには、一方的な「演説」(=マス広告やSEMなど)だけではなく、個人と個人が向き合った「会話」(=ソーシャル拡散やPR、SEOやコンテンツマーケティングなど)が重要になっていくのも、必然的な流れといえます。

田端氏が企業のマーケティング・コミュニケーションを「選挙活動」に例えて説明した箇所は、非常にイメージしやすく分かりやすいので、ぜひ本書でご確認ください。


それでも人を動かすためには?

本田氏の執筆するPART3「『人を動かす』ことをあきらめない」では、人を動かすことの「原点」について考察し、その3つの要素として心技体があげられています。


「心」=人の気持ち、感情、本音(インサイト)
「技」=メディアやコンテンツの戦略と戦術
「体」=体感、体験


この中で特に「不易」であるといえるのは、「心」という要素です。人を動かすには正しいインサイト(本音)を捉え、人が動く閾値ともいえる「ココロの沸点」を発見することがポイントであると本田氏は述べていますが、いつの時代でも人間の本質的な感情や欲求、心の動きは、社会や文化の影響を受けるにしても、そんなに大きくは変わらないからです。
本書では心の要素の例として、以下のようなものをあげています。「虚栄心」「横並び心」「使命感」「連帯感」「同情心」「共犯意識」「お祭り心」「スケベ心」「信仰心」「コミュニケーション欲求」などなど。どれも皆さんが、そして時代を超えてすべての人間が持つものではないでしょうか。私自身を振り返ってみても、何か行動を起こしたときには、これら心の要素の影響に思い至ります。(だいたい「見栄」であったり「嫉妬」であったり「恥」であったりと、しょうもないものであることが多いのですが)

そして、「人を動かす戦略立案」の具体的な手順として「5つのステップ」が紹介されています。


[ステップ0]まず、「目的」を必ず明確にする
[ステップ1]「ターゲットインサイト」を洗いざらい出してみる
[ステップ2]「目的」と「インサイト」をお見合いさせる
[ステップ3]「ココロの沸点」を起こすために何を伝えるか決定する
[ステップ4]「ココロの沸点」体験となるコンテンツを用意する
[ステップ5]「お金のかからない順に」伝える施策を決めていく


この中で「マーケティングにおいて不易かどうか」という視点から重要なポイントは、[ステップ2]から[ステップ3]にかけてではないでしょうか。ここから生まれるのが、マーケティング・コミュニケーションにおいて「コアアイデア」と呼ばれるものだからです。また、意外とおざなりになりがちなのが[ステップ0]ではないでしょうか。本書では「目的を明確に」というと『具体的にどれくらいの人数に、具体的にどのような行動をとってもらうのか』というレベルまでクリアにすることを指しています。ここが「できるだけたくさんのターゲットに...」「うまくいけば購買行動まで...」と、曖昧なスケベ心をはらんだまま進んでしまうことが多くありませんか?目的がぼんやりしたままだと「目的を達することができるインサイトなのか?」「そのインサイトを突き、ココロの沸点を起こせるコミュニケーション・プランなのか?」という先のステップもぼんやりしたものになってしまいます。

人を動かすための戦略立案は、その目的に合ったテーラーメードでなければならず、つまり、カラダのサイズ(=目的)を具体的に把握していなければ、フィットするものはつくれない、ということです。


1000人から10億人まで、動かしたいスケールごとに具体的にイメージを持つ

おふたりの対談となるPART2「なぜ、人は『動く』のか?―1000人から10億人まで、スケールごとに考える」は、非常にユニークで、1000人の場合、1万人の場合、10万人の場合、100万人の場合、1000万人の場合、1億人の場合、10億人の場合と、それぞれのスケールごとに事例を紹介しています。

対象となる数字が、ボランティアの参加人数だったり、有料メルマガの購読者数だったり、ミュージカルの総観客動員数だったり、宗教の信者の数だったりと、純粋に人の規模として比較するにはその意味合いが統一されていない、という難点はありますが、人が動くさまをざっくりと俯瞰で捉えるという意味では問題ありませんし、このような「動かされた人数の規模別に分類、考察してみる」という試みは、今までになかった発明といえるのではないでしょうか。「目的を明確に」するにあたって、ぜひイメージとして持っておきたい内容です。


さいごに

私は本書の要点(「これから、広告やメディアだけを使うのではでなく、たくさんの人を動かすためには」どうするべきか?)は、以下の3点に集約されると感じました。あらためて書き出します。

①マーケティングとメディアについてのリアルな現状認識を持つこと(主導権は受け手にあり、事前にコントロールはできない)
②マーケティングの目的は、動かしたい人の規模、どういう行動をとってもらいたいかまで、具体的・明確に設定すること
③目的を達成するための「ココロの沸点を起こす」インサイトを見つけること

私が力いっぱい釣られることとなりました本書のタイトルですが、本稿の冒頭で引用しました補足の他に、もうひとつ解釈に関する仕掛けが施されています。それが何かについては、ぜひ、本書を手にとって、実際に目を通してみてください。


Posted: 2014年9月19日 09:15 | コメント(0)

今回は、『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』(翔泳社)というビジネス書を取り上げましょう。主著者のニール・イヤール氏は、心理学とテクノロジーを経営学に取り入れて活動しているコンサルタントです。

原書のサブタイトルに、「How to Build Habit-Forming Products=商品の習慣化を築く方法」とあるように、本書は一貫して「いかにして商品やサービスを習慣的に使ってもらう仕掛けをつくるか」をテーマにしています。

例えば、フェイスブックやツイッター、LINEなどのサービスは、皆さんの日常生活で自然と使われていますよね。ビジネス的な視点でいうと、これらは誰もが認める成功したサービスといえるでしょう。でも、もちろん、成り行きで何となく成功したはずはありません。これらのサービスが皆さんに選ばれるのには、きちんと理由があるようです。

それは本書によると、顧客に対して「習慣を提供すること」に成功したからだといいます。つまり、戦略的に「人々がハマるように仕掛けた」結果だというわけです。

本書では、このような豊富な事例から、人々の行動が習慣形成されるメカニズムを心理学的に解明しています。そして、そのメカニズムを「フックモデル」と名付け、ビジネスに活用できるように体系化しています。このモデルは、早くもスタートアップ企業にとってのバイブルといわれているようです。

本書が唱えるフックモデルは、顧客に対する4つのアプローチから成り立っています。まとめると、おおよそ以下のようなものです。

①トリガー(きっかけをもたらす)
これは、顧客に「次にどういう行動をしてもらうか」を促すものです。たとえば、よくウェブサイトに出てくる「今すぐクリック」などという直接的な誘因などはまさにそう。こういったものは、外的トリガーと定義されています。
しかし、もっと大事なのは内的トリガーと定義される、人の心の奥にあるトリガーを引くことです。たとえば、孤独やさみしさを感じた時に友だちの様子を知りたくてフェイスブックを見たりしますが、これはそもそもフェイスブックというサービスが、内的トリガーを引くプロダクトとして設計されているからなのです。まずは、このトリガーをどう引くかからフックモデルは始まります。

②アクション(行動を促す)
これは、③のリワード(報酬)に期待を持たせ、シンプルな行動をしてもらうことです。シンプルな行動とは、例えばフェイスブックやツイッターなら画面をスクロールする(報酬=友だちの近況)とか、グーグルなら検索ワードを入れてクリックする(報酬=欲しい情報)とか、iPhoneカメラならシャッターを押す(報酬=写真が保存されること)などのことです。
当たり前のことように思えますが、顧客にとってみれば、ここがシンプルであるほど習慣化しやすいということなのです。

③リワード(報酬を与える)
報酬とは、顧客が行動の結果として獲得できるものですが、これは予測不能なものであることが大事だといいます。たとえば、フェイスブックの画面をスクロールしていく場合の報酬は友だちの近況ですが、ここにどんな情報が出てくるか分からないことが大事です。
またフェイスブックに投稿するという行動も、報酬としてどれだけの「いいね!」をもらえるか分からないことがミソなのです。LINEでメッセージを送るという行動もそうです。そのあとの報酬として、友だちからどのような返信が来るか分からないからいいのです。つまり、どのような報酬かが予測できないからこそ興味が持続し、ワクワクが継続するわけです。

④インベストメント(投資させる)
これは、顧客にちょっとした労力を掛けてもらうというものです。イケアの家具は自分仕様に組み立てるというちょっとした作業が入っていることで、自分にとって繰り返し使いたい家具が完成します。それと同じく、たとえばツイッターではアカウント作成時に、数名フォローすることを強要されます。
しかし、このちょっとした労力によって、次回また訪問しようというモチベーションが生まれます。

顧客にこれら4つのステップをグルグルと循環してもらうことで、日常生活における習慣形成がなされ、どんどんそのサービスにハマっていくというわけです。さらに本書では、フックモデルを実際に組み立てる際に役に立つよう、これらをチェックする5つの項目も用意されています。

1.ユーザーが望んでいることは何だろうか?(外的トリガー)

2.なぜユーザーはあなたのプロダクトを使い始めるのだろうか?(内的トリガー)

3.報酬を期待したユーザーがとるもっともシンプルな行動はなんだろうか?その行動を起こしてもらうためにプロダクトをシンプル化できるだろうか?(アクション)

4.ユーザーは現在の報酬に満足しているのだろうか?もっと報酬を欲しがっているのだろうか?(リワード)

5.ユーザーはあなたのプロダクトにどのような「ちょっとした作業」を行ってくれるだろうか?その作業は次のトリガーを生み出し、プロダクトを使用すればするほど改善が見込めるような価値を蓄積するだろうか?(インベストメント)

これらの質問項目に答えることができれば、そのサービスは、晴れて顧客に「習慣を提供する」ことができるでしょう。

ところで、本書の翻訳を手掛けられた株式会社VASILYのCEO金山裕樹さんとは、本書を読む前からお付き合いがありました。金山さん持ち前の野心と論理に裏付けられた経営姿勢には、いつも感服させられていました。

実際、VASILYが展開するファッションコーディネートアプリ「iQON」は、100万ダウンロードを超える成長を遂げていますが、今回、本書によってその成功の陰にはフックモデルがあるということを知り、とても興味深く思いました。

その金山さんは、サービスの提供はもちろん、その広告においても人々を行動させることにこだわりたいと、いつも言っています。そういう意味では、この理論は僕たち広告に関わる者にも、大いに参考にできるものです。

もはや広告に求められるものは、単なる認知の獲得だけではありませんよね。人々を行動させ、その行動を習慣にするところまで期待されていくものです。本書で紹介されたフックモデルは、そんなこれからの広告を考える際にも、大きな示唆を与えてくれるものだと思います。


Posted: 2014年9月 5日 10:08 | コメント(0)