DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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はじめまして、DMCラボの大木天馬です。営業・システム・デジタルプロモーションなどを経て、現在はまた営業の立場でデジタル系の業務を行っています。

今回取り上げるのは「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか 」(NHK出版)。主著者はペイパル創業者、ピーター・ティールです。

シリアル・アントレプレナーの視点・思考が学べる絶好の書


ピーター・ティール氏について説明すると、ペイパルを創業し、その後ライバル会社のイーロン・マスク率いるXドットコムと合併した後イーベイに1.5億ドルで売却。その資本を基にベンチャーキャピタリストとして最初期のフェイスブックへ50万ドル投資し、10億ドルを回収。他にもLinkedInやYelp、Quoraなどの成長中の企業にも投資を行い、成功を収めています。
彼だけでなく、他のペイパル出身者も次々と会社を立ち上げ(前述のイーロン・マスクのテスラ・モーターズ、ペイパル社員3人で立ち上げたユーチューブなど)、成功させています。
次々に新ビジネスを立ち上げては成功させていくペイパル卒業生のことを人々は「ペイパル・マフィア」と呼び、彼らの起業の際にはそのほとんどに出資しているティールは、ペイパル・マフィアの親玉的存在です。

この「ゼロ・トゥ・ワン」は、ティールが母校のスタンフォード大学で行った起業の講義をまとめたもの。
たまたま10回連続でじゃんけんに勝ったような運だけの成功者とは違う、シリアル・アントレプレナーである彼の視点・思考を学ぶことのできる絶好の書です。
かつ、つい先月、英語版・邦訳版が世界同時発売されたという珍しい書籍で、翻訳の時差もなく最新のシリコンバレーの息吹に触れることができます。

そして偶然にも、序文を書いている京大准教授の瀧本哲史くんは私の中高大学の同級生。
「生きている人の本の推薦はしない主義だが、この人は別」などと言って、熱い文章を寄せています。

そんなご縁もあり、広告の本筋とは少し違うテーマですが、私のようなデジタル系の業務では彼らの視点を学ぶことも重要、ということで取り上げてみます。

常に隠された真実を見つけ出そうとする探究心と常識を疑い続ける心


ティールの言葉は明快、かつ強烈です。
この書はまず、


「採用面接でかならず訊く質問がある。『賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?』」
(P.22)


から始まります。

これこそ、強い企業のあり方、ビジネスへの姿勢など、全てに通じるティールの根本にある考え方です。

彼の経営するペイパルはドットコム・バブルをくぐり抜けて生き残った企業。
最低100万ユーザーを獲得しなければ軌道に乗らないという計算の中、広告での集客に限界を感じ、新規加入者とお友達紹介者にそれぞれ10ドルをプレゼントするという斬新なプロモートを実行。ドットコム・バブルがはじける直前にそのための資金調達をやり切りました。その後のペイパルについては皆さんご存じの通りです。

ドットコム・バブルが崩壊した後、シリコンバレーに居残った起業家が得た教訓として、ティールは以下の4つを提示しています。


「1.少しずつ段階的に前進すること」
「2.無駄なく柔軟であること」
「3.ライバルのものを改良すること」
「4.販売でなくプロダクトに集中すること」
(P.40-41)


また、人の集め方など、起業の際の実践的な考え方もティール流は説得力があります。


「20人目の社員が君の会社に入りたいと思う理由はなんだろう?」
「グーグルでもほかの会社でもより高給でより高い地位につける人が、20番目のエンジニアとして君の会社を選ぶ理由はなんだろう?」
(P.163)


確かに、大切な真実を見つけ、そのビジョンをシェアしてビジネスにすることは、社員の使命や夢、情熱の元、そして連帯感をつくり出す一番の早道でもあります。

常に隠された真実を見つけ出そうとする探究心、人の常識を疑い続ける心。
このティールの基本姿勢が、新しいビジネスを成功させるための非常に強力な武器であることは間違いありません。
例えば、先ほど挙げた4つの教訓。納得しちゃった人、それじゃゼロから1は生み出せません。

「シリコンバレーの常識」でしかないとして、ティールはその全てを否定しています。
ティールがカウンターとして示す原則はこちら。


1.小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
2.できの悪い計画でも、ないよりはいい
3.競争の激しい市場では利益は消失する
4.販売はプロダクトと同じくらい大切だ」
(P.41)



隠された真実を自分の目で見いだすことこそ本当のティール流


強烈な思想を持つティールだけあって、この書の中にはにわかには同意できないような考えもありました。
例えばリーンスタートアップも一つの起業の良い方法であると思いますし、起業後全く違うビジネスにピボットしてから大成功した友人も私は知っています。また、社員がスーツを着ていたって、投資に値する企業もあるでしょう。

われわれも彼の言葉をそのまま飲み込むのではなく、それすら疑ってかかり、変化する真実、隠された真実を自分の目で見いだすことこそ本当のティール流、この書から学ぶべき思想ではないでしょうか。

余談ですが、ティールはSFとファンタジーが大好きで、ペイパル社員の必読書が「クリプトノミコン」というSF書だったり、現在経営している企業も「パランティーア」、ファンド名は「ミスリル」、そしてこの本にも指輪物語の歌の一節が引用されていたり、「王の帰還」という章があったりなど、特にロード・オブ・ザ・リングの世界がお好きなようで私と趣味が完全に一致。一度話してみたいものです。


Posted: 2014年10月28日 14:21 | コメント(0)

「"時代が変わっていくな"と今年ほど感じた年はなかった」

とある大先輩クリエーターがフェイスブックの投稿にさらりと忍ばせたこの一文に、僕はぐさりとハートを射抜かれてしまいました。
時代の最先端を突き進むどころか、次の時代を創り続けている。
そう見える大先輩でさえ、戸惑っているだなんて。
2014年、広告界を覆い尽くそうとしている変化の波は、なんてデカイのだろうと目まいがしてきます。

今日ご紹介する本は、そんな過渡期にこそ胸を打つ一冊。
ホイチョイ・プロダクションズ馬場康夫氏による『ディズニーランドが日本に来た! 「エンタメ」の夜明け』(講談社+α文庫)です。
著者は、「気まぐれコンセプト」「東京いい店やれる店」といった人気書籍や「私をスキーに連れてって」などの大ヒット映画の生みの親でもあります。


■エンタメの面白さを丸ごと形にしたような一冊

この本は、ディズニーランドという巨大テーマパークの日本招致物語です。
電通の小谷正一と堀貞一郎、ウォルト・ディズニー。
この日米3人の物語が織りなす、一大ノンフィクション。
1974年、日本にディズニーランドを呼びたい2社が競い合ったディズニーへの大プレゼン合戦、浦安に住む1800世帯の漁民への説得など、数々の壮大なエピソードはまさしく「事実は小説より奇なり」。
小説のような痛快さを持ちながら、骨太なドキュメンタリーを存分に楽しめるこの本自体が、エンタメを語るに余りあるエンターテインメント性を持っているのです。


■おもてなしの本質を学ぶエピソード

ひとつ、とても感銘を受けたエピソードをご紹介します。
主人公のひとり、小谷正一は1955年、経営していたホールの知名度を上げるべく、フランスからパントマイムの第一人者マルセル・マルソーを日本に招きます。
夫に同伴していたマルソー夫人に、小谷は部下を同行させました。銀座、浅草などあらゆる買い物に、です。そしてその部下に、小谷はあることを命じ、サプライズを仕掛けます。


「女性が買い物をするとき、ふたつのうちどちらにしようか迷うときが必ずある。迷って捨てた方を全部記録してこい」
(中略)小谷は、マルソー夫人が羽田を発つとき、夫人が迷って買わなかった方の商品をそっくりまとめて箱に入れ、プレゼントした。(中略)女性が最後まで迷ったというのは、その商品を気に入った証拠である。中には、あちらを買えばよかった、と後悔したものもあったろう。小谷はそれを全部買って贈ったのだ。(P.67)


ただ気の向くまま買い物をしていただけ。
それなのに、心を見透かされたかのようなプレゼントを最後に贈られた夫人の驚きと喜びようは、どれほどのものだったでしょうか。
書中にはこういったエピソードがたくさんちりばめられています。
人の心をつかむ。できるなら、魔法のように。
おもてなしとは、どうあるべきか深く考えさせられます。


■エンタメとは、人の心をつかむこと

こういった、登場人物たちの妙味が存分に生かされたエピソードの数々が、人の心をつかむとはどういうことか教えてくれます。
そして、数多くのエピソードに触れるうち、タイトルにもある「エンタメ」の意味についてもハッと気付かされます。エンタメはいろんな訳がありますが、要は「人の心を掴むこと」なのではないでしょうか。
こうしたエンタメ力を駆使して、次々と大きな挑戦を成し遂げてきた登場人物たち。
このエンタメ力は、テーマパーク招致やイベント運営だけに役立つものではありません。
あらゆる広告が、あらゆるビジネスが、人の心をつかむことに腐心していることを考えれば、エンタメ力ってどんなビジネスパーソンにも必須なスキルといえるのではないでしょうか。


■激動の時代に、エンタメ力が輝く理由

●●は、今日にいたるまで客寄せイベントの常道である......。
これが日本初の■■であった......。
この本にはそんなフレーズが散見されます。
それもそのはず、この物語の舞台は日本のエンタメ業界黎明期。
ラジオ、テレビといったメディアはもちろん、現代でも広告ビジネスの根幹を支えるテレビCMも、プロ野球も、万博という巨大イベントも、あらゆる市場が産声を上げた時代。

「うらやましいなー、この時代」
「現代はそんな簡単じゃないんだよ」
なんて声も聞こえてきそうですが。
僕は今だって十分、黎明期。そう強く思います。

日本広告業協会が毎年公募している論文コンテストも、今年のテーマは「広告ビジネスの挑戦」。世界のクリエーティビティーが競い合うカンヌライオンズでは、「Brave(勇敢かどうか)」をキーワードにした審査が繰り広げられました。
今この瞬間も、世界の至る所で広告人の新しいチャレンジが次々始まっていることでしょう。
エンタメの夜明けから、はや数十年。
今の時代も、きっと何かの夜明け真っ最中のはず。
この本は、変わる時代と向き合う現代人にこそぴったり。
そんな気持ちから2007年初版発行の本書を取り上げた次第です。


■エンタメの巨人が残した予言とは

そんな時代を、小谷は見通していたのでしょうか。
本書の最後は、こんなエピソードで締めくくられます。
少し長いですが、引用します。


小谷の部下だった岡田芳郎は、小谷にこうつっかかったことがある。
「ボクは、小谷さんがうらやましいですよ」
「何で?」
「だって、今という時代は、広告でもイベントでも何でも形が完成してしまっていて、行き詰まっているでしょう。小谷さんみたいに、時代の過渡期に、真っ白なキャンバスに思い通りに絵が描けたら、ほんとうに楽しそうじゃないですか。うらやましくてしかたありませんよ」

小谷はまっすぐ岡田の目を見て、こう答えたという。
「岡田くん。いつだって時代は過渡期だし、キャンバスは真っ白なんだよ」(P.229)


Posted: 2014年10月17日 15:48 | コメント(0)

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー著の『クリエイティブ・マインドセット―想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』(日経BP社)を取り上げます。

皆さんは、ご自分のことを「クリエイティブ」だと思いますか?
本書で紹介されている調査によれば、75%の人がそう思っていないとか。

この本の画期的なところは、どんな職業に就いていても、潜在的にはすべての人が「クリエイティブ」である、という前提に立っていること。にもかかわらず、これまでの人生経験から、それを封印している人があまりにも多く、もっとたくさんの人がクリエイティブの楽しみを知ることで、「世界は変えられる。より良くできる」という強いメッセージが込められています。


「世界はよりクリエイティブな政策立案者、マネージャー、不動産業者を求めている。(P.25より)」


しかも、そうしたメッセージは、単なる希望的観測ではないのです。著者の2人が、「IDEO(アイデオ)」というデザインファーム(世界的なイノベーションのコンサルティング会社)で、クライアントとして付き合ったお堅い企業人たち、あるいはスタンフォード大学の「dスクール」で演習を共にしたさまざまな専門学生たちとの実際の経験をもとにした発言であり、説得力があります。

たとえば、「IDEO」に依頼してくるクライアント企業の経営幹部たちは、プロジェクトの最初は、「われわれはクリエイティブではないから」と口をそろえるそうです。チーム作業をしても創造の過程には興味を示さず、最終結果だけを求めがちだとか。ところが、プロジェクト後半になると、「IDEO」のメンバーと肩を並べてそのやり方を熱心に観察し、自分たちでも新しいアイデアを生み出そうとするのです。

また「dスクール」の授業を受けたある学生は、終了後、何カ月もしてから教室を訪ねてきて、「初めて自分をクリエイティブだと思うようになりました」「どんな課題にも創造性を発揮できるようになりました」と興奮して伝えに来たり、なかには感極まって泣き出す学生までいるのだそうです。

著者の一人である兄のデイヴィッド・ケリー氏は、こうした変化を「宙返り」(flipping)と名づけました。いままでの頑なな心理状態から、創造的な意欲が芽生えて別の心理状態にくるりと変わる様子を、うまく表現しているのではないでしょうか。

弟のトム・ケリー氏は、これまでにも、『発想する会社!』『イノベーションの達人!』という2冊のベストセラーを発表し、「IDEO」で培ったさまざまな方法論を公開してきました。けれども、そうした方法論以前に、なによりも"人のクリエイティビティ"を阻んでいるのが、「自分はクリエイティブではない」という自信のなさであることにあらためて気づき、兄とともに本書を書きはじめたというわけです。

ですから、本書のキーワードは、ずばり「Creative Confidence(創造力に対する自信)」。原題にもなっている、印象的な言葉です。


「自分の創造力を信じることこそ、イノベーションの「核心」をなすものなのだ。」「こうした自信は筋肉のようなものだ。努力や経験次第で、強くしたり鍛えたりできる。(p18より)」


では、その自信をどうやって身につけていくのか? 著者は、「恐怖の克服」を第一に挙げます。

そもそもクリエイティブに自信のない人は、自分には才能がないと決めつけていたり、子どもの時にイヤな思いをした経験から、「うまく行かないのではないか」「馬鹿にされて恥をかくのではないか」といった恐怖を抱えているケースが多く、まずはそれを克服することが大切というわけです。

そこで紹介されるのが、「ヘビの恐怖症」の治療エピソード。ヘビの恐怖症を克服するには、「指導つきの習熟」と呼ばれるプロセスが必要なのですが、それは、大きな恐怖にいきなり立ち向かうのではなく、専門家の指導のもと、自分が対処できるほどの小さなステップを一つずつこなしていき、最終的にヘビが触れるところまでもっていくやり方です。一生治らないと思っていた恐怖症が克服できた時、患者さんは「自分は変わる能力がある」「成し遂げることができる」と、人生への見方までが劇的に変わるのだそうです。

ヘビの恐怖に比べれば、クリエイティブは本来楽しいはずのこと。いま現在は、クリエイティブに対して自信がなくても、いくつかの恐怖を少しずつ克服していければ、自分に対する見方が変わり、本来の創造性が発揮できる、と著者は背中を押してくれます。

なかでもクリエイティブの場合、最大のハードルが、「失敗に対する恐怖」。そこで著者は、失敗はイノベーションを成功させる上で不可欠なものと捉え直し、むしろ失敗するのが当たり前、という心理状態をつくることが肝要だ、とアドバイスします。


「世間では、『天才的な創造力の持ち主は、ほとんど失敗しない』と根強く信じられている。(中略)モーツァルトのような芸術家から、ダーウィンのような科学者まで、天才的な創造力の持ち主は、失敗の数も多い。ただ、失敗したからといって、それを挑戦をやめる口実にしないというだけだ。(P66・67より)」


「最終的に"天才的ひらめき"が訪れるのは、ほかの人よりも成功率が高いからではない。単に、挑戦する回数が多いだけなのだ。(中略)もっと成功したいなら、もっと失敗する心の準備が必要なのだ。(P67より)」


そのために、失敗してもいい心構えや環境、チームをつくり上げて、どんどん失敗しやすくすることを推奨しています。自分の挑戦を「実験」や「ゲーム」と周りに印象づければ、たとえ失敗しても傷つかずにすむとか、自分をさらけ出し、いざという時に助けを求められる仲間をつくるとか。

こうして、「恐怖の克服」のやり方を丁寧に解説してくれたあと、いよいよ後半では、クリエイティビティを発揮していくための、さまざまなコツが紹介されていきます。いわく「旅行者のように考える」「リラックスした注意を払う」「問題の枠組みをとらえ直す」。この本を読み進めて行くと、自分でも、なにかしらの変化が起こせそう、とだんだんその気になってきます。それが、本書の一番の効能かもしれません。

しかも、日本人の妻を持ち、大の親日家のトム・ケリー氏は、「日本人は本当にクリエイティブだ」と断言しています。世界5カ国5000人を対象にした最近の調査(Adobe State of Create Study・2012)では、「もっともクリエイティブだと思う国は?」という質問に対して、日本がアメリカを10%も引き離して1位を獲得したとか。ところが、肝心の日本人は、自らをもっともクリエイティブだと回答した人の割合が、一番低かったそうです。

日本人の謙虚さを表している気もしますが、いまこそ「Creative Confidence(創造力に対する自信)」を一人一人が獲得することで、さらなる"イノベーション立国"をめざせないか、と考えさせられます。

ただ、個人的には、「クリエイティブ」や「イノベーション」という言葉自体が、ハードルを上げている気がするので、日本人向けに「よい思いつき」とか「なるほどジャンプ」ぐらいの軽い単語を開発するのもアリかもしれません。


Posted: 2014年10月 3日 11:32 | コメント(0)