DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
川畑 茉衣 / Mai Kawabata ARCHIVE

7つのコミュニケーション戦略

Book reviewer: 川畑 茉衣 / Mai Kawabata

「コミュニケーションデザイン」「コミュニケーションプランニング」「マーケティングコミュニケーション」...

ここ数年で、肩書や組織名称に「コミュニケーション」と付くケースが非常に多くなったように感じます。

私自身も、普段はデジタルを中心としたメディアプランニングを行っていますが、名刺の肩書は「コミュニケーションプランナー」です。

というのも、ものや情報があふれ、生活者との接点も無数に存在している今、マーケティングも、クリエーティブも、メディアプランニングも、どのように生活者とコミュニケーションを図っていくか、という「コミュニケーション戦略」の中で、生活者を動かし、クライアントの課題を解決していくことが求められているためです。

"コミュニケーション"と一言で言うと、なんともふわっとした言葉に聞こえるのですが、まさに友人や会社仲間、 仕事相手などとコミュニケーションを取ることと同じで、相手のことを知り、理解し、受け入れてもらえるような関係を作ることがコミュニケーションであり、それを企業と生活者間で関係構築していくために重要なのが「コミュニケーション戦略」です。

今回の磯部光毅著『手書きの戦略論「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』(宣伝会議刊)では、「コミュニケーション戦略」を「人を動かす戦略」と捉え、そのための7つの戦略・手法が手書きの図とともに整理、体系化され紹介されています。


1.ポジショニング論:「違い」が、人を動かす。
お客さんの頭の中で、競合と違った位置づけを得る戦略。

2.ブランド論:「らしさ」の記憶が、人を動かす。
お客さんの頭の中に、そのブランドらしさの連想構造をつくり、記憶に残す戦略。

3.アカウントプランニング論:「深層心理」が、人を動かす。
お客さんの隠された本音を探りあて、動機づける戦略。

4.ダイレクト論:「反応」の喚起が、人を動かす。
お客さんの直接的な反応を受け止めながら、長期的な関係をつくる戦略。

5.IMC論:「接点」の統合が、人を動かす。
お客さんとの複数の接点をつなぎ、最適なメッセージ、施策を出し分ける戦略。

6.エンゲージメント論:「関与」が、人を動かす。
お客さんが自ら関わりたくなるような施策を通して、共感しあう関係をつくる戦略。

7.クチコミ論:情報の「人づて」が、人を動かす。
ソーシャルメディア上で、情報が信頼と共感をともなって拡散することを狙う戦略。


コミュニケーション戦略は7層構造のミルフィーユ

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『手書きの戦略論』より引用


本書では「コミュニケーション戦略」は、 時代の変遷に合わせて、変わったり、新たに生まれた戦略が積み重なっている状態であり、上記で述べた7つの戦略論が重なった"7層構造のミルフィーユ"である、(P.31)


と述べられており、それぞれの戦略論が生まれた歴史的な流れや背景が、過去の事例とともに紹介されています。


顧客の「頭の中」での位置づけを争う


例えば、7層の構造のミルフィーユのベースにある「ポジショニング論」。

これは、1960年代後半に生まれた戦略論で、お客さんの頭の中で、他社の製品やブランドと違う位置を占め、この「違い」で人を動かす戦略論です。

昔は、世の中にないものを作ったり、モノの機能やベネフィットで競合と差別化を図れば良かったものの、今やどの市場も成熟し、スペック面での差別化が難しくなっています。その中で、顧客のニーズをくみ取りながら、自社ブランドにとって有利に働く競争軸を発見し、お客さんの頭の中で確固たるポジションを築く必要があるのです。


コンビニでどのお茶を選ぶか?


例えば、コンビニにお茶を買いに行っても、棚には何十種類ものお茶が並べられていて、まさに群雄が割拠している状況。味の好みはあるにせよ、どのお茶も総じておいしいですよね。

その中で、「このお茶!」と選んでもらうためには、まさにこの「ポジショニング論」が非常に重要であります。そしてこの「ポジショニング論」は二つの方法に分けられると本書では明言されています。


A:「オーバーテイク型」:既存の価値軸の中で競合に勝る違いをつくる
B:「カテゴリーメイク型」:まったく新しい価値軸を打ち立てて違いをつくる(P.58)


コンビニに並んでいるお茶たちに当てはめてみましょう。「オーバーテイク型」で言うと、味や成分、身体への効果など、顕在化したお客さんのお茶に対するニーズの中で他社よりも優れている点を推しだしていく方法と、「カテゴリーメイク型」で言うと、昨今人気を博している「トクホのお茶」だったり「瓶入りの高級茶」など、これまで市場になかった新しい価値軸をつくって、「新しい選択」を提示する方法とがあります。

このように本書では、7つそれぞれの戦略論が非常に分かりやすく、整理、体系化されているので、紹介されている戦略論を、現状の市場に当てはめてみたり、自身が向き合っている課題に当てはめてみたりすることで、俯瞰的にコミュニケーション戦略の全体像を見ることができるかと思います。

7つの戦略を頭に入れたうえで、課題や、ブランド・商品の特長、ターゲットなどに応じて、戦略を使い分けたり、組み合わせたりすることで、より自身のプランニングの幅を広げることができると感じました。

「人を動かすこと」に携わっている方であれば、読んで損はない、そんな一冊ではないでしょうか。


Posted: 2016年12月 5日 12:29 | コメント(0)

「出版不況で、本が売れません。もっと本が売れる企画を考えてください」
そんなお題が投げかけられたら、皆さんならこのお題に対して、どんな解決策を考えますか?
今回はそのヒントになるであろう、石原篤著『これからの「売れるしくみ」のつくり方 SP出身の僕が訪ねた、つくり手と売り手と買い手がつながる現場』(グラフィック社)を取り上げます。
本書では、この、どの企業もが抱える「モノを売る」という最重要課題に対して、これから「広告」がどう応えるていけるか、ケーススタディーや、「モノを売る」ことに携わるさまざまな立場の方たちとの対談などから、明らかにされています。

「本屋大賞」 から学ぶ「売れるしくみ」

 

さて。冒頭皆さんに質問した「出版不況下で、本を売る」というお題。

「本を読もう!」のキーメッセージを中心に、著名人を起用し、マスや店頭、ウェブコンテンツなどで展開をしていく。といったのがこれまでの一般的な広告のやり方だったかと思います。

本書では、このお題に対し、これまでとは違う切り口から応え、まさに継続的な「売れるしくみ」をつくり上げた「本屋大賞」を取り上げ、その成功のカギをひもといています。「売る」ことを目的としたとき、どうしてもその直前にいる「消費者」に対してどうアプローチをすべきか、ということに終始しがちですよね。でも、情報があふれ、モノがあふれている今、それだけではモノは売れない。

消費者だけでなく、消費者が店頭で商品を手にして購入するまでに介在する、さまざまなプレーヤーの存在を知り、彼らの事情や思惑、思いをくみ取り、巻き込んでいくシナリオを描けることが、これからの「売れるしくみ」をつくる重要なカギになるということが、「本屋大賞」の事例を通して、非常に分かりやすく説明されています。

「球体発想」と「多面体発想」

 

最近、わたし自身、企画やプランニングをする際に意識していることではあるのですが、その商品やプロモーションがどんな風に世の中で話題になるか(どうつぶやかれるか、どの媒体にどんなタイトルで記事が取り上げられるか、どうやってキュレーションでまとめられるか、どんなシーンでどういう文脈で友人にシェアされるか)などを、事前に細かく設定し、企画、プランニングを行っています。

これまでだと、このプロモーションをどうPRするか、という企画ありきでPRを考えていたのに対して、今はその逆、PR起点で企画を考える流れができてきています。

まさに、本書でもそのことが、「球体発想」と「多面体発想」という2つの発想法として語られています。


球体は内に向いた矢印でひとつのメッセージに集約していく考え方で、言わば「広告的発想」。多面体は外に向く矢印で複数のコミュニケーションを拡散していく考え方で、「PR発想」。(P.53)


「忍者女子高生」のヒットの秘密

 

著者の石原さんの代表作のひとつに「忍者女子高生」というバイラルムービーがあります。私も、SNSで流れてきた記事でこの動画の存在を知りましたが、非常に話題になったムービーです。

以前、この「忍者女子高生」のヒットについて、石原さんのお話を聞く機会があったのですが、この企画のヒットは、まさにこの「球体発想」と「多面的発想」にもとづいて、綿密にシナリオが設計されたものであったがゆえだと実感しています。

この映像がどんな切り口でどういう媒体で取り上げられ、話題になっていくかを想定した上で拡散要素を盛り込んでいき、それを、「忍者女子高生」という強い(それでいて突っ込みどころがある)ひと言に集約する。

もちろん、コンテンツがはやるかどうかは予測できない部分が多く、「広告なしで確実に100万回YouTubeで再生される動画をつくります!」なんてことは絶対に約束できませんが、この「球体発想」と「多面体発想」の両刀使いで、コンテンツ制作を行うことで、ヒット確率を上げることはできると思います。

このように、本書ではさまざまな「売れるしくみ」が惜しげもなく、紹介されています(ホントにこんなに紹介しちゃっていいんですか?笑)。

この「売るしくみ」を理解し、それを実現させることで、「広告」は人を動かし、モノを売ることに応えていける、という可能性を強く感じました。


Posted: 2015年12月23日 18:29 | コメント(0)

私、これなんで買ったんだっけ?『買う5秒前』

Book reviewer: 川畑 茉衣 / Mai Kawabata

はじめまして。電通関西の川畑(かわばた)です。入社5年目、日々「どうしたら人の心を動かせるのか」「どうしたら人に伝えたくなるか」「どうしたら手に取ってもらえるか」ということを、ぐるぐると考えています。

そんな中で、今朝自分がコンビニで買った水や、週末行った焼肉、なんでそれを買ったんだっけ? なんでそこを選んだんだっけ? と振り返ってみると、何か明確な理由や、確固たる意志があって選んだというよりは、「なんとなく」が答えだったりします。

みなさんも「なんとなく」ものを買っていること、多くないですか?

そんな自分でさえ分からない「これ、なんで買ったんだっけ?」という未知の購買動機を解き明かしたのが、本日ご紹介いたします、草場滋著の『買う5秒前』(宣伝会議)です。


7番目の購買動機=『買う5秒前』

 

まず、本書の冒頭には、購買動機について以下のように解説されています。

① 必要 :ないと困るから。
② お得 :安いから。
③ 好み :好きだから。
④ 流行 :みんな持ってるから。
⑤ 見栄 :かっこつけたいから。
⑥ 義理 :いつもお世話になってるから。


ただ、自身の購買動機を振り返っても、単純にこの6つには分類できない動機が存在します。それが「これ、なんで買ったんだっけ?」という未知の"7番目の動機"であり、『買う5秒前』なのです。

本書では、昨今のヒット商品、ヒットコンテンツなどの事例から、62の『買う5秒前』が紹介されています。

なんで俺って、「ぱるる」を応援してるんだっけ?
なんで私たち、「パンケーキ」のためにこんな長い列に並んでいるんだろう?
なんでうちって、「カープ」に夢中になっとんじゃろ?

知らず知らずにハマっていること、引かれていること、そして購入したもの。それらの動機を掘り下げ、解き明かしていきます。

 

「格安たらこ」より「訳ありたらこ」


本書で紹介されている購買動機の1つ、「理由を知りたい私」。リーマンショック以降、不況のあおりを受けて「格安」「お得」「割引」といったお得ワードが世の中にあふれました。でも、安くすればモノが売れるかというと、そんな単純な話でもありません。

そう、今の私たちは、単に安ければいいのではなく、なぜそれが安いのかという「理由」まで知って、はじめて納得して買うのです。

そのわかりやすい事例が「たらこ」。

単純に値段が安いだけの「たらこ」は、産地や品質、味など「なにかあるのでは...!?」と不安になるけれど、皮が破れていたり、端がちぎれていたりしていることを、あえて押し出した"訳あり"たらこが安ければ、納得して買うし、お得感を感じてうれしく思えたりしますよね。

ただ安いだけではダメ。"訳あり"であることが購入の後押しになるのだということです。

 

「ひとりの時間」が好きなワタシ

 

これは、まさに先ほどシルバーウイークひとり旅の予約を完了させたワタシのことです。

「ひとり時間」。

ここ最近、ちまたでも「ひとり飯」「ひとりカラオケ」「ひとり映画」といったワードを耳にする機会も増え、女性の「ひとり時間」への需要の高まりは身をもって感じています。

では、この女性の「ひとり時間」需要の高まりの背景に何があるのでしょうか。

もちろん労働環境の改善により、女性の社会進出が進み、自立した女性が増えてきていることも大きいですが、それよりも大きな要因はSNSの普及により「ひとりでもひとりじゃない」という心のつながりができたことにあります。

「ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない」。その安心感により、多くの女性たちは「ひとりの時間」を気兼ねなく楽しめるようになったのです。

確かに。

ちなみに、この書評を書いているタイミングでも、女友達から「ひとり温泉旅行なう」と温泉旅館の食事の写真とともにLINEが送られてきました(笑)。

このように、本書では日常の「あるある」なシーンや事例などから、消費者のインサイト、購買動機を解き明かし、イラストとともに紹介されています。

こちらで紹介したもの以外にも、本書には「なるほど」「確かに」と思わされる事例が多数紹介されています。マーケティングやアイデアを考えるヒントになるだけでなく、自分自身の日々の消費行動や購買動機について、あらためて考えてみたくなる一冊になると思います。


<プロフィール>
川畑 茉衣/Mai Kawabata

2011年入社。電通関西支社のMCプランニング局で、デジタルを中心とした、プロモーション、キャンペーンのプランニングに携わっています。特に、コスメやファッション、食品、商業施設など、女性をターゲットにした商材・業種を多く担当しており、日々女子のインサイトを研究中です。※ただし、自身の女子力と声は低め。


Posted: 2015年8月13日 22:20 | コメント(0)