DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
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■見える化できる時代だからこそ、思考停止がまん延している?


―「KPI目標を達成するべく、全力でPDCAを回しましょう」―


デジタル時代のマーケティング業務において、 ①戦略とKPI設計、目標数字の設定 ②とにかく施策を実行 ③結果の可視化・レポーティング ④原因究明と打ち手の検討...といった、いわゆるPDCAサイクルがいたるところに浸透しています。


一昔前の「エイヤ!」なやり方に比べると、相当合理的になりましたが...、逆に私自身がさまざまなマーケティングの現場を見てきた中で感じるのは「PDCA病」のまん延です。


「病気? KPI目標達成に向けてPDCAに注力することの何が悪いのだ!」なんて、声が飛んできそうですが。ここで言いたいのは、PDCAのレールに乗ってさえすれば、他の可能性に目線を向けなくてよい、ある種の思考停止のような症状。これが至るところで起こっているのではないか、と私も個人的に危機感を持っています。


今回は『米軍式 人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)から、「優秀な人材と豊富な資源、完璧なPDCAサイクルを持った組織が、時としてなぜ簡単に負けるのか?」について、探っていきたいと思います。

 

■PDCAの病...敗北したイラク軍と日本企業の抱える課題

 


敗者は、訓練された兵士と高性能の武器を持ちながら敗れた。
勝者は、相手に実力を発揮させない「新たな戦い」で勝利した。(P.2)

 

湾岸戦争において、イラク軍が米国をはじめとした多国籍軍に敗れたという史実については省略しますが、イラク軍は当時、大変優秀な人材と武器資源を保有していたとされ、その上での「完璧な軍事戦略計画」があったといいます。

ところが、実際は多国籍軍に簡単に裏をかかれた揚げ句、現場の機能不全に伴い敗北。

 


「計画による管理」は、一歩間違うと悲劇的な結果を招きます。(P.16)

 

本書では先に述べた日本企業の「PDCA病」について指摘しています。計画と管理はもちろん適切にされるべきですが、優秀な人が多い組織ほど、計画とその完璧な実行に溺れ、時に大敗を喫すといったケースが増えているといいます。PDCAの持つ根本的な課題が昨今、あらわになっているのではないでしょうか。

 


某出版社では、編集者に「たくさん企画書を出せ!」と命じて、それを達成すべく「月にいくつ企画書を出したか」をKPIとしました。すると編集者たちは、つまらない企画書しか出せなくなってしまいました。(P.86)

 


「無理な販売予算」の達成に向けて値下げを始めた会社では、少しずつ売上総利益率(=粗利率)が低下していきます。(P.87)




そもそも無理なKPI設定や、本質を見落としている「お間抜けKPI」設計を行っているケースが存在するのは、なぜなのでしょうか。

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さて我々のビジネス界。多くの会社で組織のイラク軍化が進んでいないだろうか?
それどころか、計画と管理を強めすぎ、自らイラク軍化を進めていないだろうか?
だとすれば、一刻も早くそこから抜け出さねばならない。そのためのヒントが「機動戦」にある。(P.3)

 


■予測できない世の中だからこそ、変化を前提とした「機動戦」へ

 

「機動戦:Maneuver Warfare」と本書で呼ばれているこの概念は、いわゆる「消耗戦」に対して、いかに現場が自律的に考えて行動することが重要かを、端的に表しています。


日本でいち早くPOSシステムを取り入れたセブン-イレブンを、POSデータの海に溺れることの危険をいち早く気付いた企業として挙げています。データに表れない何かに対しても意識を向け、発注には人間自身が手間と時間をかけることの重要性を説いているそうです。


また、LINEの元CEO森川亮氏は、これまでさまざまな「計画」を元にしたマネジメントを実施していたところ、市場の変化が激しいデジタル業界では、頻繁に不測の事態が起こり「計画」を何度も変更するということが起きていたそうです。そうなると、社長は気分屋でついていけないだとか、逆に計画を出さなければ何を考えているか分からないだとか、さんざんの言われようだったとか。結果、最低ラインの示達数字と大枠の方針のみを事業リーダーへ伝え、あとは「任せる」経営を行ってきたといいます。

 


「想定される攻撃」に対して、適切かつ機敏に行動が取れること。
「想定外の攻撃」に対しても臨機応援な対応が取れること。(P.31)

 


この二点の間には実は天と地ほどの差が存在し、うち後者実現のためのフレームワークの可能性に本書では触れています。

 

■経営・マーケティングにおける「D-OODA」モデル適用の可能性

 

上記の機動戦をより実践的に落とし込んでいく上で、著者は「D-OODA(ドゥーダ)」モデルを提唱しています。「D-OODA」モデルのベースになっているのは、「OODA」フレームワークです。

 


「OODA」? あまり聞き慣れないと思いますが、実は機動戦の基本で「観察(Observe)→方向付け(Orient)→決心(Decide)→実行(Act)」の流れです。

 

このOODAフレームワークで、機動的な意思決定と実行のループを規定しつつ、目標設計段階フェーズにおいて、「正しい問題の設定」を行う「オペレーショナル・デザイン」手法との組み合わせを提唱しています。

 

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きちんと人が動く戦略と組織へ―。「オペレーショナル・デザイン」のキモは、「D-OODA」における「D(Design)」である下記の三つだと著者は解釈しています。


① 上司-部下の知識・知見を元にした『対話』
② 作戦の『大筋』の合意
③ 正しい『目標設定』、柔軟な『実行権限』 


なんて当たり前では!?と思われる方も多いかもしれませんが、これ、意外とないがしろにされてはいないでしょうか。
対話プロセスから始まり、多角的な知見集積から紡ぎ出される戦略は"腹落ち"するイメージがありますね。

 

■おわりに。〜打倒シン・ゴジラに見るD-OODAの威力!〜

 

はっきり言って、PDCAサイクルは非常に重要なフレームワークですし、私はそれを否定するつもりは全くありません。また、このD-OODAモデルといった考え方が、果たして本当に国内のマーケティング組織でワークするかどうかも、未知数です。


しかしながら、「D-OODA」モデルの可能性を非常に感じたのが、映画『シン・ゴジラ』です。


劇中では、ゴジラという国家危機に対して、これまでのPDCA的な組織対応ではなく、やむなく柔軟な「D-OODA」型組織対応へと変化し...と、これ以上はネタバレになってしまいますが、ご覧になった方にはすごく共感してもらえるのではないでしょうか。というか本当にすてきな映画でした。また、重要なことを忘れていましたが、言わずもがなヒロインの石原さとみさんはとてもすてきだと思います。


もしもこの先、現実のビジネスの世界でも「D-OODA」モデルが日の目を見るチャンスがあるとしたら...それは国家や企業がゴジラのような超危機的状況に相対するも、スクラップアンドビルドによって生き残った、まさにその時なのかもしれません。


以上、マーケティングの現場からでした。


Posted: 2016年8月27日 22:30 | コメント(0)

今回紹介するのは、世にも不思議なビジネス書です。
なにせ、累計2000万部を超える大ヒット作『暗殺教室』を生み出した漫画家・松井優征さんと、世界的に注目を集めるnendoを率いるデザイナー・佐藤オオキさんの対談本ですから。

松井優征、佐藤オオキ著『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』(集英社新書)です。

最初に、お二人を簡単にご紹介します。
まずは、松井優征さん。
今年7月、『暗殺教室』は完結を迎える第21巻が発売されたばかり。このマンガはアニメ化、映画化もされたので、ご存じの方も多いかと思います。実は『魔人探偵脳噛ネウロ』に続く連載2作目というのだから驚きです。

そして佐藤オオキさん。デザインファームnendoの代表です。大学では建築を学んでいたというバックグラウンドを持ち、現在はなんと約400ものプロジェクトを抱える大人気デザイナーでいらっしゃいます。

二人に共通するのは、広い意味でのものづくりです。
「ものづくりに関して考えることが、ほとんど共通している」(P.5)という佐藤さんの言葉通り、対談形式でつづられるこの本の多くがあうんの呼吸で進んでいきます。

ものを生み出す際、どんなことに気を付け、どんな流儀を持っているのか?

共にヒットを連発するクリエーターですから、その会話にはこれからの時代に求められるヒントが隠れているはずです。

 

まずは自分の弱さを認めるところから始めてみる

 

この本のサブタイトルにも表れていますが、大事なキーワードは「弱者戦略」。
最初は、「こんな売れっ子の二人のどこが弱者なんだ!」というツッコミ待ちかもしれないなと思っていたのですが、どうやら違いました。本当に、お二人は弱者としての自覚からいかにして勝っていくかをトコトン考え抜いて徹底しているのです。

 


松井:「自分に大した才能がない」が、僕の漫画家としての基本戦略なんです。
(中略)他に天才はゴロゴロいるんだと自覚するところから、本当の意味での漫画家人生が始まったんだと思います。
それでは大して才能がない人間がこの業界で生き抜くにはどうしたらいいか。そのためには他の能力を磨く。「生き抜くためなら何でもするぞ」という覚悟を持つ。そして考えて考え抜く。そういう姿勢を身につけました。(P.78-79)

 

自らの絵が下手であると実感させられた経験が原点にある、と語る佐藤オオキさんも同様です。自分の才能の無さ、弱点をまず認めてみる。そこから、周りを見渡して戦い方を考える。それを徹底する。
精神論に聞こえてしまうかもしれませんが、お二人にとって全ての原点であるように感じました。

 

「やりたいことがない」大歓迎

 

デザイナーも漫画家も、世間からすれば「自分がやりたいことを突き詰める」職業に見えます。ですがこの点に関してもお二人は独自の方法論を持っています。

「やりたいことがなくったって、いいじゃない」という考えなのです。

 


松井:やりたいことがあるかないかでいうと、僕はない方で、お客さんが求めるもの=自分のやりたいもの、という考え方なんですよね。

(中略)やりたいことがしっかりある人って、自分にはわりともろいように思えて。そのやりたいことがなくなってしまったら、そこから何も生みだせなくなってしまう気がするんですよ。

佐藤:確かに「やりたいことがある」は、やりつくしてしまって、完結してしまう恐れはありますよね。その点、「やりたいことがない」は、かなり持続性のあるモチベーションになります。何が来ても楽しめちゃいますし。(P.82)


なんて素直な意見なのでしょう。
先ほどの弱者戦略から続く考え方ですが、「世の中でやっていくにはこうじゃないといけない」という思い込みは捨てて、自分の弱点と向き合ってきたからこそ、逆に「何が来ても楽しめる」という強みを見つけられたわけです。

 

クライアントの先の未来を描けるかで、勝負は決まる

 

「お客さんの求めるもの=自分のやりたいもの」な姿勢は、佐藤さんも同じです。では、そのクライアントが求めている新しいアイデアは、一体どのようにして生み出されているのでしょうか?

 


佐藤:クライアントの問題を解決しようとするとき、マーケティングの発想で言うと、これまでこのクライアントが何をしてきたかを確認するんです。そうやって「過去」の情報を整理しながら、一歩先の「未来」を示す。(中略)

でもそういう問題解決の仕方だと、過去からの流れの延長線上でしかないので、アイデアとしての爆発力はない。(中略)自分の理想としては、まずポーンと先を見ちゃうんですね。

松井:すこし先ではなく、何段階か後の「未来」を見る?

佐藤:そうです。現状の問題に対する答えではなく、先にいくつも答えを想像してしまう。Aの1、Aの2、Aの3...その答えの中で、一番相性のいい質問に返ってくる。(P.108)


ポイントは、未来から逆算する思考法と、その未来を一つに絞らない柔軟さなのではないでしょうか。
本の中では、「きれいなハートを描いてくださいとクライアントに言われたら?」「新しい冷蔵庫をデザインするとしたら?」などなど、さまざまな思考実験が繰り広げられます。どれもこれも、両者から本当にユニークな視点で生み出されたアイデアがずらずら出てきます。きっと今ある課題やデータを追い続けるのではなく、ドラえもんのようにポーンと未来を描いてしまって「こんなのがあればいいのにな」と逆算で発想しているからこそ、他と違うユニークな視点が次々発揮されているのでしょう。

...ぜひ見習いたいところです。

 

「暗殺教室」を生んだマーケティング戦略

 

ちょっと個人的な趣味が入りますが、「暗殺教室」本当に大好きなんです。特に20巻と21巻は涙無くして読めませんでした。

この本を読み始めた一つの理由は、あの作品がどんなプロセスで生まれたのか、知りたかったのです。

ご存じない方のために本当に簡単に説明しますと、3年E組の生徒たちが謎の生物=殺せんせーの暗殺を目指す話です。ざっくりですみません。

一見すると、かなり異端児なマンガなのでは?と思ってしまいますが、松井さん本人は「普通の学校もの」「(野球に例えると)一球目だけ変化球で入って、あとはセオリー通りに組み立てているだけ」と、こともなげに語ります。

 


松井:ただ「暗殺」と一言加えて入り口を変えるだけで、全然別の世界が開ける。『暗殺教室』は自分の中で王道というかど真ん中に近いんですよね。今、王道を行く漫画が減っていて、隙間をつくような漫画が増えていまして。

(中略)もっと単純明快に、「あいつとあいつがやり合う」みたいな、すっきりとわかりやすく、多少ベタでもど真ん中の漫画が求められているんじゃないのか。『暗殺教室』を描く前ぐらいに、そう考えていたんですね。(P.27-28)


弱者戦略をフル活用して、今の漫画界をしっかり見つめて導き出された結論が、極めてど真ん中の王道を行く...というのが実に面白いところです。実際、『暗殺教室』はとても王道な学園モノ系であり、敵と戦って成長していくバトルモノでもあります。

弱者として自分の武器を磨き上げ、柔軟な発想と優れたマーケティング目線を兼ね備えたお二人のお話は、ただ読んでいるだけでもこちらの固定観念がどんどん崩されていくような感覚に襲われます。対談形式で読み進めやすい一冊ですので、みなさまぜひご一読を。


Posted: 2016年8月 5日 13:11 | コメント(0)