DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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CMを科学する

Book reviewer: 白石 正信 / Masanobu Shiraishi

今回はデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏による『CMを科学する』(宣伝会議)を取り上げます。

タイトルである「CMを科学する」。「科学する」とはどういう意味合いでしょうか。本書では「再現性を担保すること」と定義されています。取り巻く変数が非常に多く、効果を精緻に測定・検証することが難しいのが「テレビ」と、テレビで放送する広告素材「テレビCM」です。その広告効果の再現性を少しでも高めようとする試みの最新の状況が紹介されているのが本書です。

 

インターネットにつながれたテレビはすでに1000万台近くある

 

「デジタル」というキーワードが昨今の広告業界では騒がしく叫ばれていますが、本書では「デジタルマーケティング」を、「ネット領域だけに閉じたもの」ではなく、「マス・リアル・ネットの三領域をデジタルデータで統合し、顧客導線を最適化する」(P.176)ことと定義しています。

ネットとリアルについては、早い段階から、さまざまな行動データが取れるようになりました。一方で、最も影響力が大きいマスメディアであるテレビには「視聴率」という単一の指標しかありませんでした。また、テレビCMの評価方法も対象者に強制視認させた上でのアンケート聴取が主な手法で、人間の反応の95%を占めるといわれる「無意識下の反応」まで探るすべはありませんでした。

しかし、いまや国内のテレビは1000万台近くがネットとつながり、今後もオリンピックに向けた買い替え需要などで、ネット接続されたテレビ受像機の台数は増加すると予測されます。ネットとつながったテレビはパソコンやスマートフォンと同じデジタルデバイスなので、「視聴率」以外の詳細な視聴ログデータを取ることができるようになります。CM素材の評価に関しても、脳波を計測するなど、ニューロサイエンスによるアプローチで、無意識下の反応を測定する方法が開発されています。

つまり、今までは困難だったマス領域でもデータによる検証で再現性を高めることが可能になり、先述の「マス・リアル・ネットの三領域をデジタルデータで統合し、顧客導線を最適化する」ことが実現可能になりつつあるのです。

 

ニューロサイエンスによるCMの評価

 

ニューロサイエンスによるCM評価手法の可能性のひとつとして紹介されているのが、電通サイエンスジャムが開発した脳波から五つの感性(興味・好き・ストレス・集中・鎮静)を分析できる簡易型評価キット「感性アナライザ」です。

この感性アナライザ、私も実際に手に取ってみたことがありますが、非常に軽く、頭に装着することへのストレスはほとんどありません。今までは脳波を測るためにはMRIを使用したり、大型の脳波計を装着しなくてはならなかったのですが、そのような特殊な状態にあるということ自体が測定結果に影響を及ぼす可能性が高く、実際の視聴環境とは隔たりがあることが課題でした。その点を解消する可能性があるのがこのデバイスです。

電通サイエンスジャムでは、この感性アナライザと過去のCMアーカイブを活用し、視聴時の脳波データの蓄積からパターンを探ることで、「効果の高いクリエーティブ」をつくるためのヒントを見つけ出そうとしています。

(補足:感性アナライザはその機動性を生かして、さまざまなマーケティングの検証実験に用いられています。例えば、海外からの観光ニーズを探るために、観光客にガイドをつけた場合とつけなかった場合とで興味度がどのように変わるのかを検証したり、ファミリーレストランの店舗内でストレスがかかりやすい場所はどこなのかを明らかにし、店舗設計の改善に生かしたりしています)

また、ニールセンでも脳波測定とアイトラッキングを組み合わせたニューロマーケティング調査を行っており、「注目」「感情関与」「記憶」といった三つの指標で分析しています。

その分析結果から、脳波の反応の違いは年代や人種や国籍以上に男女の違いが大きいということや、CMで商品カットにさまざまな情報を詰め込みすぎると注意が分散して効果が半減してしまうこと、文脈やストーリーを無視して機能説明を入れてもスコアは落ちてしまうことなど、今までも肌感覚として想定されていたことが、実際にデータによって裏付けられています。

また、アンケート調査でブランド名をきちんと回答している場合でも、無意識下では競合ブランドを想起していて、長期記憶には競合ブランドが刻まれてしまっている、といった懸念すべき事態があることなども、ニューロマーケティング調査によってはじめて明らかになりました。

 

「CMが科学できる」時代の具体策

 

このようにテレビに関するさまざまな視聴データが取れ、CMについても無意識下の反応まで測定できるようになり、これからますます「CMが科学できる時代」になっていきます。

そのような変化の中、本書で提唱されている今までと大きく異なる考え方が「キャンペーンもいわゆる「アジャイル」(即時対応)型に」(P.144)です。


テレビCMのアクチュアル到達をリアルタイムで把握して、ターゲット到達が足りないと見れば、入札型の動画広告で補完していく。つまり「リアルタイムの運用で最適にする」(中略)消費者からの反応もリアルタイムで把握し、対応できるのであればキャンペーン期間中にも何らかの施策実行をするべきだ。(P.144)

 

そのために著者は「7:2:1」の予算配分を提唱しています。その内訳は、すでに効果が検証されているメディアや手法に7を、新たにチャレンジして効果検証すべきメディアや手法に2を、最後の1は前述の通り、キャンペーン中に生活者の反応や競合の動向に対応できるように見ておく予算、というわけです。

 

最後に

 

ここまで、「いまテレビとテレビCMに起きている大きな変化の概要」「ニューロサイエンスを用いたCM評価手法」「データを生かすためにキャンペーンもアジャイル型を推奨」といったトピックをご紹介しました。本書には他にも「新しく登場したテレビ視聴データ供給サービスの紹介」、「データの分析から得られた知見の事例」、また「日本以上に急速にテレビの視聴環境が変化しているアメリカの最新レポート」などが掲載されています。これからはじまる「CMが科学できる時代」に備えるために必携の1冊として、ぜひ手に取ってみてはと思います。


Posted: 2016年6月25日 13:59 | コメント(0)

「2020年までに先進国を中心に500万人の仕事が失われる可能性がある」
「これから小学校に上がろうとする子どもの約65%が今は存在していない職業に就く可能性がある」

今年のダボス会議で発表された、人工知能(AI)やロボット工学、バイオテクノロジーなどの科学技術の進歩によって上記のような未来が訪れるかもしれない、とした報告に、得体の知れない怖さのようなものを感じたのはきっと僕だけではないでしょう。

そんなことを思っていたころ、書店で見かけて、きっと難解なんだろうなと思いながらも、いささか挑戦的なタイトルに引かれて読み始めた一冊『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)を紹介します。

著者の入山章栄氏は、国内大手シンクタンクで調査・コンサルティング業務に従事した後、米国に渡り、2013年秋までの10年間に二つのビジネススクールに在籍して、まさに世界最先端の経営学の勉強・教育・研究に携わってこられたとのこと。

 

そもそも、「経営学」って役に立つの??

 

日々、現場で激務をこなすビジネスパーソンにとっては、「経営学なんか現場でホンマに役に立つんかいな??」というのがリアルな気持ちじゃないでしょうか。著者が本書を書こうと思ったきっかけはまさにそこにあったようです。

著者は、「経営学」に対してわれわれは大きく二つの誤解を持っていると言います。

 


誤解1.経営学者は「役に立つこと」に興味がある(P.26)
誤解2.経営学は「答え」を与えてくれる(P.32)

 

自分自身にとって、より納得感があったのは誤解2についての著者の見解です。著者が多くのビジネスパーソンとの交流の中で実感したのは、「経営学に『答え・正解』を求める」人は「もう知っているから役に立たない」とか「抽象的すぎて実務に応用できない」と感じがちということ。ですが、「経営学を『思考の軸』と捉える」人は、自社で取り入れている具体的な施策の是非を論理的に確認したり、目新しい知見に対するときの軸・羅針盤にして実務への思考を深めたりするものとして、経営学を使っているというのです。

 


航海に出るとき、羅針盤は方角を示すだけで、「どうすれば一番早く安全に目的地に着けるか」は決して教えてくれません。(中略)では航海に羅針盤は不要かというと、もちろんその逆です。羅針盤があるからこそ、それが航海ルートを決める軸となり、その上で風を読み、潮の動きを読み、天候を読むことで、経営に最善と思われる方向を見つけ出すことを手助けしてくれるのです。(P.37)

 

「チャラ男」と「根回しオヤジ」こそが、最強のコンビである

 

羅針盤の例えには納得したけれども、やっぱり経営学の本だけに読みづらいのでは...と心配することなかれ。目次を見れば一目瞭然です。自分自身が日頃の実務体験と照らし合わせて印象に残ったいくつかの章をピックアップしてみます。

 


第7章 「チャラ男」と「根回しオヤジ」こそが、最強のコンビである
第8章 組織の学習力を高めるには、「タバコ部屋」が欠かせない
第9章 「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!
第11章 真に「グローバル」な企業は、日本に3社しかない
第14章 男性中心職場での「できる女」の条件
第16章 成功するリーダーに共通する「話法」とは
第20章 日本の起業活性化に必要なこと(2)サラリーマンの「副業天国」
(P.6〜9)

 

本書における「チャラ男」とは異業種交流会や勉強会などに積極的に参加したり、積極的に名刺を配って人脈を広げるようなフットワークの軽い人のことを指しているのですが、社内で売り込むといったアイデアの実現には「チャラ男」だけでは成立しません。「イノベーション」と「クリエイティビティー」の違いをゴールとプロセスであると認識できれば、新しい知の組み合わせによってクリエイティビティーを発揮しやすい「弱いつながり」の人脈を多く持った「チャラ男」と、アイデアを実現させるために必要な「強いつながり」の社内人脈を多く持った「根回しオヤジ」(目利き上司)のコンビこそが組織の創造性を高めるためにも今の日本企業に必要である、と主張しています。

自分自身、社内外問わず「弱いつながり」であっても人間関係を大切にしたい、また、新しい出会いに対しても常にオープンな姿勢でありたいと意識しながら日々の業務に取り組んでいるつもりなので、時々「チャラい」とやゆしてくるチームメンバーに本書完読を強く勧めようと思いました(笑)。

若干キャッチーにつけられたとも思われるこれらのタイトルに対する期待を裏切らないのは、その全てについて、経営学者たちが何百何千という企業データを使った統計分析や人を使った実験やコンピューター・シミュレーションをしたりして導き出した「真理に近いかもしれないビジネスの法則」であるからなのでしょう。一つ一つの詳細についてはぜひ本書を手に取っていただければと思います。

 

「不確実性」に満ちたこれからを生き抜いていくために

 

終盤の第21章では「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバード大学クリステンセン教授の論文が紹介されているのですが、個人的には本書のまとめの章のように感じてとても腹落ちしたので紹介しておきたいと思います。教授は、ジェフ・ベゾス(アマゾン)、マイケル・デル(デル・コンピューター)、ハーブ・ケラー(サウスウェスト航空)をはじめとした22人のキラ星のごとき著名起業家へのインタビュー調査から、彼らの思考パターンは以下の四つにまとめられると主張しています。

 


(1) クエスチョニング(Questioning):現状に常に疑問を投げかける態度
(2) オブザーヴィング(Observing):興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する思考パターン
(3) エクスペリメンティング(Experimenting):それらの疑問・観察から、「仮説をたてて実験する」思考パターン
(4) アイデア・ネットワーキング(Idea Networking):「他者の知恵」を活用する思考パターン
(P.280,281より一部省略して引用)

 

本書で「世界最先端の経営学」として紹介されている論文のほとんどが2年以上前のものであるということは、上記のような新たな「知」がまだまだ生まれ続けているということですよね。まさに現実のビジネス世界のスピード感にリンクしているように感じました。毎日の実務の中で肌で感じる「スピード感」とダボス会議の報告にあるような「不確実性」に満ちたこれからのビジネスの世界において、「世界最先端の経営学の知」という羅針盤を持つことは、生き抜いていく勇気を持つことに近いのかもしれないと思いました。


Posted: 2016年6月 8日 18:42 | コメント(0)