DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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今回取り上げさせていただくのは、小霜オフィス、no problem LLC .代表、コピーライター/クリエーティブディレクター/クリエーティブコンサルタントの小霜和也氏(http://koshimo.com/)による『ここらで広告コピーの本当の話をします。』です。

今までの広告コピーの話はウソ?


「本当の話をします」ということは、今までの広告コピーの話はウソ、ということなのでしょうか?

実は、私は数年前、著者の小霜氏がno problem LLC.にて米村浩氏と共にCSRの一環として実施している「ノープロブレム無料広告学校」に1年間通い、そこで毎週、無料講義だけでなく、タダ飯までご馳走になるという、大変恵まれた時間を過ごさせていただきました。(※)

※無料広告学校の詳細は http://noproblem.co.jp の「school」をご参照ください。過去の講義録もダウンロードできます。現在は米村氏はno problem LLC.を離れられていますが、今後もお二人一緒に「無料広告学校」は継続していくとのことですので、迷える広告業界関連の若者はぜひ応募されることをお勧めします。募集は毎年4月頃予定です。


no problem LLCのサイトの「ノープロブレム無料広告学校」の説明では実践的な広告クリエイティブ理論・手法の基礎は

■広告コミュニケーションの基本的ストラテジーの構築力
■そのロジックからどれだけ飛べるかという表現の飛躍力

この2つのスキルからなり、それを、広告業界を目指す学生や業界に入ったばかりの若い人たちに身につけてもらいたい、と書かれています。

本書もメインターゲットを「若手コピーライターまたはコピーライター志望者」に据えており、狙いも同じく「実践的な広告クリエイティブ理論・手法を身につけてもらう」だと言えるでしょう。(物事の本質にもしっかり触れていますので、広告業界に関係なくとも、社会で人と関わりながらす暮らす方なら誰が読んでも役に立つ本です)

私は「ノープロブレム無料広告学校」に応募する前から、小霜氏がご自身のウェブサイトに書かれていた広告やコピーに関するテキストが更新されるのを心待ちにしていた「小霜おっかけ」でした(今はサイトリニューアルしたため、以前のものは見られなくなっています)。きっかけは、私がまだ入社間もないときに見た「とある広告賞の大賞に審査委員のひとりでもあった氏が寄せていたコメント」にたまげたからです。
大賞を受賞したのは、私も一生活者として「すごくおもしろいなー」と感じていた広告キャンペーンだったのですが、他の審査委員の方々が褒めそやす中「でも、このキャンペーン、商品が売れなかったよね?じゃあ、ダメなんじゃないの?」といった意味合いのガチンコのコメントをされていたのが小霜氏でした(実際のコメントは、もっと鋭い、一撃必殺の意見表明でした)。受賞によせるコメントとしては全く空気を読んでいない。摩擦が生じる。ヒヤヒヤする。でも、圧倒的に正しい。それ以来、勝手に私の心の師匠にしているのです。

その後、ウェブサイトに書かれたテキストを拝読し、ついには直接お教えを請うにまで至ったわけですが(それらが私の身についたかはさておき)、常に本当のこと、本質的なこと、実践的なことを語ろうとする氏のスタンスは一貫して変わりません。もちろん、本書にも「広告コピーの本当の話=実践的で、本質的な広告コピーに関する話」が書かれています。

本書における最もエッセンスが濃縮されたくだり、広告コピーに関して世の中が誤認しがちな点を分かりやすくひもといたのが「広告コピーの評価は2つの視点で」(P53-55)です。

いわく、広告コピーの評価は

■そのコピーがモノとヒトとの関係を創造あるいは改善しているか。
■その役割を達成するための言葉としての力があり、ターゲットの心に刺さったり揺さぶったりする表現になっているか。

上記2つの視点で見る必要がある、と。(この2つは「定義付け」に特化したコピー「タグライン」と、ターゲットの関心を「つかむ」キャッチコピーの合わせ技で達成されていればOK)

これは前述の「実践的な広告クリエイティブ理論・手法の基礎の基礎」とも対応しています。日常生活の端々で目にする広告コピーにこの評価軸を持ちこむと、途端に視界がクリアになるので、ぜひ試してみて下さい。

さて、問題です。(全7問)
私が線と付箋まみれにしてしまった本書、悩みに悩みつつ、言葉を端的に定義したり、本質を喝破したりしている箇所を7個、ピックアップいたします。まず、問いの形式で投げかけますので、答えを考えてみて下さい。

Q1.コピーライターとは何をする人なのか?

Q2.そもそも広告の役割とは?

Q3.広告コピーとは?

Q4.広告コピーを考えるときに、まず何からはじめるべき?

Q5.ブランドとは?

Q6.テレビCMの役割は?

Q7.最も重要なメディアは?


回答は浮かびましたか?以下が、本書における正解です。

A1.(商品をいじらずに)言葉を使って商品の価値を上げる人

A2.モノとヒトとの新しい関係を創ること

A3.価値が最大化されるように商品を「定義付け」するもの(「定義付け」に特化したコピーを「タグライン」と呼ぶ/広告コピーと言えばキャッチフレーズのこと、と思っているなら、それは誤り)

A4.競合を調べる(担当商品のことを調べるよりも先に!)

A5.気持ちいい記憶

A6.「商品の疑似体験」をさせること

A7.店頭


いかがでしょう?
皆さんも当たらずとも遠からず、な答えなら思い浮かぶかもしれません。しかし、ここまで端的に本質を言い切ることができたでしょうか?ひとつでも「おっ」と思うものがあったなら、ぜひ、本書で詳しい説明にあたってみてください。

コピー1本で100万円請求するには


本書の帯には「コピー1本で100万円を請求するための教科書。」というキャッチコピーが書かれています。「実践的である」ということは、ビジネスとしてきちんとお金をいただける、ということでもあります。さて、広告コピーを書くことによって得られる対価は、何に対する報酬なのでしょうか。そのことに触れた箇所を以下に引用します。


「年収いくらだったら、フリーランスのコピーライターとして成功したと言えるだろうか?」とアンケートを採ったら、600万円とか700万円とか、300万円などと言うのです。
(中略)
コピーライティングって、そんなに価値の低い仕事と思われているんですか?
(中略)
彼らの半分は、コピーを書くことの報酬を手間賃のように考えています。誰かから指示されたとおりに作業して、「これでいいですか? じゃあ作業料ください」と。そしてあとの半分は、コピーの報酬を旦那衆からのご褒美と考えています。「おれには書きたいことがある! それが気に入ったらお駄賃ください」と。どちらも間違いです。
(中略)
 "価値が上がるように伝える"のが仕事なのです。"価値が上がる"ことをやるから、それに応じた報酬がいただけるのです。(P3-6)

発明家のエジソンはこんな言葉を残しているそうです。「人間は、考えるという真の労働を避けるためなら何でもする」。僕らがお金をもらえる根拠はここにあります。(中略)
僕らは「真に大事な本質は何か」とモヤモヤしている発注主のためにスッキリとした課題解決を提示してあげなければいけません。これはある種の汚れ仕事です。考えれば考えるほどわからなくなって、精神的に追い詰められることもあります。
(中略)
まさに人生を削っているんですよ。
(中略)
誰よりも、発注主よりも、うんと、うんと、考え抜き、最高の答えを出し、そして堂々と正当な対価を請求すればいいんです。(P218-219)


なぜ、広告コピーを書くことで、報酬を得ることができるのか。

■単純に「伝える」のではなく「価値が上がるように伝える」から(=上がった分の価値が、広告コピーの生み出した価値)
■発注主のために最高の答えを出すには、人生を削るほど考え抜く必要があるから(=ものすごく大変だから)

この2点が本書であげられている理由です。人生を削るほど考え抜く...。そ、そんなツラい仕事なのか...。と思わず尻込みしてしまいますが、もちろん大変なだけでなく、素晴らしい側面もあるわけです。そのことに触れた箇所を以下に引用します。


報酬とは、どれだけ多くの人を、どれだけ喜ばせたか、その総量と比例するというのです。
(中略)
コピーライターが、モノとヒトとの関係を創造したり改善したりすることで、たくさんの人たちを喜ばせることができれば、それに応じた報酬を得るのは自然なこと。
(中略)
「がめつく稼げ」と言いたかったわけではありません。これからコピーライターを目指す人、コピーライターになったばかりの人が、どうもコピーの価値を過小評価して、言葉遊び程度に捕えている傾向が気になったのです。自分のコピーで、「日本経済を活性化させるんだ、社会をもっと住みやすくするんだ」、そのぐらいの魂を持っていてほしいものです。そのためには、最初に、上司であるCDを喜ばせましょう。同僚のデザイナーを、広告会社の営業さんを、チームの仲間を、喜ばせることから始めましょう。(P257-258)


苦しみ抜いて、最高の答えを出せたとき。発注主が喜び、チームが喜ぶことはもちろん、その答えが社会をより良くし、世の中の人に喜んでもらうことだってできるのです。


私たちは幸いにして、世の中に対して、そのような提案をさせていただける事業領域に携わっています。最高の答えを考え抜き、多くの人を大きく喜ばせ(そして報酬を頂戴し)ようではありませんか。そのための具体的な実践方法は、今回本書をご紹介するにあたってあえて詳細は書かなかった「第二章 コピーを『考える』」「第四章 コピーを書く『姿勢』」にヒント、と言いますか、ほぼ正解、本当の話が書かれていますので、ぜひ手に取ってみて下さい。


Posted: 2014年11月27日 12:42 | コメント(0)

今回は、新しい時代の「ものづくり」のあり方を提唱し、エンジニアリングとデザインが交わる領域で、次々に魅力的なプロダクト/サービスを生み出しているtakram design engineeringによる『デザイン・イノベーションの振り子』という本を取り上げたいと思います。

■デザイン・エンジニア?


本書の中身を紹介する前に、まず、この本の著者であるtakramという会社を紹介します。この会社のユニークさを特徴づけていることの一つに、「デザイン・エンジニア」という聞き慣れない肩書を持った社員が働いていることが挙げられます。
デザイン・エンジニアとは、本書によれば、デザイナーとエンジニアという二つのスキルを持ち、それぞれの領域を越境しながら、脱領域的に課題にアプローチできる人材とあります。
例えば家電などのメーカーでは、技術を担当するエンジニアと、デザインを担当するデザイナーが別々の部署で働いているのが一般的です。何か新しい製品を開発する際、技術面からのアプローチをエンジニアが行い、外観などのデザインはデザイナーが担当し、お互いに専門知識を持ち寄り、擦り合わせをしながら(時としてぶつかり合いながら)進めていきます。
しかし、takramはその担当をあえて分けず、一人の担当者=デザイン・エンジニアが統合的に課題解決に当たるというアプローチを取っています。つまりtakramは、工学部出身のエンジニアにはアートやデザインのスキルを身に付けさせ、美術大学出身のデザイナーには、工学の知識を身に付けさせる、というような形で人材を育てている企業なのです。
ではなぜデザイン・エンジニアが必要なのでしょうか? それは本書のテーマ「デザイン・イノベーション」という言葉と密接に絡んでいるので、まずは本書の構成を追ってみます。

■近代のものづくりの限界

本書は、現代のものづくりの方法、つまり「問題を細かく分解して対応すれば課題にアプローチできるという発想に基づいた、近代的なものづくり方法」に限界が来ていることを浮き彫りにしていきます。専門家の分業(エンジニアは技術だけを担当、デザイナーはデザイナーだけを担当)では、もはや新しい時代のものづくりに対応できなくなったというわけです。
その困難を、本書では「複雑性=Complexity」「Composite=複合性・相互依存性」「Ineffability=記述困難性」といった言葉で丁寧に説明しています。要約すると、現代のプロダクトは、ハードウェア、エレクトロニクス、ソフトウェア、ネットワーク、サービスといった異なる領域の構成要素が複雑に絡み合って一つの「体験」を提供するようにできており、何かを作るために、ものごとを要素ごとに細かく分解し、分業体制で製作のアプローチをすることが難しくなったというわけです。
(例えば、スマートフォンでオンラインゲームアプリを作る際には、様々な領域の知見が必要になりますよね。)
現代のものづくりの現場では、デザイン的な視点で技術を見る必要があり、技術的な視点でデザインを考える必要がある。つまり、統合的な視点とスキルの重要性が増しているといえます。
本書の言葉を引用してみましょう。


「2010年以降から現在に至るのが第五世代。「ハードウェア+エレクトロニクス+ソフトウェア+ネットワーク+サービス」の時代だ。(中略)
この5つの要素を同時に考え、等価に扱うことの出来る能力が、現代のイノベーションの創造には必須となった。インターネットによって、技術に対するアクセシビリティがフラット化し、情報は容易に得られるようになった。一方で、ものを構成する要素の選択肢が増えたことで、先端のもの作りには、多数の専門性を有機的に組み合わせる必要が出てきた。また、製品はスペックではなく、エクスペリエンスという軸で評価されるようになった。これらの状況がわれわれに専門性の越境を要求し、要素を統合的に扱い、それを織り上げ、繋ぎ込むことを要求し始めている」(P.12)



■振り子の思考とは?

では、現代のものづくりを実践する上で、takramのデザイン・エンジニアたちはどのようにアプローチしているのでしょうか? ここで、タイトルにもなっている「振り子」の思考が登場します。
振り子の思考とは、


「ひとつの枠組みにとらわれず、2つ(かそれ以上)の極の間を高速に行き来しながら、答えを揺れ動く残像のなかに見いだすことだ。」(P.28)
とあります。


それは例えば、機械工学的な課題があるときに、ユーザー体験の設計を工夫することで、そもそもの問題を無効化できる、というような思考を指します。エンジニアがデザイナー的な視点を、またデザイナーがエンジニア的なスキルを持っていれば、解ける問題の幅が広がり、さらに深いインサイトを得ることができるかもしれません。分業体制ではなかなか見えてこなかった課題への新しいアプローチが、デザイン・エンジニアという領域横断的な視点、複眼的な視点を持った存在を通して初めて可能になるというのが本書の主張です。


「対象をいろいろな角度から眺めてみる。当事者としての視点、他者としての視点。軸を定め、対極からの景色を眺めると、次は軸そのものからの逸脱すら可能になる。」(P.29)


それがtakramの提唱する、新しいものづくりの思想=振り子の思考なのです。

■振り子の思考で貫かれた3つの方法論

この振り子の思考(越境的、複眼的、脱領域的)は、takramのものづくりの現場では、さまざまな方法論に貫かれているといいます。本書では「プロトタイピング」「ストーリーウィービング」「プロブレム・リフレーミング」の3つの方法論が紹介されています。詳細な事例は本書を読んでいただきたいのですが、ここではそれぞれの方法論を簡単にまとめてみます。

1.プロトタイピング:「作ること」と「考えること」の間で揺れる振り子。
これまでも、ものづくりの現場で「プロトタイプ」の重要性は認められてきましたが、従来のプロトタイピングは、企画から設計へ、設計から製造へというように、「抽象は具体に転写が可能である」という前提に立った上で、主にプリプロダクション・アセスメントなどの具体側の検証のために行われてきました。一方で、takramの実践する新しいプロトタイピングは、具体側の改善にとどまらず、具体と抽象の行き来を積極的に繰り返すことで、抽象側のレベルを引き上げるために行います。

2.ストーリーウィービング:具体と抽象との間で揺れる振り子。
ストーリーウィービングとは、プロジェクトの初期に設定したコンセプトをその後も柔軟に練り直し続け、より良いものに洗練させていく手法。つまり、従来のコンセプト設定の代替ではなく、それを補強し、拡張するもの。製品開発における「概念面」の成果物であるストーリーは、単体では存在し得ない。具象面である「ものづくり」のプロセスと同時進行させ、相互作用させることで見いだされます。つまり、プロジェクト進行中に製品開発のプロトタイプが進化するのと並行して、ストーリーそのものにも逐一改善を加えていく必要があります。「作ること(具体面)」と「語ること(抽象面)」、すなわち「ものづくりとものがたり」は、互いが互いを形づくり、さらには高め合っていきます。

3.プロブレム・リフレーミング:問いと答えの間で揺れる振り子。
初期に設定した問いに対してある答えを見いだすと、新たな、次の段階の問いが生じます。この繰り返しによって、初めて至るイノベーションがあります。さらには、答えの質の上限は、問いの質によって定義されてしまうので、そもそも与えられた問いが正しいかを検証する力が必要になります。

■正解が分からない、過去の経験が生きない時代に向けて

takramは、主にプロダクトデザインやサービスデザインの分野で新しい課題に対する革新的なソリューションのあり方、新しい哲学を提唱していますが、これは(分野は違えど)広告業界にもそのまま当てはまると思います。コミュニケーションの領域もデジタル化が進む中で、PR、プロモーション、CRM、サービス開発、デジタルマーケティング、それぞれの分野は密接に絡み合い、高度に統合されてきています。まさに、ものづくりの現場と同じことが起こっているのです。


「何を作ればいいのかわからない、正解がわからない、過去の経験が活きない、といった新しい分野を開拓するような使命を負ったプロジェクトは、誰がやっても難しい。失敗する確率も高い。そのために敬遠したくなるような気持ちも湧いてくる。しかし、新しい分野を開拓してこそ、社会全体に新陳代謝を起こすことができる。takramが取り組んでいきたいのは、まさにこの領域なのだ」(P.66-67)


ものづくりそのものに興味がない人でも、新しい分野の開拓に興味がある人にとって、とても参考になるわくわくする本だと思います。


Posted: 2014年11月13日 09:05 | コメント(0)