DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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史上最大の広報作戦『月をマーケティングする』

Book reviewer: 藤田 卓也 / Takuya Fujita

月への切符、250億ドル。

そんな目もくらむ高額チケットをアメリカ国民に売り込んだ一大キャンペーンとは、一体どんなものだったのか。
今回取り上げるデイヴィッド・ミーアマン・スコット、リチャード・ジュレック著『月をマーケティングする』(日経BP社)は、そんなマーケティング目線でアポロ計画の全貌をひもとく一冊です。

マーケティングって、「言葉はみんな知ってるけど内容がいまいち理解できてないもの」ランキングのトップなんじゃないか。そんな気さえしてしまうほど個人的に苦手な分野ですが、ここまで壮大なスケールの作戦を驚くほど緻密に解説するこの本にかかれば、マーケティングにワクワクしてしまうこと間違いなしです。

「人類がまだ火星に行っていないのは、
科学の敗北ではなくマーケティングの失敗なのだ。」


そんな刺激的な言葉が帯に躍る本書は、アポロ計画という科学的偉業を、史上最大にして最重要なマーケティング作戦として徹底解剖していきます。
近年、「技術中心ではない、人間中心のイノベーションを」と語られることが増えています。この本はまさしく最先端の技術的イノベーションの裏にひそむ、人間性とビジネスの側面を描き出しています。

著者は、デイヴィッド・ミーアマン・スコット。
3年前、糸井重里さんが監修を務め、日本でもベストセラーとなった「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」(日経BP社)を出版したことでも知られる、マーケティングの専門家です。

ビジョンを伝えて、アーリーアダプターをつかむ。


1957年、世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げ成功。
1961年、ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行。
当時のソ連が次々と宇宙事業を成功させる中、NASAが発足したのは1958年。
逆境ともとれるスタートですが、民衆レベルでは事情が違ったようです。
実はその何年も前から、アメリカではSFドラマ、テーマパーク、さらには雑誌の特集記事によって、宇宙への夢が何度も語られていたのです。
そこで描かれていたのは、未来の世界観。
いわば、宇宙ビジネスのビジョンを語ることで、アーリーアダプターとなるファンを着実に育てていたわけです。

「開かれた広報」で、宣伝ではなく報道を。


NASAの取り組みを、国民に共感してもらう。
その際、ある思想が大きな役目を果たしました。
それは、「NASAの広報は、宣伝ではなく報道である」というもの。
新聞や雑誌、テレビなどメディアで働いた経験者を次々と採用し、メディアがどのような論理で動いているのか分かっているメンバーを集めていきました。
発信する情報はそれまでのビジョンめいたものではなく、事実に基づいた情報にシフト。また、5分未満のショート映像をテレビ局に無料提供したり、オープンな情報提供で記者たちを次々と味方につけていきました。
一方で、宇宙飛行士のプライベート情報はLIFE誌と独占契約。他のメディアには一切掲載しませんでした。これにより、宇宙飛行士=英雄ではなく、ひとりの人間としてより親しみの持てる存在というブランディングをうまくコントロールしたのです。最近流行の言葉でいうならば、コンテンツマーケティングといったところでしょうか。なんというしたたかさ。

全世界に共通体験をつくり出した「テレビ生中継」。


一連のマーケティングキャンペーンの中で、特に世界が熱狂したのは、月面着陸の生中継でした。
「月面を歩いた最後の人類」である、ジーン・サーナンはこう振り返ります。
私たちは、宇宙でみんなといっしょでした。これがテレビのなせるワザです。宇宙にほかの人たちを連れて行けたのです。(P.250)


この生中継は、当初大きな反対を受けていました。考えてみれば、カメラなんて着陸には必要ないものですから、「そんな余計な荷物より、飛行に必要なものを積め」という意見もよく分かります。
ですが、結果的にこの生中継は大成功。世界中が月面着陸を、宇宙という夢を目の当たりにし、だれもがNASAのファンとなったのです。コンテンツの使い方とメディアとの関係づくりに長けた、とてもNASAらしいマーケティング活動でした。

最大の敵は、無関心。


ところが、最初の月面着陸からわずか3年後、早くもアポロ計画は終焉への道を歩み始めます。その敵は、民衆の無関心でした。月面着陸のニュースが番組のトップを飾ることもなくなりました。宇宙飛行士のパレードを開いても、月の石の世界ツアーを行っても、その流れは止められませんでした。
理由の一つは、「人類を月に送り込む」という大義を達成してしまったこと。強くて太い大義があったからこそ、達成したその次の大義を見つけられぬまま、アポロ計画はその幕を閉じることになります。あれから40年、いまだ人類は火星に到達してはいません。


最初から最後まで、人類に夢を与え続けたアポロ計画。
読んでいる間、東京オリンピック・パラリンピック招致と重なるところがたくさんありました。これから、未来に向けてどんな夢が日本中に広がっていくのでしょうか。2020年のその先、どんな新たなビジョンが生まれているのでしょうか。
大きな仕事に取り組んでいる方、取り組みたいと願っている方、どんな人にも学びのあるボリューム満点の一冊です。


Posted: 2014年12月26日 10:09 | コメント(0)

「破壊的アイデアを生み出す5つのステップ」

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、ルーク・ウィリアムス著『デザインコンサルタントの仕事術』(英治出版)を取り上げましょう。
著者は、元は世界的なデザインコンサルティング企業「フロッグ」のクリエーティブディレクターです。
邦題が誤解を与えそうですが、原題は「DISRUPT(破壊せよ)」であって、デザインについてではなく、ビジネスにイノベーションを起こすための「破壊的な思考法」を身につけるための実務書です。


誰も考えていないことを考え、誰もしていないことをしなければならない


ここでいう「破壊的」の意図は、他の誰も想定していないソリューションを送り出して、マーケットを驚かせるということです。
これからの10年、企業がビジネスの競争に打ち勝っていくためには、競合が思いもつかず、まねもできないようなアイデアを生み出し、実現していかなければなりません。
そのためには、「誰も考えていないことを考え、誰もしていないことをしなければならない」というわけです。

これまでビジネスに関わる人は、問題点(=修正が必要なところ)を見つけ出し、そこを集中して解決するように訓練されてきました。
しかし本書では、この「壊れていなければ触るな」という態度を、破壊的思考に敵対するものだとしています。
これから重要なことは、そういう態度ではなく、「どうしたら、今うまくいっている勢力図を破壊できるか?」という思考だというのです。つまり、「壊れていないところ」こそ、手をつけるべきだというわけです。

常識を破る5つのステップ


本書では、破壊的思考を実践していく方法が「常識を破る5つのステップ」として説明されていますので、以下に紹介しましょう。

1.破壊的な仮説を立てる。
「色を替えたら...」や「新機能を増やしたら...」などのちょっとした小細工を考えるのではなく、想像のはるかかなたを突き抜けるようなアイデアで頭を揺さぶります。それを「正解を探すためには、あえてまず間違えることだ」と説明しています。
例えば、「ばらばらの靴下を3つ1組で売ったらどうなるだろう?」という仮説から「リトルミスマッチ」というファッションブランドが成功した事例などが紹介されています。

2.マーケットに眠る破壊的チャンスを見つける。
次に仮説の対象である人々を観察します。どんな人がどんな目的で行動しているか、中でもいちばん目につかない場所を探ろうというものです。
本書では、従来型の調査ではなく、短時間で、直感的、定性的にインサイトする手法がいくつか紹介されています。

3.破壊的アイデアをいくつか生み出す。
見つけた破壊的チャンスを分解し、製品、サービス、情報の要素を混ぜ合わせて、破壊的アイデアに転換する手法が紹介されています。
例えば、任天堂「Wii」のモーションコントローラーは、テレビゲーム機を参考にしたのではなく、全く関係ない自動車のエアバッグに使われていた加速度センサーからひらめきを得たものです。
また、「iPod」の清潔でミニマルなデザインは、デザイナーのジョナサン・アイブ氏がアップルに入る前、便器のデザインを手掛けていたことによるという事例も紹介されています。
このような全く関係のないところで見つけたチャンスをいろいろと組み合わせ、まずはそこに「名前」をつけることからアイデアに転換していこうと説明されています。
もちろん、こういった想像もつかないアイデアには、競合も現れないというわけです。

4.アイデアを破壊的ソリューションに仕上げる。
破壊的アイデアは素晴らしいですが、それは実現されてはじめて価値を生むものですので、今度はそれを破壊的ソリューションに転換しなければなりません。
本書では、この段階でエンドユーザーを開発プロセスに巻き込み、いくつかのアイデアを人々に試してもらいながら評価を受け、プロトタイプ開発を進める手法が紹介されています。
つまり、実現策に転換する段階で、共創マーケティングのノウハウを活用していこうというわけです。

5.破壊的プレゼンで売り込む。
本書がユニークなのは、これまでのステップで生み出された破壊的ソリューションを、社内や社外のステークホルダーに売り込み、投資や賛同を得る手法まで紹介されているところです。
ほとんどの人は、破壊的ソリューションを、破壊的だという理由だけで採用しません。そこに価値があるということを信じてもらうためには、普通以上の破壊的なプレゼン(なんでも破壊的ですが...)が必要になるわけです。
本書では、これを9枚のスライドを使い9分間でプレゼンする手法が述べられています。

従来の延長上を探していてもダメ


このように本書でいう「破壊的思考」とは、「破壊的」という言葉とは逆に、全く新しいマーケットを「創造する」ことを狙いとしたものです。
「創造」、つまり「クリエーティビティー」とは、顕在化している課題を解決することではなく、現時点ではうまくいっているように見えるものを壊すことによって可能性を見いだすことだと気づかされます。

僕は電通で未来創造グループという部署に所属し、ミッションのひとつとして「商品・サービス開発の共創マーケティング」に取り組んでいます。
これも同じく、企業がこれまで取り組んできて手法とは全く違った角度から、アイデアを生み出していくチャレンジです。
本気でビジネスにイノベーションを起こし、未来を創ろうとするならば、従来の延長上を探していてもダメなわけですね。
これまでのやり方を破壊することから未来創造が始まるということを、あらためて学べた一冊でした。


Posted: 2014年12月10日 22:27 | コメント(0)