DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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Google人事部門トップが書いた『WORK RULES!』

Book reviewer: 白石 正信 / Masanobu Shiraishi

今回は『ワーク・ルールズ!−君の生き方とリーダーシップを変える』(東洋経済新聞社)を紹介します。著者のラズロ・ボック氏はGoogleのピープル・オペレーションズ(人事)担当上級副社長で、世界40カ国以上のオフィスで働く5万人以上の「グーグラー」を束ねる人事部門トップ。彼がGoogleの社員採用、成果評価、モチベーション維持の方法について、つまびらかに書いたのが本書です。つまびらかすぎて書籍版は560ページとかなりのボリュームに...。本稿ではこの大ボリュームの中から、特に面白く感じた点をいくつか紹介します。(補足:腰痛持ちの私は質量0のキンドル版を購入しました)

データ分析とコミュニケーション・デザインと効果検証

すべての「ソリューション」に対していえてしまうことかもしれませんが、Googleの人事に対するアプローチも

①データ分析
②課題解決・行動変容を促すための(コミュニケーションの)設計
③効果検証

の3つのステップで構成され、しかもそれが徹底しています。

Googleのピープル・オペレーションズにはアナリティクスグループがあり、すべての人事データを統合・分析し、現状を把握しています。そこから発見された課題を解決するため、対象の行動変容を促すような仕組みを検討し、実践します。多くの場合は、小規模なサンプルでテストし、成果が出れば正式に導入、という手順を踏みます。もちろん、導入後も効果検証は欠かしません。...つまり(その突き詰め具合さえいったん脇に置いておけば)普段の私たちの仕事と同じ!といえるのではないでしょうか。本書は人事領域に限らず、このような視点で見ても豊富な事例集となっています。


採用面接時には直感を信じてはいけない


例えば、採用面接。最初の極めて短い時間で対象者を採りたいかどうか、直感的に判断していませんか?(私は、大いに心当たりがあります...)

本書では、面接の結果は最初の10秒で下された判断から予測できる、という研究結果が紹介されています。逆に言えば、通常の面接では、最初の10秒でもたらされる印象以上のことは分からないということです。マズイです。それではただの第一印象です。充分に対象者を評価できているとはいえません。さて、Googleではどうしているのでしょうか。

Googleが手がけたものではありませんが、面接対象者の職務能力をさまざまなテストがどれだけ判断できるかについての研究で、以下のようなスコアが出ているそうです。

非構造的面接(通常の面接) 14%
職務経験年数 3%
身元照会 7%
筆跡による能力解析 0.04%
ワークサンプルテスト 29%
一般認識能力テスト 26%
構造的面接 26%
誠実性評価 10%

通常の面接(非構造的面接)より精度が高い手法がいくつかあります。これらの評価手法は組み合わせることで予測精度が上がることも分かっているので、Googleでは 構造的面接×一般認識能力テスト×誠実性評価×リーダーシップ評価×ワークサンプルテスト のように、組み合わせて使用します。聞きなれない「構造的面接」ですが、これは、質問や手順が評価基準と共にあらかじめ決められた面接方法で、評価手法としては非常に優れているものの、運用に手間がかかります。そこでGoogleでは、各面接の条件に応じて質問事項が自動で設計・配信されるシステムを開発し、面接者がスムーズかつミスなく面接を行えるようにしました。

その一方で、いわゆるフェルミ推定的な難問奇問(「マンハッタンにガソリンスタンドがいくつあるか当ててください」といった類のもの)もかつては実施していたようですが、「訓練すれば改善できる個別のスキルが測れるくらいで、受験者の評価の役に立たない」とバッサリ。現在では見直しが図られています。


健康と富と幸福に導くナッジ


行動経済学に「ナッジ(nudge)」という概念があります。これは、「選択肢を排除せず、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択的アーキテクチャの要素」と定義されています。Googleでは「オプティマイズ・ユア・ライフ(毎日を最適化する)」と称して、このナッジを利用して、社員が健康と富をより高められるように社員の意思決定に介入しています。

Googleがカフェテリアで食事を無料提供していることは有名ですが、ここでも社員を健康にするためにさまざまなアプローチが試されています。

1)食べ物について好ましい選択をするような情報を提示する:健康に良いものに緑のラベル、悪いものに赤のラベルをそれぞれ貼る。
【結果】☓ 色分けすること自体は社員に好評だが、実際の消費量は変化しない。

2)選択肢を健康的なものに絞る:毎週月曜は肉を出さない「ミートレス・マンデー」に。
【結果】☓ あまり効果なし。その上、一部社員から肉という選択肢が減らされたことに対する抗議行動が起こる。

3)選択を制限することなく、環境の構造を微妙に変える(=ナッジ):カウンターの目につくところに健康的な菓子を置き、甘くて不健康な菓子は不透明な容器に入れ棚の下のほうに置く(中身がわかるようにラベルは貼っておく)。
【結果】◎ 7週間後、ニューヨークのオフィスの社員が食べたカロリーは310万キロカロリー(=ぜい肉401キロ分)減った。

行動変容を達成するにはやはり「ナッジ」が効果絶大なようです。こういった実験とオペレーションの変更は絶えず行われており、ダイエットに関していえば、著者は2年間に14キロも痩せたそうです...。もちろん、健康に関することだけでなく、「401k(確定拠出年金)の積立額をできるだけ大きくさせるようなナッジ」や、「新しく入った社員ができるだけ短期間で戦力になるような振る舞いを上司に促すナッジ」が導入されています。


「文化が戦略を食う」


Googleがピープル・オペレーションズにおいて、ここまで徹底してやり抜けるのはなぜでしょうか。本書では、Googleの文化を定義する3つの要素として「ミッション」「透明性」「発言権」があげられています。

「ミッション」はかの有名な「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」です。このミッションの元に、Googleのさまざまな事業や研究が行われています。

「透明性」に関してですが、Googleでは、新規採用されたソフトウェアエンジニアは出社日にほぼすべてのコードベースにアクセスできるそうです。また、イントラネットには、製品ロードマップから新規事業計画、社員とチームの四半期目標といったものが公開されています。「社員はわが社の最大の資産」というのなら、情報は共有するほどムダがなくなり、効率が上がるのだから、社員は優れた判断力を持っていると信頼し、あらゆる情報を共有するべきだ、という考え方です。

最後の「発言権」も「透明性」と同じく、社員が優秀だと信じるなら、彼らの意見を歓迎するべきだ、というわけです。

根幹にこういった企業文化があるからこそ、ピープル・オペレーションズにおいても、正しく現状を認識し、効果のある打ち手を考え出し、不具合があれば検討し直す、という当たり前のプロセスを、しかし徹底して行うことができているのではないでしょうか。

本書で「文化が戦略を食う」という格言が紹介されているのですが、優秀な頭脳集団でもあるGoogleでさえ、頭で考えただけの戦略がいくら正しかろうが、結局は共同体に染みついた文化には勝てない、ということだと私は理解しました。

本書には上記で紹介した内容以外に、ピープル・オペレーションズの主要な業務である「成果評価」や「モチベーション維持」についての取り組みなども、失敗例も含めふんだんに取り上げられていますが、それらすべてを生み出した根っこにある企業文化の在り方こそ、最も注目するべき点だと感じました。

ずっしり560ページのボリュームですが、ぜひ、その手に取ってみてください。


Posted: 2015年9月24日 20:30 | コメント(0)

「リーダーシップ」が叫ばれて久しい昨今、皆さんは日々の仕事の中で「チーム」を意識する瞬間があったりしませんか?

はじめまして。電通関西支社営業の本田と申します。

近ごろ、広告会社の営業として「チーム」ということを意識する機会が多かったので、そんなときに大切にしたいと思える一冊を選びました。少し前の本ですが、元早稲田大学ラグビー蹴球部監督・中竹竜二著『リーダーシップからフォロワーシップへ』(CCCメディアハウス)です。

体育会系根性論の本と侮るなかれ。早稲田大卒業後、英国レスター大で学び、大手シンクタンクで勤務されていた著者の筆致は、現役サラリーマンのわれわれにもズバズバと刺さるもので、具体例や金言が満載です。

中竹氏を知ったのは2007年。テレビ番組「情熱大陸」でした。

当時、圧倒的カリスマリーダーであった清宮克幸前監督から、名門ラグビー部監督を引き継いだばかり。苦悩しながら新たなチームづくりを進める中竹氏は当時33歳。(なんと、今の自分とほぼ同年齢...!)

「フォロワーシップ」を掲げた独自のチームマネジメントで、07年、08年と2年連続で大学選手権優勝を達成しました。「日本一オーラのない監督」を自称する著者は一体どのように偉業を成し遂げたのでしょうか。

 

リーダーシップ or フォロワーシップ?

 

最初に断っておきたいと思いますが、本書の中で著者も述べているように、フォロワーシップとは単なるリーダーシップの対比語ではないし、どちらが正しいかを論じることは無意味であるということを大前提として念頭におくべきだということです。チームが変われば、やり方も変わるからです。

現に、著者の前任の清宮監督は圧倒的なカリスマ性を持った強力なリーダーシップで、トップダウン型のチーム体制を構築し次々に実績を挙げていったといいます。

本書ではリーダーシップについてもフォロワーシップについても語られていますが、ここでは、著者が実践したフォロワーシップを中心としたチーム論にスポットを当てたいと思います。

 

リーダーが必要とされなくなるのが理想 

 


全員がリーダーと同じ気持ちでいること。与えられたり指示されたりするのを待つのではない。最終的に決断を下すのはリーダーだけれど、常にフォロワーもリーダーと同じように主体性を持って考える。(P105)

 

そして、最終的にはフォロワーが自立し、各人がリーダーを超越し、最終的にはリーダーが必要とされなくなってしまうのが、フォロワーシップで構築するチームの目指す最終形だといいます。

確かに、カリスマリーダーが率いるチームは、もし明日リーダーが倒れてしまったら、すぐさま崩壊してしまいそうですが、一方で、チームの構成員全員が全員の役割やスタイルを理解しフォロワーシップで支え合っていれば、誰か一人がいなくなっても(たとえそれがリーダーでも)、動揺せずに突き進める強固なチームができそうです。

でも、これだけ読むと、なんだかキレイゴトくさくて、ずいぶんと実現の遠い理想論のように聞こえませんか?

ご安心ください。本書では、実際にどのような方法で達成していったのかが詳しく書かれています。

 

期待に応えない。他人に期待しない。

 

理想のチームを作り上げるために最も重要なことは、リーダー、フォロワーの全員が各人の「スタイル」を確立し、それを全員が共有することだと著者は説きます。そのために実践された具体的なスタイルが以下の5つです。

 


① 日本一オーラのない監督
② 期待に応えない
③ 他人に期待しない
④ 怒るより、謝る
⑤ 選手たちのスタイル確立を重視

 

詳細はぜひ本書を手に取っていただければと思いますが、一見ネガティブに聞こえる③「他人に期待しない」の詳述部分に、コミュニケーションをなりわいとして日々仕事をしている自分の腹に落ちる箇所がありました。

我々はコミュニケーションの誤解の連続の中で生きており、ときに相手から期待を超えた喜びをもらったり、ときに裏切られたような態度を受けながら過ごしている。

 


 要するに、人に期待しないというのは、結局は、私自身に期待していないことである。そもそも完璧な人間ではないので、常に「所詮、私なんか」というスタンスでいる。別に卑下しているつもりもないし、悲観的になっているわけでもない。自分の能力や器は自分が一番理解しているので、このスタンスは実に心地が良い。(P54)

 

確かに、自分が営業としてリーダー的な役割をしているいくつかのチームにおいても、自分にできない部分をさらけ出して素直に助けを求めることができるようになってから、とても肩の力が抜けて、助けてくれるチームメンバーのためにさらに頑張ろうという活力(=フォロワーシップ)が湧いてきて、チーム内が好循環になっているような気がします。

 

本質はひとつ「相手の気持ちになって考える」

 

本書にはこの他にも、個人面談やチームトークなど、著者が実際に選手たちと向き合ってきた具体的な場面の描写を通じて、さまざまなフォロワーシップの実践方法が紹介されていますので、リーダーであれフォロワーであれ、少なからずチームで仕事をされている方には、ぜひご自身のチームを思い浮かべながら読んでいただければ、きっと色々な発見があると思います。

自分自身もさまざまな発見があったのですが、久しぶりに読み返して強く思ったのは、結局、本質は一つなんじゃないかということです。

それは、(きっと皆さんも)幼い頃から両親や学校の先生にずっと言われてきた当たり前のこと。

チームメンバーと向き合うとき、クライアントと向き合うとき、そして何よりわれわれ広告会社の人間がコミュニケーションデザインを考えるとき、きっと本質は「相手の気持ちになって考える」ことなんじゃないかと思います。

みんながそれを考え抜いたとき、フォロワーシップにあふれた究極のチームになれるのかもしれません。

...さて、無事に原稿を書き終わったところで、「そんなエラそうなこと言うて、先週頼んだアレどないなってんのん!?」と愛のムチをいただけそうなクライアント様に、本稿掲載に先んじて、今から謝りに行ってきたいと思います。フォロワーシップの精神で頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!!


Posted: 2015年9月10日 10:47 | コメント(0)