DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
藤田 卓也 / Takuya Fujita ARCHIVE

今回紹介するのは、世にも不思議なビジネス書です。
なにせ、累計2000万部を超える大ヒット作『暗殺教室』を生み出した漫画家・松井優征さんと、世界的に注目を集めるnendoを率いるデザイナー・佐藤オオキさんの対談本ですから。

松井優征、佐藤オオキ著『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』(集英社新書)です。

最初に、お二人を簡単にご紹介します。
まずは、松井優征さん。
今年7月、『暗殺教室』は完結を迎える第21巻が発売されたばかり。このマンガはアニメ化、映画化もされたので、ご存じの方も多いかと思います。実は『魔人探偵脳噛ネウロ』に続く連載2作目というのだから驚きです。

そして佐藤オオキさん。デザインファームnendoの代表です。大学では建築を学んでいたというバックグラウンドを持ち、現在はなんと約400ものプロジェクトを抱える大人気デザイナーでいらっしゃいます。

二人に共通するのは、広い意味でのものづくりです。
「ものづくりに関して考えることが、ほとんど共通している」(P.5)という佐藤さんの言葉通り、対談形式でつづられるこの本の多くがあうんの呼吸で進んでいきます。

ものを生み出す際、どんなことに気を付け、どんな流儀を持っているのか?

共にヒットを連発するクリエーターですから、その会話にはこれからの時代に求められるヒントが隠れているはずです。

 

まずは自分の弱さを認めるところから始めてみる

 

この本のサブタイトルにも表れていますが、大事なキーワードは「弱者戦略」。
最初は、「こんな売れっ子の二人のどこが弱者なんだ!」というツッコミ待ちかもしれないなと思っていたのですが、どうやら違いました。本当に、お二人は弱者としての自覚からいかにして勝っていくかをトコトン考え抜いて徹底しているのです。

 


松井:「自分に大した才能がない」が、僕の漫画家としての基本戦略なんです。
(中略)他に天才はゴロゴロいるんだと自覚するところから、本当の意味での漫画家人生が始まったんだと思います。
それでは大して才能がない人間がこの業界で生き抜くにはどうしたらいいか。そのためには他の能力を磨く。「生き抜くためなら何でもするぞ」という覚悟を持つ。そして考えて考え抜く。そういう姿勢を身につけました。(P.78-79)

 

自らの絵が下手であると実感させられた経験が原点にある、と語る佐藤オオキさんも同様です。自分の才能の無さ、弱点をまず認めてみる。そこから、周りを見渡して戦い方を考える。それを徹底する。
精神論に聞こえてしまうかもしれませんが、お二人にとって全ての原点であるように感じました。

 

「やりたいことがない」大歓迎

 

デザイナーも漫画家も、世間からすれば「自分がやりたいことを突き詰める」職業に見えます。ですがこの点に関してもお二人は独自の方法論を持っています。

「やりたいことがなくったって、いいじゃない」という考えなのです。

 


松井:やりたいことがあるかないかでいうと、僕はない方で、お客さんが求めるもの=自分のやりたいもの、という考え方なんですよね。

(中略)やりたいことがしっかりある人って、自分にはわりともろいように思えて。そのやりたいことがなくなってしまったら、そこから何も生みだせなくなってしまう気がするんですよ。

佐藤:確かに「やりたいことがある」は、やりつくしてしまって、完結してしまう恐れはありますよね。その点、「やりたいことがない」は、かなり持続性のあるモチベーションになります。何が来ても楽しめちゃいますし。(P.82)


なんて素直な意見なのでしょう。
先ほどの弱者戦略から続く考え方ですが、「世の中でやっていくにはこうじゃないといけない」という思い込みは捨てて、自分の弱点と向き合ってきたからこそ、逆に「何が来ても楽しめる」という強みを見つけられたわけです。

 

クライアントの先の未来を描けるかで、勝負は決まる

 

「お客さんの求めるもの=自分のやりたいもの」な姿勢は、佐藤さんも同じです。では、そのクライアントが求めている新しいアイデアは、一体どのようにして生み出されているのでしょうか?

 


佐藤:クライアントの問題を解決しようとするとき、マーケティングの発想で言うと、これまでこのクライアントが何をしてきたかを確認するんです。そうやって「過去」の情報を整理しながら、一歩先の「未来」を示す。(中略)

でもそういう問題解決の仕方だと、過去からの流れの延長線上でしかないので、アイデアとしての爆発力はない。(中略)自分の理想としては、まずポーンと先を見ちゃうんですね。

松井:すこし先ではなく、何段階か後の「未来」を見る?

佐藤:そうです。現状の問題に対する答えではなく、先にいくつも答えを想像してしまう。Aの1、Aの2、Aの3...その答えの中で、一番相性のいい質問に返ってくる。(P.108)


ポイントは、未来から逆算する思考法と、その未来を一つに絞らない柔軟さなのではないでしょうか。
本の中では、「きれいなハートを描いてくださいとクライアントに言われたら?」「新しい冷蔵庫をデザインするとしたら?」などなど、さまざまな思考実験が繰り広げられます。どれもこれも、両者から本当にユニークな視点で生み出されたアイデアがずらずら出てきます。きっと今ある課題やデータを追い続けるのではなく、ドラえもんのようにポーンと未来を描いてしまって「こんなのがあればいいのにな」と逆算で発想しているからこそ、他と違うユニークな視点が次々発揮されているのでしょう。

...ぜひ見習いたいところです。

 

「暗殺教室」を生んだマーケティング戦略

 

ちょっと個人的な趣味が入りますが、「暗殺教室」本当に大好きなんです。特に20巻と21巻は涙無くして読めませんでした。

この本を読み始めた一つの理由は、あの作品がどんなプロセスで生まれたのか、知りたかったのです。

ご存じない方のために本当に簡単に説明しますと、3年E組の生徒たちが謎の生物=殺せんせーの暗殺を目指す話です。ざっくりですみません。

一見すると、かなり異端児なマンガなのでは?と思ってしまいますが、松井さん本人は「普通の学校もの」「(野球に例えると)一球目だけ変化球で入って、あとはセオリー通りに組み立てているだけ」と、こともなげに語ります。

 


松井:ただ「暗殺」と一言加えて入り口を変えるだけで、全然別の世界が開ける。『暗殺教室』は自分の中で王道というかど真ん中に近いんですよね。今、王道を行く漫画が減っていて、隙間をつくような漫画が増えていまして。

(中略)もっと単純明快に、「あいつとあいつがやり合う」みたいな、すっきりとわかりやすく、多少ベタでもど真ん中の漫画が求められているんじゃないのか。『暗殺教室』を描く前ぐらいに、そう考えていたんですね。(P.27-28)


弱者戦略をフル活用して、今の漫画界をしっかり見つめて導き出された結論が、極めてど真ん中の王道を行く...というのが実に面白いところです。実際、『暗殺教室』はとても王道な学園モノ系であり、敵と戦って成長していくバトルモノでもあります。

弱者として自分の武器を磨き上げ、柔軟な発想と優れたマーケティング目線を兼ね備えたお二人のお話は、ただ読んでいるだけでもこちらの固定観念がどんどん崩されていくような感覚に襲われます。対談形式で読み進めやすい一冊ですので、みなさまぜひご一読を。


Posted: 2016年8月 5日 13:11 | コメント(0)

今回ご紹介するのは、水野学、中川淳、鈴木啓太、米津雄介著『デザインの誤解』(祥伝社)です。
これはデザイン本ではなく、マーケティングの教科書だと思います。書名は「ものづくりの誤解」でも良かったのでは? そう思えてしまうほど、この国の商売への示唆にあふれています。

メーカーが悩むのはヒット不足よりも「定番の欠如」問題

 

まずは、ちょっと思い浮かべてみてください。
テレビでも洗濯機でも車でもボールペンでもお菓子でもカバンでも、どんな商品カテゴリでも構いません。そのカテゴリーに、みなさんが「定番」と呼べるものはありますか?

 

...即答できた方は少ないのではないでしょうか?
そしてそれはそのまま、日本の多くのメーカーが抱える悩みにつながっていきます。本書にこんな声が載せられています。

 


とある家電メーカーの方から、こんな話をうかがったこともあります。 「毎年、微修正を加えて新商品を出すんですが、この市場はもう飽和していて、たいして売れるわけではないんです。本当は、この商品開発サイクルをやめたいんですよね。(中略)長く同じものを売り続けられるといいんですけどね」(P.28)

 

 

よく、日本のメーカーの苦戦がニュースで取りざたされます。「ヒット商品がない」だとか「海外市場が取れていない」といったような、耳なじみのある課題に行き着きやすいのです。でも実は「長く売れる商品が減っている」ことこそ、大きな問題なのではないでしょうか。

 

出版業界でも、「爆発的に売れるベストセラーと、全く売れない本の二極化が激しい。ロングセラーとして毎年ある程度売れるタイトルがどんどん減っている」という声を聞いたことがあります。こうなってしまうと、腰を据えて市場と向き合うことがどんどん難しくなってしまう。
本書は、こうした定番の欠如に切り込んでいきます。

 

どう差別化するか?時代の変遷を振り返ってみる

 

高度経済成長の時代だったら、需要が桁外れに巨大です。モノを作ればすぐ売れたのかもしれません。でも今は違います。多くの人はもう十分モノを持っている。企業は躍起になって差別化を図り、需要を創り出そうとしています。
この記事のタイトルは、その代表的な手口の変遷をまとめたものです。

 

1970年代は、テクノロジーの進化で競い合った「機能の時代」。
19080年代になると、無印良品が誕生するなど商品単体で勝負するよりはラインアップを充実させていく「ライフスタイル提案の時代」へ。
バブル崩壊後の1990年代はなによりも「価格の時代」です。同時に、環境問題が論点になることが増えていき、リサイクルを考慮したエコロジーな商品が台頭します。
2000年代には企業がデザイナーとの本格的なタイアップをスタート。それまでデザイン性を重視していなかったところも軒並みオシャレな商品を発表し、「デザインの時代」に突入しました。SNSが浸透し、誰もが自由に情報発信できるようになった現代は、企業姿勢や作り手の思いが世の中に届きやすくなりました。
2010年代は、世のため人のためになるというソーシャルグッド性や開発におけるドラマなど口コミで人々から愛されるモノが売れる「文脈の時代」になってきています。
著者はこれから定番商品こそ本当に欲しいモノになっていくのではないかと予測しているのです。そしてその論点こそ、この本のユニークなところなのです。

 

定番=平凡ではない。定番=基準である。

 

この本の副題は、「いま求められている『定番』をつくる仕組み」。
では、著者たちは「定番」をどう定義しているのでしょう? 定番、というと昔から長く使われているモノを指す人が多いはず。ジーンズなら、リーバイス501といった具合です。でも著者たちはここに独自の思考を巡らせています。著者はgood design companyの代表としてさまざまなプロジェクトを手掛けるクリエイティブディレクターの水野学さん、日本の伝統技術に現代のデザインを取り入れた商品で人気を博す中川政七商店の社長である中川淳さんなど、「THE」という定番商品を次々と生み出しているチームのみなさんです。

 


何かを買おうとするたび、あまりにも多くの、それも似通った選択肢がありすぎて、迷ってしまう。それが現代です。モノは溢れているけれど、その分野の基準となるものが見つけづらいからです。(P.38)

 

そんな問題意識を抱いた彼らが導き出したのは、これこそTHE◯◯だ、と言えるようにすること。つまり、モノを選ぶときの基準値になりえる商品こそ定番なのだ、という結論です。
そう、定番=平凡だとか、シンプルだとか、昔から長く使われているとか、そういうものだけでは定番とは呼べないのです。

 

定番の中に隠れている5つの要素

 

定番=基準であるならば、デザイン=装飾なので見た目はシンプルに...とつい考えてしまう。このデザイン=装飾という思い込みこそ、タイトルにもなっているデザインの誤解です。デザインは決して装飾だけを指すものではないのです。
先ほど紹介したような差別化戦略の歴史を踏まえると、世の中にとって「機能性に優れている」だとか「品質に見合った買い求めやすい価格」だとかはもう必須条件を超えて、当たり前。
だからものづくりにおいても「機能」や「形状」だけを考慮していては、永遠に定番はデザインできません。水野氏は定番の条件を5つに整理しています。

 

①形状 ... モノに求められる要素をきちんと満たしている形である
②歴史 ... そもそも多くの人が長く愛してきたカテゴリーのモノである
③素材 ... 良質で、産地や製造者がきちんとしているか
④機能 ... 生活を便利にするだけの性能・能力がある
⑤価格 ... 品質を落とさず、かつ高すぎない「適価」である

 

これらどれかが一つでも欠けてしまっては、定番になりえないのです。

 

新しい定番はどんな思考プロセスで作るのか? 

 

5つの条件をクリアすることと、定番商品を作り出すというのはまた別の話です。
どうやってアイデアを考え、それをカタチにするのか?
この考え方がいくつか紹介されているのですが、その中で最も興味を引かれたのは「ソーシャルコンセンサスから本質を導き出す」という考え方です。
ソーシャルコンセンサスとは水野氏の造語で、ニュアンスは潜在的共通認識といった感じです。「空といえば青」「スポーツカーといえば赤」「お茶碗といえばこんなカタチ」というような、みんなが心の中で既に持っている共通認識のことです。この「らしさ」を探ることが、新しい発見につながるというのです。

 


あるジャンルの「らしさ」は、実はその時代の定番から生まれている場合も多いのです。この「定番→らしさ」という図式を踏襲することで、新しい定番をつくることができると考えています。「らしさ→新定番」という図式です。(P.106)

 

どういうことなのでしょうか? 本の中で紹介されている「THE」ブランドの人気商品「THE醤油差し」を開発している時、プロダクトデザイナーの鈴木啓太氏はこんなことを考えていたと語っています。

 

定番を「継承」するのではなく、「創造」する 

 


デザインのポイントは、自分、すなわちデザイナーの主観や内なる想いから出てきたものではありません。これまでだれもが定番だと思ってきたキッコーマンの卓上ボトルを観察して、そこから多くの人のニーズを読み解き、どういうデザインをするべきかを考察した結果なのです。(P.136)

 

つまり、今ある「らしさ」を創り出したものにはヒントが詰まっているわけです。人々が時代を超えて追い求めてきたニーズが、そこに反映されている。
実際に醤油差しからどのようなニーズを読み解き、それをアップデートしたのかは本をご覧いただくとして、この分析に、いろんなメディアや交流を通じて編み出した「今こそ必要なニーズ」を盛り込んでどうアップデートすべきかをひたすら検証していく。そうすれば、今ある定番商品からさらに進化した新しい定番を生み出すことができる。たとえば鈴木氏がさらっと文中で触れていますが時代が求めている美しさの基準を「素朴の美」と端的に言い当てているところを見ても、時代への洞察も日々行っているわけです。

 

「過去を知り、現在を考え、未来を創る」

 

著者のみなさんが大切にしている思考プロセスは、当たり前のことのように聞こえるかもしれません。でもそれが当たり前にできていないからこそ、この「THE」という商品は際立った存在感を放っているのです。


Posted: 2016年3月25日 00:30 | コメント(0)

ジョジョの奇妙な冒険。

このもはや説明不要の大ヒット漫画の著者・荒木飛呂彦氏が初めて明かしたのは、これまで語られることのなかった漫画術...。もうこの宣伝文句だけで読みたい気持ちが止まらない、『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)をご紹介します。

というのも、漫画術というタイトルだけで読まず嫌いになっている方が多いのではないかと思ったからです。もったいない。「やれやれだぜ...。」という承太郎の声が聞こえてきそうです。なぜなら、この本は次の時代を考えるビジネスパーソンに役立つヒントが詰まっているからです。

「漫画術?別に漫画なんて描いてないし描く予定もない」
「どうせクリエーターみたいな連中にしか関係ない本だろう」
「こう描けばヒットする?そんなうまい話あるわけない」

もしそういった気持ちで本書を未読スルーしてしまっていませんか。
漫画の本というより、生き方の本。
そして、物事の正しい見方を教えてくれる教養本。
そんな表現がピッタリなんです、実は。

 

■漫画は最強の「総合芸術」

 

冒頭から壮大に持ち上げた感がありますが、もちろん漫画の技術に関する記述が基本になっています。目次を見てみると...


はじめに
第一章 導入の描き方
第二章 押さえておきたい漫画の「基本四大構造」
第三章 キャラクターの作り方
第四章 ストーリーの作り方
第五章 絵がすべてを表現する
第六章 漫画の「世界観」とは何か
第七章 全ての要素は「テーマ」につながる
実践編その1 漫画ができるまで
実践編その2 短編の描き方
おわりに


「やっぱり漫画家向けじゃねえかwwww」と思われるかもしれません。ですが、著者は一貫して常に物事の本質を見抜こうとしています。この本の中で長年培ってきた発見を惜しげも無く披露しています。

漫画とは何か?
面白いとは何なのか?
面白さはどこから生まれているのか?

そうした本質と向き合う姿勢が、著者の語る「漫画は最強の総合芸術」といった名言にサラリと込められているのですから驚きます。

 

■漫画に隠された、面白さを生み出す基本四大構造

 

では、著者はどうやって漫画を作り上げているのか。

もちろん本一冊使って語られているので、たとえば最初の一ページの描き方や、キャラクターを具体化していく約60項目に及ぶ身上調査書、ヘミングウェイを分析して編み出されたストーリー表現術、「マイナスプラスゼロ」というストーリー構造の落とし穴...。挙げればキリがないのですが、大前提になるとも言える基本四大構造はマストチェックです。

 


実際に漫画を描くとき、常に頭に入れておくべきこと、それは、僕が漫画の「基本四大構造」と呼ぶ図式です。
重要な順に挙げていくと、
①「キャラクター」
②「ストーリー」
③「世界観」
④「テーマ」
(中略)
つまり、読者に見えているのは絵ですが、その奥には「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」がそれぞれにつながり合って存在しているのです。この構造は、いわば、ひとつの世界の営み、宇宙とも言えるのではないでしょうか。(P.47-48)

 

優れた仕事を連発するクリエーターには、独自の方法論がある。個人的にそう思っていろんな方の流儀をノートに書きためていますが、荒木飛呂彦氏のように順位までつけていらっしゃる方は珍しいです。

僕はここにとても感動してしまいました。王道と呼ばれる、時代を超えて愛される漫画の本質を徹底的に考え抜いたからこそ発見できた基本四大構造に、順位までつけるってちょっとおいマジか。どこまで突き詰めて考えてるんだろう...。

僕が冒頭で「生き方の本」と書いたのは、こうした著者の姿勢に震えてしまったからです。単に技術を磨き、知恵を巡らせるだけではない。どこまでも良いもののために本質を追求する姿勢...。
「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!」。これ、一度言ってみたかったのでここで述べさせていただきます。

 

■アイデアは、尽きない枯れない無理しない

 

アイデア...。
日々打ち合わせにプレゼンに資料作成に、一日のうち何度触れているか分からないこの言葉。そんなアイデアの生み出し方についても語られています。

 


アイディアが尽きるというより、自分の興味が尽きるからアイディアがなくなるのだと思います。よいアイディアは、自分の人生や生活に密着しているのですから、興味がなくなってしまえば生まれなくなるのです。(P.229)

 

だからこそ常に何かに興味を持ち、素直に周囲の出来事に反応していく。自分が興味ある分野を限定することなく、外れたものも無視しない。簡単なようで難しいことです。でも、本質だと思います。


アイデアに追われる毎日の中で、ついついひねり出そうと無理しちゃいそうになる自分の心に響きました。どこまでも本質から外れない、そんな荒木飛呂彦先生が描いているのだからジョジョは永遠に王道なのだな、としみじみ感じます。

 

■王道へと続く「黄金の道」を学んだら、目指すはその向こう側

 

本書で語られる方法論は、いわば時代を超え、誰からも愛される王道漫画へと続く「黄金の道」です。そんな企業秘密をなぜ明かしてしまうのか。

 


はっきりとここで言っておきたいのは、「黄金の道」とは、「漫画の描き方」のマニュアルではありません。
(中略)
僕が「黄金の道」として書いたことをそのまま実践しても、そこに発展はありません。
この『漫画術』を土台にして、さらなる新しい漫画や、パワーアップした漫画、あるいはまったく違っていたり、とてつもなく正反対の、この本を無視した漫画でもよいでしょう。そういったものをみなさんに生み出して欲しいと思って書いた本なのです。(P.280)

 

終わりに書かれた言葉は、あくまで漫画家を志す人へのメッセージです。でも、王道を目指し、「黄金の道」を編み出し、今いるところより先へと進歩していく姿勢はどんなビジネスにも共通して求められるものなのではないでしょうか?

自分自身、広告という漫画とは全く違う分野に身を置いています。
でもこの姿勢は心から尊敬できます。

荒木飛呂彦先生は、漫画を描き続けて40年。しかもこの密度で毎日を送っておられる。いつかそんな境地にたどり着けることを信じて、折にふれて何度も読み返したくなる一冊です。


Posted: 2015年6月25日 18:04 | コメント(0)

そんな悲鳴が社内外から聞こえてきそうです、ほんと。
「これから何が売れるのか?」分かる人になる、というキャッチコピーは、ダテじゃありません。

今回取り上げるのは、ちきりん著『マーケット感覚を身につけよう「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法』(ダイヤモンド社)です。

マーケット感覚とは、価値発見力


マーケット感覚という言葉から想像されるもの。
それはたとえば個人商店をグローバルブランドにまで育て上げてしまう天性の商売センスだったり、株取引で一夜にして億万長者になってしまうような嗅覚だったり。
なんだか天賦の才能といったイメージが強い気がします。

ちきりんさんは本書の中でこう述べます。
マーケット感覚は論理思考と対になる能力であり、学んで伸ばすことができるものなのだ、と。
変化が激しく、先の見えない現代。今必要なのは、「何を学ぶべきか?」「自分は何を売りにすべきか?」という「本質的な価値」を見抜く能力であり、それこそがマーケット感覚なのだと。

全国から注文が殺到!北海道・いわた書店のマーケット感覚


いやー、そうは言ってもなんだか難しそう。
ということで、ここでひとつ事例をご紹介します。
それは北海道砂川市にある小さな街の書店、いわた書店です。
この本屋さんが始めた新サービスとは、「あなたに合う本を一万円分選んでお送りします」というサービスでした。

書籍って、商品数が多すぎる上に価値のばらつきが大きく、ぴったりの一冊を選ぶのはなかなか大変なもの。この本屋さんは優れたマーケット感覚をもってして、「本そのものを売ること」ではなく、「本を選んであげること」を商品にしたのです。
こうした感覚は、知識や経験とはまた違ったものでしょう。

「良い本を置いても売れない。出版界の未来は暗い」と考える本屋さんがいる一方で、「本屋の価値を、本ではなくて目利き力と提案力にすればチャンスはある」と考えたいわた書店。潜在的な価値を見抜く「マーケット感覚」ひとつで、こうも結果は変わってしまうのです。

広告人必須スキル? インセンティブシステムを利用して課題解決


例えば、年配の方が数万円もするのに高いカツラを買うのは、カツラではなく「バレないカツラ」に価値を感じているから。
もう一つ例を出すと、高校のあらゆるクラブ活動の中でも甲子園がひときわ巨大市場なのは、「全力で戦ったにも関わらず時の運で負けてしまう理不尽さ」や「(プロに比べて)技術レベルが低くても、気合いと根性でカバーしようとする若者たちの物語」に人々が価値を見いだしているから。

こうしたマーケット感覚を磨くために、本書では5つの方法が紹介されています。

①プライシング能力を身につける
②インセンティブシステムを理解する
③市場に評価される方法を学ぶ
④失敗と成功の関係を理解する
⑤市場性の高い環境に身をおく

私自身が一番刺激を受けたのは、②の「インセンティブシステムを理解する」でした。これ、海外広告賞などでよく見られるアプローチそのものなんです。
本の中で挙げられている例をご紹介します。

朝が苦手なエンジニアの多かったドワンゴは、出社時刻を早めようとある仕組みを導入します。それは午前中に行われる社内体操に参加したら、ランチのお弁当が無料になるというもの。「社員が早く出社したいと思う動機付けの仕組みをつくる」という発想が素晴らしいですよね。
...この発想、広告キャンペーンでよく見かけませんか?

ゴミ箱を使わない市民が多いから、使いたくなる仕掛けのあるゴミ箱をつくる。
信号無視が多いから、無視できないくらい愉快な信号機をつくる。
「行動を変える前に、動機付けの仕組みを変える」という方法論は、実はすぐにでも仕事に生かせるものです。


問題があれば、まずは人間のインセンティブシステムを利用してなんとかできないか、考えるべきなのです。そうすれば嬉々として、問題を解決する人が現れるのですから。(P178)


変わらなければ替えられる


ふむふむ、ほうほう、なるほど。
そんな感じでサクサクと読み進めると出てくる最終章のタイトルがこちらです。
正直、心の中で悲鳴上げました。
端的で、静かなたたずまいでいて、なんとも言えないプレッシャーのかかるこの言葉。
「変わることを拒否するモノは、替えられてしまう」のです。

嗚呼、おそろしや。
例外なんてありません。
市場も、モノも、サービスも、そして人間も...。

ちきりんさんが書名に「身につけよう」だったり「分かる人になる」といった「自分が主語」なフレーズをきっちり入れているのも忘れ、紹介されている例を読んでちょっと感覚磨かれた感じがして悦に入ってしまいそうになったところでこの章ですからね。やられましたよ、ズドンと。

広告の世界はどうなっていくのだろう。
そこで働くクリエーターはどうあるべきなのだろう。
自分はどうだ。
きっとそんな風に、読むと考えを始めてみたくなる一冊です。


Posted: 2015年3月12日 18:55 | コメント(0)

史上最大の広報作戦『月をマーケティングする』

Book reviewer: 藤田 卓也 / Takuya Fujita

月への切符、250億ドル。

そんな目もくらむ高額チケットをアメリカ国民に売り込んだ一大キャンペーンとは、一体どんなものだったのか。
今回取り上げるデイヴィッド・ミーアマン・スコット、リチャード・ジュレック著『月をマーケティングする』(日経BP社)は、そんなマーケティング目線でアポロ計画の全貌をひもとく一冊です。

マーケティングって、「言葉はみんな知ってるけど内容がいまいち理解できてないもの」ランキングのトップなんじゃないか。そんな気さえしてしまうほど個人的に苦手な分野ですが、ここまで壮大なスケールの作戦を驚くほど緻密に解説するこの本にかかれば、マーケティングにワクワクしてしまうこと間違いなしです。

「人類がまだ火星に行っていないのは、
科学の敗北ではなくマーケティングの失敗なのだ。」


そんな刺激的な言葉が帯に躍る本書は、アポロ計画という科学的偉業を、史上最大にして最重要なマーケティング作戦として徹底解剖していきます。
近年、「技術中心ではない、人間中心のイノベーションを」と語られることが増えています。この本はまさしく最先端の技術的イノベーションの裏にひそむ、人間性とビジネスの側面を描き出しています。

著者は、デイヴィッド・ミーアマン・スコット。
3年前、糸井重里さんが監修を務め、日本でもベストセラーとなった「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」(日経BP社)を出版したことでも知られる、マーケティングの専門家です。

ビジョンを伝えて、アーリーアダプターをつかむ。


1957年、世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げ成功。
1961年、ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行。
当時のソ連が次々と宇宙事業を成功させる中、NASAが発足したのは1958年。
逆境ともとれるスタートですが、民衆レベルでは事情が違ったようです。
実はその何年も前から、アメリカではSFドラマ、テーマパーク、さらには雑誌の特集記事によって、宇宙への夢が何度も語られていたのです。
そこで描かれていたのは、未来の世界観。
いわば、宇宙ビジネスのビジョンを語ることで、アーリーアダプターとなるファンを着実に育てていたわけです。

「開かれた広報」で、宣伝ではなく報道を。


NASAの取り組みを、国民に共感してもらう。
その際、ある思想が大きな役目を果たしました。
それは、「NASAの広報は、宣伝ではなく報道である」というもの。
新聞や雑誌、テレビなどメディアで働いた経験者を次々と採用し、メディアがどのような論理で動いているのか分かっているメンバーを集めていきました。
発信する情報はそれまでのビジョンめいたものではなく、事実に基づいた情報にシフト。また、5分未満のショート映像をテレビ局に無料提供したり、オープンな情報提供で記者たちを次々と味方につけていきました。
一方で、宇宙飛行士のプライベート情報はLIFE誌と独占契約。他のメディアには一切掲載しませんでした。これにより、宇宙飛行士=英雄ではなく、ひとりの人間としてより親しみの持てる存在というブランディングをうまくコントロールしたのです。最近流行の言葉でいうならば、コンテンツマーケティングといったところでしょうか。なんというしたたかさ。

全世界に共通体験をつくり出した「テレビ生中継」。


一連のマーケティングキャンペーンの中で、特に世界が熱狂したのは、月面着陸の生中継でした。
「月面を歩いた最後の人類」である、ジーン・サーナンはこう振り返ります。
私たちは、宇宙でみんなといっしょでした。これがテレビのなせるワザです。宇宙にほかの人たちを連れて行けたのです。(P.250)


この生中継は、当初大きな反対を受けていました。考えてみれば、カメラなんて着陸には必要ないものですから、「そんな余計な荷物より、飛行に必要なものを積め」という意見もよく分かります。
ですが、結果的にこの生中継は大成功。世界中が月面着陸を、宇宙という夢を目の当たりにし、だれもがNASAのファンとなったのです。コンテンツの使い方とメディアとの関係づくりに長けた、とてもNASAらしいマーケティング活動でした。

最大の敵は、無関心。


ところが、最初の月面着陸からわずか3年後、早くもアポロ計画は終焉への道を歩み始めます。その敵は、民衆の無関心でした。月面着陸のニュースが番組のトップを飾ることもなくなりました。宇宙飛行士のパレードを開いても、月の石の世界ツアーを行っても、その流れは止められませんでした。
理由の一つは、「人類を月に送り込む」という大義を達成してしまったこと。強くて太い大義があったからこそ、達成したその次の大義を見つけられぬまま、アポロ計画はその幕を閉じることになります。あれから40年、いまだ人類は火星に到達してはいません。


最初から最後まで、人類に夢を与え続けたアポロ計画。
読んでいる間、東京オリンピック・パラリンピック招致と重なるところがたくさんありました。これから、未来に向けてどんな夢が日本中に広がっていくのでしょうか。2020年のその先、どんな新たなビジョンが生まれているのでしょうか。
大きな仕事に取り組んでいる方、取り組みたいと願っている方、どんな人にも学びのあるボリューム満点の一冊です。


Posted: 2014年12月26日 10:09 | コメント(0)

「"時代が変わっていくな"と今年ほど感じた年はなかった」

とある大先輩クリエーターがフェイスブックの投稿にさらりと忍ばせたこの一文に、僕はぐさりとハートを射抜かれてしまいました。
時代の最先端を突き進むどころか、次の時代を創り続けている。
そう見える大先輩でさえ、戸惑っているだなんて。
2014年、広告界を覆い尽くそうとしている変化の波は、なんてデカイのだろうと目まいがしてきます。

今日ご紹介する本は、そんな過渡期にこそ胸を打つ一冊。
ホイチョイ・プロダクションズ馬場康夫氏による『ディズニーランドが日本に来た! 「エンタメ」の夜明け』(講談社+α文庫)です。
著者は、「気まぐれコンセプト」「東京いい店やれる店」といった人気書籍や「私をスキーに連れてって」などの大ヒット映画の生みの親でもあります。


■エンタメの面白さを丸ごと形にしたような一冊

この本は、ディズニーランドという巨大テーマパークの日本招致物語です。
電通の小谷正一と堀貞一郎、ウォルト・ディズニー。
この日米3人の物語が織りなす、一大ノンフィクション。
1974年、日本にディズニーランドを呼びたい2社が競い合ったディズニーへの大プレゼン合戦、浦安に住む1800世帯の漁民への説得など、数々の壮大なエピソードはまさしく「事実は小説より奇なり」。
小説のような痛快さを持ちながら、骨太なドキュメンタリーを存分に楽しめるこの本自体が、エンタメを語るに余りあるエンターテインメント性を持っているのです。


■おもてなしの本質を学ぶエピソード

ひとつ、とても感銘を受けたエピソードをご紹介します。
主人公のひとり、小谷正一は1955年、経営していたホールの知名度を上げるべく、フランスからパントマイムの第一人者マルセル・マルソーを日本に招きます。
夫に同伴していたマルソー夫人に、小谷は部下を同行させました。銀座、浅草などあらゆる買い物に、です。そしてその部下に、小谷はあることを命じ、サプライズを仕掛けます。


「女性が買い物をするとき、ふたつのうちどちらにしようか迷うときが必ずある。迷って捨てた方を全部記録してこい」
(中略)小谷は、マルソー夫人が羽田を発つとき、夫人が迷って買わなかった方の商品をそっくりまとめて箱に入れ、プレゼントした。(中略)女性が最後まで迷ったというのは、その商品を気に入った証拠である。中には、あちらを買えばよかった、と後悔したものもあったろう。小谷はそれを全部買って贈ったのだ。(P.67)


ただ気の向くまま買い物をしていただけ。
それなのに、心を見透かされたかのようなプレゼントを最後に贈られた夫人の驚きと喜びようは、どれほどのものだったでしょうか。
書中にはこういったエピソードがたくさんちりばめられています。
人の心をつかむ。できるなら、魔法のように。
おもてなしとは、どうあるべきか深く考えさせられます。


■エンタメとは、人の心をつかむこと

こういった、登場人物たちの妙味が存分に生かされたエピソードの数々が、人の心をつかむとはどういうことか教えてくれます。
そして、数多くのエピソードに触れるうち、タイトルにもある「エンタメ」の意味についてもハッと気付かされます。エンタメはいろんな訳がありますが、要は「人の心を掴むこと」なのではないでしょうか。
こうしたエンタメ力を駆使して、次々と大きな挑戦を成し遂げてきた登場人物たち。
このエンタメ力は、テーマパーク招致やイベント運営だけに役立つものではありません。
あらゆる広告が、あらゆるビジネスが、人の心をつかむことに腐心していることを考えれば、エンタメ力ってどんなビジネスパーソンにも必須なスキルといえるのではないでしょうか。


■激動の時代に、エンタメ力が輝く理由

●●は、今日にいたるまで客寄せイベントの常道である......。
これが日本初の■■であった......。
この本にはそんなフレーズが散見されます。
それもそのはず、この物語の舞台は日本のエンタメ業界黎明期。
ラジオ、テレビといったメディアはもちろん、現代でも広告ビジネスの根幹を支えるテレビCMも、プロ野球も、万博という巨大イベントも、あらゆる市場が産声を上げた時代。

「うらやましいなー、この時代」
「現代はそんな簡単じゃないんだよ」
なんて声も聞こえてきそうですが。
僕は今だって十分、黎明期。そう強く思います。

日本広告業協会が毎年公募している論文コンテストも、今年のテーマは「広告ビジネスの挑戦」。世界のクリエーティビティーが競い合うカンヌライオンズでは、「Brave(勇敢かどうか)」をキーワードにした審査が繰り広げられました。
今この瞬間も、世界の至る所で広告人の新しいチャレンジが次々始まっていることでしょう。
エンタメの夜明けから、はや数十年。
今の時代も、きっと何かの夜明け真っ最中のはず。
この本は、変わる時代と向き合う現代人にこそぴったり。
そんな気持ちから2007年初版発行の本書を取り上げた次第です。


■エンタメの巨人が残した予言とは

そんな時代を、小谷は見通していたのでしょうか。
本書の最後は、こんなエピソードで締めくくられます。
少し長いですが、引用します。


小谷の部下だった岡田芳郎は、小谷にこうつっかかったことがある。
「ボクは、小谷さんがうらやましいですよ」
「何で?」
「だって、今という時代は、広告でもイベントでも何でも形が完成してしまっていて、行き詰まっているでしょう。小谷さんみたいに、時代の過渡期に、真っ白なキャンバスに思い通りに絵が描けたら、ほんとうに楽しそうじゃないですか。うらやましくてしかたありませんよ」

小谷はまっすぐ岡田の目を見て、こう答えたという。
「岡田くん。いつだって時代は過渡期だし、キャンバスは真っ白なんだよ」(P.229)


Posted: 2014年10月17日 15:48 | コメント(0)

ズレは創造の母!『だから日本はズレている』

Book reviewer: 藤田 卓也 / Takuya Fujita

リーダーなんていらない。
テクノロジーだけで未来は来ない。
ノマドとはただの脱サラである。
若者に社会は変えられない。

29歳の若さで、テレビのレギュラー出演もベストセラーも多数。気鋭の社会学者、古市憲寿氏の新著『だから日本はズレている』(新潮新書)にはそんな刺激的な見出しが躍ります。正直、本を読んでいて目を覆いたくなったのは初めてです。それほど切れ味鋭い指摘が、オブラートをまとうことなく裸一貫ド直球に投げ込まれてきます(しかも、連続で)。

■どこかズレている国、日本

この本は、日本にはびこる「ズレ」の正体を解き明かすものです。
「なんかズレてるなぁ」
ふとニュースを見ているとき、ふと新聞の記事に目を留めたとき、そう感じたことはありませんか?本書が発売から2カ月足らずで10万部を突破したのも、それだけ多くの人々がズレを感じていることの証しなのかもしれません。
なにが、どうズレていて、それはいったい何が原因なのか?本書はそこから話が始まります。
たとえば、第一章「リーダーなんていらない」をひもといてみましょう。

■日本には、強いリーダーより◯◯◯が必要

最近耳にすることの多い、「リーダー待望論」。
首相が短期間で変わってしまう...そんな日本には「強いリーダー」が必要だ!
思わず「うんうん」とうなづいてしまいそうな論説ですが、著者はこう断言します。

「ジョブズなんて強いリーダーは、(日本には)別にいらない」
「スティーブ・ジョブズみたいな『強いリーダー』を安易に理想化してしまう
ことに、気持ちの悪さを感じている」

わずか15ページ目でこのパンチ力。あまりの衝撃に、ここでそっと本を閉じそうになってしまいますが、それは非常にもったいないです。

「変化も目まぐるしい現代、強いリーダーによる独裁制はデメリットの方が大きい。むしろ日本については、『強いリーダー』がいなくても大丈夫なくらい、豊かで安定した社会を築き上げてきたことを誇ればいい」「強いリーダーより小さな集団」

と著者は説きます。
「あらゆることを『国』単位で考えて、一億数千万人を一気に救うような解決策を考えてしまうと、それが解決困難な難問に見えてしまう。(中略)だけど、行政の対応を待つのではなくて、『自分たち』で勝手に解決できる社会問題も多い」というのがその理由です。

もう、強いリーダーを待ってる場合じゃない。問題を分解して、自分が小さな集団でリーダーシップをとって動き出しちゃえばいい。
一見、「そりゃそうだよ」で片付けてしまいそうになるシンプルな結論ですが、現実は強いリーダー待望論が至るところで議論されているわけで。そうした日本のズレを、著者は丁寧にかつ冷静に分析していきます。

■ズレを生み続ける原因はどこにあるのか

クール・ジャパン、ソーシャル、就活、学歴...。
さまざまなテーマがバッサバッサと切り捨てられていくにつれ、読む人の頭に浮かんできます、「誰だ、犯人は!」という犯人探しマインドが。
この本はこう言います、原因は「おじさん」にある、と。
ホッとした人も、ギクリとした人もいるかと思います。
「ああなるほど分かった!この本は迷走するおじさんと、それで割を食う、かわいそうな若者の話なんだな」

いえいえ、そういう世代対立論じゃないんです、この本は。
大事なのはここからです。

「『おじさん』とは、いくつかの幸運が重なり、既得権益に仲間入りすることができ、その恩恵を疑うこと無く毎日を過ごしている人のことである。(中略)人は、今いる場所を疑わなくなった瞬間に誰もが『おじさん』になる」

そう、若者にも「おじさん」はいっぱいいるという話。
世代論ではないのです。年齢も、性別も関係なく、「おじさん」はどこにでも潜んでいるのです。

■ズレを生むのが「おじさん」なら、解決するのも「おじさん」

では負のスパイラルから降りるためには、何が必要なのか。
鍵となるのは、「おじさん」だと著者は続けます。

「『おじさん』になるのは、悪いことばかりではない。
『おじさん』は『若者』よりもパワーを持っている。そのパワーを適切に使うことができれば、社会はきっといい方向に変わっていく。
『おじさん』のふりをしながら、『若者』の気持ちを忘れないでいることもできるはずだ。そして『おじさん』と『若者』が手を組むのはそう難しいことではない」

パワーを持っている、というのを絶対に甘く見ちゃいけないと思います。若者に対して(自戒も込めて)声を大にして言いたいです。
「意識高い系」の若者は増えています。社会貢献なんて、若者にとってはバイトより手軽なのかもしれません。「東北の現状を知ってもらうべく、若者を東北に派遣する学生団体を立ち上げました!」というセリフを高校生から聞かされる現代です。
一方で、そういう「若者」が「おじさん」とがっつり手を組んでます!という事例をあまり聞きません。「おじさん」ってすごいですよ。引き出しの数も、経験の量も、人脈も、お金も、全部。今、私はシェアハウスで30代だけじゃなく60代の方とも同居しています。日々、驚かされることばかりです。気軽に紹介される宝のような情報。次々と家に遊びに来る、ユニークな方々。仕事の悩みを打ち明ければ名カウンセラーに早変わり。「おじさん」恐るべしです。

■ズレは、創造の母

世の中に、ズレてない完璧人間なんていません。ズレは相対的なものですから、みんな周囲と比較したら必ずどこかズレている。そしてそれが集まると、いつの間にかズレた日本のはい出来上がり。
でも、この本を読んでの一番の学びは、ズレが新しいものを生み出すきっかけになり得る、ということです。ズレているからこそ、世の中を違った目で見ることができるからです。
「型を破るためには、まず型を身につけなければならない。そうでなければ、型無しになってしまう」という言葉もあります。これで言うと、ズレはもうみんな身につけている。でも認識できていない。自分がズレてるだなんて、夢にも思っていない。それはもったいないと思うのです。ズレをもって、ズレを制す。その一歩手前に、もうみんないるはずなのです。

新しいモノを生み出し続ける皆さま。
(かなり)耳の痛い本ではあるのですが、ぜひご一読を。


Posted: 2014年7月30日 16:03 | コメント(0)

はじめまして、DMCラボの書評ライター5人目、藤田卓也と申します。
メンバーの中では最年少で、社会人3年目になったばかり。職種はコピーライターなのですが、デジタルネイティブ世代ということもあり、ソーシャルを活用したキャンペーンやアプリを企画することも多いです。
ライター陣ただひとりの20代でもありますので、若者世代ならではのリアルな目線から、これからのコミュニケーションについて考えていきたいと思います。

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、アビー・グリフィン他著の『シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(プレジデント社)を取り上げます。

ビジネスのルールを変え、生活を変え、ときとして数百億円レベルの稼ぎを生み出すイノベーション。それを大企業の中で、しかも何度も繰り返せる人材。「シリアル・イノベーター」とは、そんな魔法使いのようなビジネスパーソンのことなのです。
本書がひもとくのは、単なるその特徴の紹介にとどまりません。彼らが持ち合わせる能力の詳細な分析から、発掘と育成の秘訣、さらにはマネジメントのあり方にいたるまで実に幅広いレイヤーでシリアル・イノベーターの謎を解き明かしていきます。

広告やコミュニケーションとは無縁の本に映りますが、実は広告会社の中でイノベーション関連の話題はとてもホット。ラボメンバーの元には、さまざまなクライアントから広告に関する相談のみならず、新規事業の立ち上げや経営戦略といった課題も舞い込んできます。そんな現場で、クライアントが今まさに必要としているのはシリアル・イノベーターだからです。

10人の会社に天才は何人いるだろうか。答えは1人だ。100人の会社ではどうだろう。答えは2人。では1000人の会社では?パターンは見えている。3人だ。それでは1万人の会社では?答えは4人ではなく、ゼロだ。大企業では、天才やイノベーターは追い出されてしまうんだ。

と、本書で紹介されてしまうほど大企業に珍しいシリアル・イノベーター。巨額の利益を企業にもたらす可能性がある一方で、その独自の働き方やプロジェクトプロセスは組織の中で問題を引き起こすことも。
たとえば、シリアル・イノベーターの代表例として何度も紹介される、トム・オズボーンも例外ではありません。P&Gの研究員である彼は、年間数十億ドルを稼ぐ生理用ナプキンブランドを育て上げました。しかしそこに至るまで、彼は問題社員の烙印を押され、解雇寸前にまで陥っていたのです。会社としてのサポートはすべて打ち切られ、オフィスと電話しか与えられていなかった時期もあったというのですから驚きです。

彼らは、普通の社員といったい何が違うのでしょうか?
本書ではその能力を、「MP5モデル」という独自のフレームで徹底解剖していきます。

①パーソナリティ:全体像を捉えようとするシステム思考が身についている
②パースペクティブ(仕事観):「とにかく利益を生み出したい」というビジネス観と、「利益よりも、世界をよりよくしたい」という倫理観のバランス
③モチベーション(やる気):解決すべき問題を抱えた顧客や企業が目の前にあるという外的要因と、自分の中にある創造への欲求という内的要因
④プレパレーション(準備・心構え):生涯を通じて学習者であろうとする姿勢

以上の要因に加え、

⑤プロセス
⑥社内における政治駆け引き(社内政治)

といった、組織の中での動き方をプラスした6つの能力がシリアル・イノベーターの特徴です。

こんなにたくさん図抜けた能力を持っていたら、そりゃあイノベーションのひとつやふたつ...とも思ってしまいますが、圧巻はここから。彼らはこの6つの能力を駆使して、全く新しいイノベーション過程を実現してしまうのです。その過程とは、「イノベーター主導型」と呼ばれるもの。
通常、イノベーションには大きく2つのタイプがあるといわれてきました。1つ目が、企業の研究開発部門からスタートする、「技術主導型」。そして2つ目が市場のニーズを発見することで始まる「市場主導型」です。
実はこの2つ、それぞれいいところもありますが欠点も多い。技術主導型は、技術を画期的な商品に応用することができず、企業に利益をもたらさない「打つ釘のないカナヅチ」づくりになってしまうことがあります。市場主導型は、市場にニーズはあるんだから開発さえできれば大ヒットまちがいなし!...と思っていたら開発に10年も20年もかかってしまい、できたころには市場が変化していた...なんてことも。

そこで今回、本書が注目したのがシリアル・イノベーターたちが起こす、第3の道筋である「イノベーター主導型」のイノベーション。
簡単に言ってしまえば、技術開発も顧客インサイトも市場ニーズの発見も、同じ人間がすべてやってしまうことです。彼らは画期的な技術の探求も、顧客ニーズの精緻な理解も、市場という大きなマーケットの分析も、全部を何度も行ったり来たりしてプロジェクトを引っ張っていくのです。


本書を読めば、明日からあなたもシリアル・イノベーターに変身できる。そんな本ではありません。むしろ400ページにも迫るボリュームの中に詰め込まれた鋭い知見と豊富な実例に触れれば触れるほど、すべての人がシリアル・イノベーターになれるわけでもなさそうです。ちょっと落ち込みます。
でも、日本語版の監訳を務められ、東京大学i.school(http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/)など日本におけるイノベーション人材育成の第一人者である市川文子・田村大の両氏は、巻頭にこんな言葉を載せておられます。

「シリアル・イノベーターとして、あるいはシリアル・イノベーターと共に企業で働くこと。それは会社員としてイノベーションを起こし、社会にインパクトを与える生き方の選択だ。(中略)不屈の意志でイノベーションを成し遂げる社員の存在は、企業の明るい未来そのものといえるだろう。」

イノベーションは個人の専売特許ではなく、チームが積み重ねた努力の結晶である。そんなメッセージこそ、大企業で働く人々にとってなにより響くのではないでしょうか。

藤田卓也 第3CRプランニング局

東京大学大学院 工学系研究科を修了後、2012年電通入社。コピーライターとして、コピーやCM制作だけでなく、デジタル領域の企画なども手がける。


Posted: 2014年5月 7日 19:14 | コメント(0)

準備中

Book reviewer: 藤田 卓也 / Takuya Fujita

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Posted: 2013年11月14日 14:56 | コメント(0)