DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
- MONTHRY ARCHIVES

困りました。非常に困りました。とてもおもしろくて夢中になって読んだのですが、コミュニケーションの本質を語る言葉の鋭さのあまり、気付けば付箋だらけになってしまっていて、引用だけで本稿の枚数が尽きてしまいそうだからです。

今回ご紹介する一冊『広告をナメたらアカンよ。』(宣伝会議刊)は、「ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ」「変われるって、ドキドキ」「未来は、希望と不安で、できている。」など、きっと皆さんもご存じの(個人的にもとても好きな)コピーを書かいているコピーライター/クリエーティブディレクターであり、現在は大学で教壇にも立つ山本高史氏の著書です。

「時代/社会/人間」の視点で広告を読む


本書は、「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」から「みんながみんな英雄。」まで25の広告を「時代/社会/人間」の視点で読み解くことでコミュニケーションの本質に迫っていきます。

著者は、「時代/社会/人間」における受け手と送り手の合意から広告が導き出されていると説きます。


送り手がその「時代/社会/人間」を受け手と共有し、より豊かに深く認識・理解していることで、受け手の共感性の高い、つまり彼らの状況に対して最適な(広告効果を最大化する)提案を行えるのである。(P38、39)


例えば、2000年のトヨタカローラの「変われるって、ドキドキ」という著者のコピーは


「21世紀を直近に控えた時代に/ITを核に変化を始めた日本社会において/これからを模索する50代を中心とする大人」という受け手の状況に対して送ったメッセージである(P36)


といいます。この視点で古いものから新しいものまでさまざまな広告を読み解いていきます。

「営業」が「クリエーティブ」を読むとき


広告会社の若手の「営業」が、「クリエーティブ」関連の本を読む動機はだいたい、クリエーティブプレゼンで営業としても気の利いた一言が言えるようになりたいか、テレビCMの撮影現場で「今の良かったですね!」と自信を持って言えるようになりたいか、クリエーティブメンバーとのブレストで同じところで笑えるようになりたいか、広告業界で働いているということを思い出したいかのどれかだと相場が決まっています(笑)。

ただ、お世辞にも自ら若手とはいえない「営業」の自分が本書を手に取ったきっかけは、まさに目の前で制作している広告と、「営業」が日々の業務の中で積み重ねるコミュニケーションそのものとの関係性が気になりだしたからです。


言葉は、送り手が受け手を自分の望む方向へ動かそうとするものだ。それを叶えようとするのならば、「受け手の言ってほしいことを言ってあげる」必要がある。「受け手の言ってほしいことを言ってあげる」とは、なんとも善良な字面ではあるが、その実は「送り手が自分の欲望を満たすために、受け手の欲望を叶えてやる」ことに他ならない。(P181、182)


この言葉は、広告制作についての言及ですが、日々のクライアントやチームメンバーとのやりとりにおいて「営業」こそが意識すべきコミュニケーションそのものの本質ではなかろうか、とふに落ちました。

そんなふうに、今一度「広告」そのもののことを考えている現在の自分にとても響いた切れ味の鋭いフレーズをもう一つだけ紹介させてください。


広告が欲望を煽ることに眉をひそめる向きもあろう。しかし欲望が露わな世の中は、ある意味健全である。欲望がない、もしくは欲望が抑圧された社会になど、暮らせるもんか。(P259)


「営業」として広告制作の現場にいると、この商品をひとりでも多くの人に届けたい!というクライアント側の欲望ばかりに視点が向きがちになってしまいますが、そもそも商品が売れるということは生活者の側の欲望をかなえることにもなるということなのだと、当然のようで、とても深い本質を再確認させられて、ハッとしました。

「広告をナメたらアカン」理由とは?


「いいコピーとは、どんなコピーか?」と問われたら「売れるコピー」と即座に回答するという著者の筆致は「営業」としても心地良く読み進められます。

著者とは少し異なる視点かもしれませんが、個別最適化だとか、One to Oneマーケティングだとか、「広告」ではなく「個告」だとか叫ばれている今という時代の広告業界において、それでもクライアントの皆さまには「やっぱり広告をナメたらアカンな」と感じ続けてもらいたい。そんな「営業」として、(自戒の念も込めて)シビれた一節は、「おわりに。」に記された以下のメッセージです。


「広告をナメたらアカンよ」とは大きく出たものの、まあナメてもいいんです、広告だから。ホントにナメちゃアカンのは、コミュニケーション。
空っぽの言葉を使うな、うわべだけのメッセージを送るな、何よりも言葉を壊すな、ます他人のことを考えろ、言葉は、知恵や知識や知見や経験や社会観や人間観や愛情や情熱や情念や希望の産物である。そんなことも考えないで広告をナメるな、ということです。(P393)


チームのメンバーと、クライアントと、ひいては家族とコミュニケーションするとき、自分が発する言葉を見つめ直して、また明日からも「営業」という仕事と向き合っていこうと思いました。


Posted: 2016年12月26日 09:19 | コメント(0)

7つのコミュニケーション戦略

Book reviewer: 川畑 茉衣 / Mai Kawabata

「コミュニケーションデザイン」「コミュニケーションプランニング」「マーケティングコミュニケーション」...

ここ数年で、肩書や組織名称に「コミュニケーション」と付くケースが非常に多くなったように感じます。

私自身も、普段はデジタルを中心としたメディアプランニングを行っていますが、名刺の肩書は「コミュニケーションプランナー」です。

というのも、ものや情報があふれ、生活者との接点も無数に存在している今、マーケティングも、クリエーティブも、メディアプランニングも、どのように生活者とコミュニケーションを図っていくか、という「コミュニケーション戦略」の中で、生活者を動かし、クライアントの課題を解決していくことが求められているためです。

"コミュニケーション"と一言で言うと、なんともふわっとした言葉に聞こえるのですが、まさに友人や会社仲間、 仕事相手などとコミュニケーションを取ることと同じで、相手のことを知り、理解し、受け入れてもらえるような関係を作ることがコミュニケーションであり、それを企業と生活者間で関係構築していくために重要なのが「コミュニケーション戦略」です。

今回の磯部光毅著『手書きの戦略論「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』(宣伝会議刊)では、「コミュニケーション戦略」を「人を動かす戦略」と捉え、そのための7つの戦略・手法が手書きの図とともに整理、体系化され紹介されています。


1.ポジショニング論:「違い」が、人を動かす。
お客さんの頭の中で、競合と違った位置づけを得る戦略。

2.ブランド論:「らしさ」の記憶が、人を動かす。
お客さんの頭の中に、そのブランドらしさの連想構造をつくり、記憶に残す戦略。

3.アカウントプランニング論:「深層心理」が、人を動かす。
お客さんの隠された本音を探りあて、動機づける戦略。

4.ダイレクト論:「反応」の喚起が、人を動かす。
お客さんの直接的な反応を受け止めながら、長期的な関係をつくる戦略。

5.IMC論:「接点」の統合が、人を動かす。
お客さんとの複数の接点をつなぎ、最適なメッセージ、施策を出し分ける戦略。

6.エンゲージメント論:「関与」が、人を動かす。
お客さんが自ら関わりたくなるような施策を通して、共感しあう関係をつくる戦略。

7.クチコミ論:情報の「人づて」が、人を動かす。
ソーシャルメディア上で、情報が信頼と共感をともなって拡散することを狙う戦略。


コミュニケーション戦略は7層構造のミルフィーユ

20161205_zu1.jpg
『手書きの戦略論』より引用


本書では「コミュニケーション戦略」は、 時代の変遷に合わせて、変わったり、新たに生まれた戦略が積み重なっている状態であり、上記で述べた7つの戦略論が重なった"7層構造のミルフィーユ"である、(P.31)


と述べられており、それぞれの戦略論が生まれた歴史的な流れや背景が、過去の事例とともに紹介されています。


顧客の「頭の中」での位置づけを争う


例えば、7層の構造のミルフィーユのベースにある「ポジショニング論」。

これは、1960年代後半に生まれた戦略論で、お客さんの頭の中で、他社の製品やブランドと違う位置を占め、この「違い」で人を動かす戦略論です。

昔は、世の中にないものを作ったり、モノの機能やベネフィットで競合と差別化を図れば良かったものの、今やどの市場も成熟し、スペック面での差別化が難しくなっています。その中で、顧客のニーズをくみ取りながら、自社ブランドにとって有利に働く競争軸を発見し、お客さんの頭の中で確固たるポジションを築く必要があるのです。


コンビニでどのお茶を選ぶか?


例えば、コンビニにお茶を買いに行っても、棚には何十種類ものお茶が並べられていて、まさに群雄が割拠している状況。味の好みはあるにせよ、どのお茶も総じておいしいですよね。

その中で、「このお茶!」と選んでもらうためには、まさにこの「ポジショニング論」が非常に重要であります。そしてこの「ポジショニング論」は二つの方法に分けられると本書では明言されています。


A:「オーバーテイク型」:既存の価値軸の中で競合に勝る違いをつくる
B:「カテゴリーメイク型」:まったく新しい価値軸を打ち立てて違いをつくる(P.58)


コンビニに並んでいるお茶たちに当てはめてみましょう。「オーバーテイク型」で言うと、味や成分、身体への効果など、顕在化したお客さんのお茶に対するニーズの中で他社よりも優れている点を推しだしていく方法と、「カテゴリーメイク型」で言うと、昨今人気を博している「トクホのお茶」だったり「瓶入りの高級茶」など、これまで市場になかった新しい価値軸をつくって、「新しい選択」を提示する方法とがあります。

このように本書では、7つそれぞれの戦略論が非常に分かりやすく、整理、体系化されているので、紹介されている戦略論を、現状の市場に当てはめてみたり、自身が向き合っている課題に当てはめてみたりすることで、俯瞰的にコミュニケーション戦略の全体像を見ることができるかと思います。

7つの戦略を頭に入れたうえで、課題や、ブランド・商品の特長、ターゲットなどに応じて、戦略を使い分けたり、組み合わせたりすることで、より自身のプランニングの幅を広げることができると感じました。

「人を動かすこと」に携わっている方であれば、読んで損はない、そんな一冊ではないでしょうか。


Posted: 2016年12月 5日 12:29 | コメント(0)