DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi ARCHIVE

今回は『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)を取り上げましょう。

水野学さんはグッドデザインカンパニー代表として、企業のロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに担うクリエイティブディレクター。熊本県のキャラクター「くまモン」をはじめ数々のプロジェクトを手掛けています。

本書は、そんな水野さんが慶応大学で実施している人気講義を書籍化したものです。

ブランドとは、見え方のコントロールである

 

タイトルにあるように、企業の商品やサービスが「売る」から「売れる」へ転換するためには、「ブランドを作る」ことが必要です。

本書では、この「ブランドを作る」ために、水野さんがデザインを武器にして実践しているノウハウが公開されています。

では、ここでいう「ブランド」とは何を指すのでしょう?

水野さんは「ブランドとは、見え方のコントロールである」(P.32)と定義されています。そしてそれを作るイメージは、世の中を驚かすような奇をてらったことをするのではなく、河原で石を積み上げていくような感じであるといいます。

 


石のひとつひとつはなにかというと、商品そのものであったり、パッケージデザインであったり、広告であったり、その店舗の空間デザインであったりといった、その企業のアウトプットです。企業が発信するアウトプットが、ブランドをかたちづくっているんです。(P.31)

 

たとえば、アップルというブランドは、見え方すべてがカッコいいと例に挙げられています。商品がカッコいいのはもちろん、ニューヨークや銀座にあるアップルストアやウェブサイト、広告から商品の梱包に至るまで、すべての見え方がコントロールされていて、そのおかげで「美意識の高さ」や「クリエイティブへのこだわり」が顧客にちゃんと伝わっているわけです。

見え方をコントロールできる人、それは...

こういった「見え方のコントロール」が「売れる」ために必要になのであれば、当然「見え方をコントロールできる人」が必要になってきます。

今、ビジネスの世界ではこの人材がすごく求められているのです。具体的にいうと、企業のトップと直接話し、そのやりとりの中で、コンセプトの方向性、商品のデザイン、広告の表現を依頼するパートナーの選定などを請け負う人です。

これは、ビジュアル管理やデザインの視点を持ち合わせつつ、クリエイティブ全般を判断するという広義のクリエイティブディレクション領域です。

ブランドをつくることが目的でのクリエイティブディレクションなので、広告表現だけでなく、「社会的な視野に立った戦略を構築できる」という意味でのクリエイティブディレクション、もっといえばクリエイティブコンサルティングともいえます。

そして、このポジションは求められているにもかかわらず、かなり人材不足のようなのです。

 


じつをいうと、ここでいっている意味でのクリエイティブディレクターという役職の席、クリエイティブコンサルタントといい換えてもいいかもしれませんが、この席が、いまずいぶんと空いているんです。ぼくの肌感覚でいうと、全部の席のうちのまだ1パーセントくらいしか埋まっていないんじゃないかと思いますね。いろんなところで、いろんな企業が、こんなにも必要としているのにもかかわらず、です。(P.40〜41)

 

水野さんは、このポジションを担うクリエイティブディレクターであり、クリエイティブコンサルタントというわけです。

手掛けた事例として、奈良の老舗生活雑貨「中川政七商店」や福岡の久原本家のだしのブランド「茅乃舎」などが紹介されています。

これらのプロジェクトでは、ブランドロゴをはじめ、商品タグ、紙袋、社用封筒から段ボール、あげくには新社屋のデザインまで、全方位の見え方をコントロールしているのです。

また、これらの見え方コントロールは、社員のモチベーションも上げる効果もあったといいます。当然、社員もカッコいいブランドで働いている方が誇らしく、やりがいを感じるでしょう。

 

クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタントに必要なもの

 

このような見え方のコントロールを担うには、カッコいい見え方かどうか(狭義のカッコよさではなく社会や人々に受け入れられるの意)を判断できるセンスが必要になってくるでしょう。水野さんのようなデザイナー出身でなくとも、その役割を担えるのでしょうか?

本書には、このような説明がありました。

 


センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力である。(P.53)
最適化は、知識があればできる。知識は努力すれば集められる。(P.217)

 

たとえば、ゾウの絵を描くというのは、ゾウの特徴を知っているという知識を元に自分なりに最適化する作業です。もっと詳しくゾウの特徴を知れば、描く絵もまた変わってくるはず。

要するに、センスは努力で知識を蓄えることによって身につくということです。デザイナーでなくても見え方のコントロールは担えるわけです。

実は数年前から、僕自身もこの領域の仕事がすごく増えてきています。

インターネットとソーシャルネットワークの浸透が企業ブランドに透明化をもたらしたため、広告は表面的な「お化粧」では機能しなくなりました。
広告はブランドの一端を担うコミュニケーションになり、そのブランドを作るには、企業の人格というものを、商品やサービスの検討前の段階から購買体験、アフター領域まで、すべての顧客接点で統一する必要が出てきました。

これは、水野さんの言う「見え方のコントロール」と同義で、まさに「河原で石を積み上げていくような」作業です。

水野さんはこのポジションが人材不足だと言っています。

ならば今後、このポジションを担うクリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタントがたくさん出てくれば、世のブランドはもっともっと活気づくんだろうなと思います。

なんだかワクワクしますね。


Posted: 2016年7月 8日 09:33 | コメント(0)

今回の「次を考える一冊」は、みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)を取り上げましょう。本の帯には「みうらじゅんの一人電通式仕事術を大公開」とあり、興味を引かれます。
みうらじゅんさんオフィシャルサイトのプロフィールには、「イラストレーターなど」と記されていますが、今ではこの「など」に含まれる仕事の方が大きいようです。ご存じ、「マイブーム」「ゆるキャラ」「いやげ物」「とんまつり」など、数々のブームの仕掛人としての方が有名でしょう。
みうらさんは、こういったブームをどうやって仕掛けてきたのか? 本書では、その戦術が体系化された上で公開されています。


ブームは緻密に練られた戦略に基づいて展開されている

 

一見すると、みうらさんは、自身の趣味嗜好を勝手気ままに発信しているようにみえます。しかし実は、一つひとつのブームは緻密に練られた戦略に基づいて展開されてきたものなのです。
本書からは、みうらさんがユニークなクリエーターであるとともに、類いまれなる優れたマーケターであることが分かります。
みうらさんの仕事は、もともとは世の中に「ないもの」から生み出されます。
例えば、大ブームとなり市民権を得た「ゆるキャラ」。これは、地方自治体が自前で作ったマスコットたちですが、もとは名称もジャンルも存在しなかったものです。
そもそも「キャラクター」とは、言葉の通り特徴が際立っている必要があります。そのジャンルには、ミッキーマウスやハローキティなど、すでに多くのメジャーリーガーが存在していて、とても競争の激しいマーケットになっています。「キャラの弱い」マイナーマスコットが太刀打ちできるはずがありません。

そこで、マイナーマスコットたちが堂々と存在できる世界を新しく作ろうと、「ゆるキャラ」というこれまでになかった新しいジャンルを設定したというわけです。

この「ゆるキャラ」というネーミングは、「ゆるい」と「キャラクター」という矛盾する単語を組み合わせることで、これまでになかった新しいジャンルを表現しています。

次に、みうらさんは、そのマスコットの大量収集に掛かります。地方や物産展を行脚し、圧倒的な数を集めることで、自身が生み出した新しいジャンルを深掘り、本気でのめりこむ努力をしました。

 

そのうえで情報発信を開始します。みうらさん本人が、複数の出版社に同時に「ゆるキャラ」の雑誌連載企画を持ち込み営業し、「第一回ゆるキャラショー」というようなイベントを企画するなど、一人でメディアのマルチ展開をしていきます。ごく低予算ながらターゲットへの複数回リーチを狙うわけです。

エッジの効いた情報は、ソーシャルメディアでのバズも期待できるでしょう。


情報感度の高い人たちが自分に都合よく解釈(=誤解)

 

こういった戦術を積み重ねた結果、「ゆるキャラ」ブームの火付けに成功するわけですが、本書では「ブームの正体は『誤解』である」と述べられています。

認知が上がってきた「ゆるキャラ」について、情報感度の高い人たちが自分に都合よく解釈(=誤解)して、勝手に語り出すことでブームが立ち上がるというのです。
そのためには、「ゆるキャラとはこういうものだ」という定義をしないことが重要だと述べられています。
定義に余白を残しておくことで、いろんな異なる立場の人たちが、誤解しながら都合よく自分ゴト化し、バズが生まれ始めるというわけです。

これらは「ゆるキャラ」だけでなく、「いやげ物」「とんまつり」「ゴムヘビ」「崖」など、みうらさんが仕掛けた数々のブームで活用されたメソッドなのです。
まとめると、以下のようになるでしょう。

ステップ1:これまでなかったジャンルのカテゴライズ
ステップ2:矛盾する単語を合わせたネーミング
ステップ3:ネーミングしたものの大量収集と自身による深掘り
ステップ4:雑誌を中心としたクロスメディアでの発信展開
ステップ5:人々の誤解による自分ゴト化とバズを見守る

本書では、これを「一人電通式仕事術」と表現しています。(「一人電通式」というのは、広告会社が行っていることを一人で全部やってしまおうという意味だそうです)
つまり、このメソッドは、ブルーオーシャンを見極め、イノベーションによって新たな価値を生成し、メディアとユーザーを巻き込みながらその価値をマーケットに浸透させていくということに他なりません。
「イノベーション×マーケティング」というビジネスの構成要素は、テクノロジーの進化でますます複雑化してきています。
しかし、みうらさんの活動を見ていると、その原点は極めてシンプルで泥臭いものであることが分かります。
華麗なるブーム仕掛け人が公開した「ゼロから価値を創り出す方法」には、そんな大切な気付きがたくさん詰まっていました。


Posted: 2016年2月24日 17:29 | コメント(0)

10年後の世界で、僕たちが生き残るためのヒント

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』(山口揚平著、SB Creative)を取り上げましょう。

山口揚平さんは、外資系コンサルティング会社で企業再生に携わった後に独立。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本参入や、宇宙開発事業・電気自動車事業などに関わり、現在は事業家・思想家として執筆をされているようです。

 

競争力を持つために日本を解散する!?

 

21世紀の社会は価値観の大きな転換期を迎えていますが、10年後はいかなる世界となるのか、それに向けて僕たちは何を学び、どう生きていくべきなのかについて、本書は大きな示唆を与えてくれます。

まず本書では、「日本が競争力を持つためには、日本を解散してブロック化し、個々の地域ごとにブランディングするべき」という考えが提示されています。

例えば、「東京圏・京都・瀬戸内・九州・北陸」の5つのブロックです。東京圏はアジアへ文化を輸出するためにTOKYOブランドのお墨付きを与える市場。京都は古都観光立国。瀬戸内は地中海に面するイタリアのような海の恵み。九州は韓国や中国と向き合う貿易市場。北陸は北欧のように伝統産業やデザインや緻密な先端技術。

このように、それぞれの独自性を持ってコミュニティーを作っていくことを目指すべきで、僕たち個々はどこのコミュニティーに属して「国造り」に貢献していくかを考えていかなければならない、というわけです。

今も「中央集権から地方分権へ」という議論はされていますが、本書の構想は統治からではなく、ニーズに基づく経済圏からという視点が新しいと感じました。

 

階層を超えたいなら、早く手を打たなければならない

 

そして、そんなコミュニティ内でも「格差」が生じ、じわじわと階層化が進むと述べられています。

例えば、コミュニティは「地球市民層、都市上位層、都市下位層、地方層、非社会層」と分かれるとされ、「地球市民層は国や地域を選ばずに自由に移動する人物、都市上位層は上場企業の役職者や起業家など、都市下位は伸び悩んでいる中小企業」というような定義がされています。

そしてあと10年で、これら階層化の蓋が閉じると述べています。
僕たちは、自分がどこの層に属することになるのかを認識し、階層を超えたいのであれば、早くに手を打たなければならないわけです。

しかしながら、これらは単純なヒエラルキーとはならないようです。なぜなら社会自体が、「資本主義というタテ社会」から、「ネットワークというヨコ社会」に大きく移行していくからです。

 

モノを作ることは悪

 

ネットワーク社会では、必要なものを譲り合う「シェア経済」が発達していくため、モノについては「more and more(多ければ多いほどいい)」から、どんどん「less is more(物事はシンプルなほうがいい)」という価値観になっていくと述べられています。

すでに欧州では「モノを作ることは悪」という考え方があるそうです。

 


モノはいずれゴミになる。それは廃棄コストにつながり、最終的には、社会損失となる。家具や家電をアジアや東欧で大量生産してタンカーで運んで売りさばくなんてことはとんでもない時代錯誤だ(P.94)

 

ならばモノとの交換の単位であるお金の価値も変わるでしょう。

本書では、ネットワーク社会では「数字としてのお金」ではなく、「個人の信頼残高」に価値がシフトするとあります。そして、そんなネットワークを維持構築していくための「コミュニケーションの能力」がますます重要になるとも述べられています。

では、そんな来るべき世界に向けて、僕たちは何を学んでいけばいいのでしょうか?

 

21世紀の人間の仕事は、アートとデザインしかない

 

本書には「情報ではなく本質を捉える」「教育の再考」「旅(移動)をして新たな問題意識を入手する」など、いくつかのアドバイスが提示されます。

例えば、本質を捉える例として、PayPal、テスラモーター、スペースXと次々と起業を成功させているイーロン・マスク氏を挙げています。成功のカギは、「起業家の役割は、全体構想とモジュール分解(モジュール分解とは構想を実現するためにパーツ分けすること)」という本質を捉えていることだというのです。

今の時代は、最高の技術に関する知見には誰もがアクセスできます。そのため、

 


自身はひたすら構想とそのための知識に集中し、構想化された方程式が現実世界で機能するかをひたすら検証し続ける(P.204)


ということが事業の本質だというわけです。

でも、究極として「21世紀の人間の仕事は、アートとデザインしかない」と言い切ります。なぜなら「言語化されるあらゆる事柄が機械によって最適化されるから」です。

 


アートとは、個人の意思に基づく本質の表層だ。つまり、私たちが近くした本質を言葉以外で具体化したものがアート

(中略)
デザインとは、de-sign、つまりノイズアウトすることによる人々の認知コストの低減だ。余計な情報をなくして、みんなに同じように伝わるようにする(P.214)


これらは受け手の立場を思う気持ち、つまり「愛」がないとできないものです。つまり、「愛」を行動の源泉にするものは、いかなる機械にも代替できない人間だけの仕事であるというわけです。

結局、「人間愛=社会、コミュニティへの貢献」を追究し続けることが、もし10年後に世界が壊れても僕たちが生きていくために必要なことだという結論です。

自分が、社会に、コミュニティに、貢献できることって何だろう?

そんな問いを背負いながら、これからも学び続けていくしかないのかな、と思うのでした。


Posted: 2015年10月 8日 11:33 | コメント(0)

即興コメディをビジネスに生かす7つの方法

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、昨年の全米ベストセラー「Yes, and」の翻訳本である『なぜ一流の経営者は即興コメディを学ぶのか?』(ケリー・レオナルド、トム・ヨートン著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)を取り上げましょう。
本書は、シカゴの名門コメディ劇団「セカンド・シティ」の即興コメディをビジネスに生かす方法を解き明かしたもので、ツイッター社CEOのディック・コストロ氏や作家のダニエル・ピンク氏らが絶賛しています。

もはや従来のビジネススクールで学べるスキルだけでは、経営に対応できない


セカンド・シティが誇る即興コメディは、日本のお笑いでいう、アドリブコントやフリートークのようなものでしょう。
セカンド・シティでは、劇場での観客の状況によって次々と笑いを生み出していくこの手法を、「Yes, and」というビジネスに応用できるトレーニングプログラムにしているのです。

ビジネスの世界でも「即興」の手法が注目されるのは、グローバル化やテクノロジーの進化で、世の中の環境変化があまりにも速くなっているからでしょう。
もはや従来のビジネススクールで学べるスキルだけでは、経営に対応できなくなってきているというわけです。

これらに伴い、僕たち一人ひとりがビジネスシーンで求められるアウトプットも変わってきています。
例えば、本書ではグーグル社が人事採用の際に求める資質について触れられています。
それらは「臨機応変に仕事ができる能力」「権力を譲ること」「他者が貢献する機会を作ること」「失敗から学ぶことができること」だといいます。
そしてこういった資質は、即興のスキルを学ぶことで身に付けることができるというわけです。

即興コメディをビジネスに応用するには


本書では、即興コメディのスキルをビジネスに応用する手法が、以下の7つで解説されています。


1.Yes, and(イエス、アンド):

誰かのアイデアをノーと否定せず、肯定した上で、必ず次のアイデアを付加していくというスキル。これこそが即興スキル全体の基礎になっているもの。

例えばコメディでいえば、誰かが
わあ!こんなに星が出ている空って、今まで見たことないな
と言えば、次は
そうだね。月から見る風景って、やっぱり違うねえ
(p.55)

などと、初めのアイデアを肯定したうえで、次に展開していく。この手法によって、始めは誰も思いつかなかった予想外のアイデアにたどり着くことが可能になる。

 


2.アンサンブル:

チームの目標を個人の目標より優位におき、チームアンサンブルの中で活躍することで個人がスターになるスキルをビジネスに適用する。

 


3.共創:

観客との対話からストーリーを展開させるスキルを、ビジネスで共創が最も必要とされる現場、例えばコンテンツや製品開発、マーケティングやプロモーションに適用する。

 


4.真実性:

「権威に物申す」ことを笑いに変えるコメディのスキルを、ビジネスに適用する。現状の問題を偽ることなく、チームに明らかにしながら、次の一手を生み出していく。

 


5.失敗:

創造性にとって一番の脅威は、失敗することへの恐れ。これを攻略しなければチャレンジはできない。そのためには失敗に役目を与えることが大切だ。コメディでは失敗は当たり前。そして失敗を次の笑いに変えるスキルがある。これをビジネスに適用していく。

 


6.フォロー・ザ・フォロワー:

チームに所属するものであれば、誰がリーダーシップをとっても良いと認めること。おのおの固有の専門知識をチームに提供するナレッジワーカーたちが、必要なタイミングでチームを指揮することで成功は実現する。

 


7.話を聞くこと:

過去を振り返ったり、未来へ行き急いだりするのではなく、現在何が起きているかに耳を傾ける。即興コメディの担い手はみんな良い「聞き手」である。自分の意見をはさむチャンスを狙いながら聞くのではなく、相手を理解しようとして話を聞くことで次の創造につなげる。



以上の7つで、実際のビジネスに活用できる「即興」のテクニックが理解できるというわけです。

 

「何もないところから何かを創造する」ことが期待されている


今、僕たちエージェンシーは、名刺の肩書が何であろうと、従来型の戦略立案や課題解決だけでなく、「何もないところから何かを創造する」ことが期待されるようになっています。
しかも、より効率的にコミュニケーションを取りながら、スピーディーにアイデアを出すことを求められています。

そんな環境では、クライアントから相談を受けて持ち帰り、企画を組み上げて提案するだけでは、期待に対応できなくなっているのかもしれません。
僕の周囲でも、クライアント、あるいはクライアントの顧客の中に入っていき、その場で一緒になって、次に進む道を見つけていくようなスタイルが求められる場面も増えています。

「何もないところから何かを創造する」
その要望に応えていこうとするならば、本書で学べる即興コメディのスキルには、何らかのヒントがあるように思います。


Posted: 2015年5月21日 13:18 | コメント(0)

ピケティ読んだけど質問ある?『21世紀の資本』

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

「私たちは99%だ!」
2011年、米国の若者たちによるウォール街を占拠しようという抗議活動がありました。
今や米国ではトップ1%の富裕層が国民所得の20%を占めるといわれます。
この現状に不満を持った若者たちが、ついに声を上げたというわけです。

このように大きく顕在化してきた格差問題を、新しい視点で解明した文献が話題です。
ご存じ、ピケティの「21世紀の資本」。今回はこの本を取り上げましょう。

Q1:ピケティって何が言いたいわけ?


>>1
本書は700ページにもわたる大長編ですが、主張は明快です。
それは、「資本主義という仕組みそのものが、所得分配の格差を拡大させるものである」というもの。
つまり、富める者はますます豊かになり、そうでない者とは格差が開くばかりだというわけです。

では、なぜ格差が広がっていくのでしょう?
そのメカニズムを説明するのが、不等式「r(資本収益率)>g(経済成長率)」です。
資本収益率とは、株や不動産などの資本から生み出される収益率で、18世紀以降、4〜5%の水準で推移してきました。
一方、経済成長率とは、国民所得の伸びを示すものですが、こちらは長期的には1〜2%程度というものです。
確かにこの不等式は成立しますね。

しかしそれがなぜなのかというと、ピケティ本人も理論的には分らないといいます。
これまでの経済学者は、難しい数式を扱って理論を構築することを得意としてきました。
なので、ピケティの主張にも反論が殺到しています。
「rが高いのは資本家のリスクプレミアムじゃないか」「資本の中に人的資本が含まれていないじゃないか」などなど。

しかし、ピケティのアプローチは理論構築ではなく、データ解析です。
理論は分からないが、世界20カ国のデータを100年分収集し、解析した結果がこうなっているという主張であって、逆にそこに説得力があります。

Q2:格差の原因と対策は?


>>2
面白いのは、本書には文学からの教訓が多く引用されているところです。
たとえば、バルザックの古典「ゴリオ爺さん」。
法律を学ぶ青年ラスティニャックが、年収1200フランを稼ぐ判事になるのか、資産家の娘と結婚して100万フランの富を得るのかの選択を迫られるなど、富と資本の構造が浮き彫りになっている小説です。

おそらくピケティは、経済学というものが机上の空論ではなく、きちんと社会生活と結びついていることを示したかったのだと思います。そして、「人が生まれた時からすでに格差があるなんておかしい」と、社会に警鐘を鳴らしたのです。

ピケティの考える格差の原因は、教育の問題、テクノロジーの台頭、超大企業の誕生で生まれたスーパー経営者、相続の蓄積などなど、各国ごとの事情もあって複雑です。

そんな格差の是正に向けた提言はシンプルです。それは、国際社会で協調し、資本に対して累進税を課すべきというものです。
現実的には難しい話ですが、格差問題を「世界中の人々みんなで解決していくべき」というメッセージ自体に大きな意味があるのでしょう。


Q3:ピケティ読んでどう思った?


>>3
僕自身は、投資銀行や広告会社で働いてきたわけで、労働者サイドでありながらも基本的には資本主義、つまり市場の機能を信じています。
これがあるから、民主主義が成り立ち、人々の「成長を追求する」モチベーションが継続するのだと考えています。

ただし、経済理論とは違う視点として、僕の著作「つなげる広告」では、経済成長だけが人の幸せでないことを主張しています。
たとえば、大きな交通事故があったとします。
多くの人を不幸に陥れる惨事ですが、救助作業や道路清掃などの特需によって、GDPは加算されていきます。

つまり、人の幸せはお金では測れないということです。
資本主義による格差拡大は、ピケティによって解明されつつあるのでしょうが、それと人のハピネスはイコールではないということです。

今世界的に、ハピネスの概念は、物質的な豊かさだけでなく、文化や精神、公正さ、環境の維持などの価値観へ転換しつつあります。
もちろん、格差是正に向けてみんなで取り組んでいくべきですが、僕自身はお金の格差よりもっと大事な価値観を見いだす時代が来ているのだと考えています。


Posted: 2015年2月25日 09:10 | コメント(0)

「破壊的アイデアを生み出す5つのステップ」

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、ルーク・ウィリアムス著『デザインコンサルタントの仕事術』(英治出版)を取り上げましょう。
著者は、元は世界的なデザインコンサルティング企業「フロッグ」のクリエーティブディレクターです。
邦題が誤解を与えそうですが、原題は「DISRUPT(破壊せよ)」であって、デザインについてではなく、ビジネスにイノベーションを起こすための「破壊的な思考法」を身につけるための実務書です。


誰も考えていないことを考え、誰もしていないことをしなければならない


ここでいう「破壊的」の意図は、他の誰も想定していないソリューションを送り出して、マーケットを驚かせるということです。
これからの10年、企業がビジネスの競争に打ち勝っていくためには、競合が思いもつかず、まねもできないようなアイデアを生み出し、実現していかなければなりません。
そのためには、「誰も考えていないことを考え、誰もしていないことをしなければならない」というわけです。

これまでビジネスに関わる人は、問題点(=修正が必要なところ)を見つけ出し、そこを集中して解決するように訓練されてきました。
しかし本書では、この「壊れていなければ触るな」という態度を、破壊的思考に敵対するものだとしています。
これから重要なことは、そういう態度ではなく、「どうしたら、今うまくいっている勢力図を破壊できるか?」という思考だというのです。つまり、「壊れていないところ」こそ、手をつけるべきだというわけです。

常識を破る5つのステップ


本書では、破壊的思考を実践していく方法が「常識を破る5つのステップ」として説明されていますので、以下に紹介しましょう。

1.破壊的な仮説を立てる。
「色を替えたら...」や「新機能を増やしたら...」などのちょっとした小細工を考えるのではなく、想像のはるかかなたを突き抜けるようなアイデアで頭を揺さぶります。それを「正解を探すためには、あえてまず間違えることだ」と説明しています。
例えば、「ばらばらの靴下を3つ1組で売ったらどうなるだろう?」という仮説から「リトルミスマッチ」というファッションブランドが成功した事例などが紹介されています。

2.マーケットに眠る破壊的チャンスを見つける。
次に仮説の対象である人々を観察します。どんな人がどんな目的で行動しているか、中でもいちばん目につかない場所を探ろうというものです。
本書では、従来型の調査ではなく、短時間で、直感的、定性的にインサイトする手法がいくつか紹介されています。

3.破壊的アイデアをいくつか生み出す。
見つけた破壊的チャンスを分解し、製品、サービス、情報の要素を混ぜ合わせて、破壊的アイデアに転換する手法が紹介されています。
例えば、任天堂「Wii」のモーションコントローラーは、テレビゲーム機を参考にしたのではなく、全く関係ない自動車のエアバッグに使われていた加速度センサーからひらめきを得たものです。
また、「iPod」の清潔でミニマルなデザインは、デザイナーのジョナサン・アイブ氏がアップルに入る前、便器のデザインを手掛けていたことによるという事例も紹介されています。
このような全く関係のないところで見つけたチャンスをいろいろと組み合わせ、まずはそこに「名前」をつけることからアイデアに転換していこうと説明されています。
もちろん、こういった想像もつかないアイデアには、競合も現れないというわけです。

4.アイデアを破壊的ソリューションに仕上げる。
破壊的アイデアは素晴らしいですが、それは実現されてはじめて価値を生むものですので、今度はそれを破壊的ソリューションに転換しなければなりません。
本書では、この段階でエンドユーザーを開発プロセスに巻き込み、いくつかのアイデアを人々に試してもらいながら評価を受け、プロトタイプ開発を進める手法が紹介されています。
つまり、実現策に転換する段階で、共創マーケティングのノウハウを活用していこうというわけです。

5.破壊的プレゼンで売り込む。
本書がユニークなのは、これまでのステップで生み出された破壊的ソリューションを、社内や社外のステークホルダーに売り込み、投資や賛同を得る手法まで紹介されているところです。
ほとんどの人は、破壊的ソリューションを、破壊的だという理由だけで採用しません。そこに価値があるということを信じてもらうためには、普通以上の破壊的なプレゼン(なんでも破壊的ですが...)が必要になるわけです。
本書では、これを9枚のスライドを使い9分間でプレゼンする手法が述べられています。

従来の延長上を探していてもダメ


このように本書でいう「破壊的思考」とは、「破壊的」という言葉とは逆に、全く新しいマーケットを「創造する」ことを狙いとしたものです。
「創造」、つまり「クリエーティビティー」とは、顕在化している課題を解決することではなく、現時点ではうまくいっているように見えるものを壊すことによって可能性を見いだすことだと気づかされます。

僕は電通で未来創造グループという部署に所属し、ミッションのひとつとして「商品・サービス開発の共創マーケティング」に取り組んでいます。
これも同じく、企業がこれまで取り組んできて手法とは全く違った角度から、アイデアを生み出していくチャレンジです。
本気でビジネスにイノベーションを起こし、未来を創ろうとするならば、従来の延長上を探していてもダメなわけですね。
これまでのやり方を破壊することから未来創造が始まるということを、あらためて学べた一冊でした。


Posted: 2014年12月10日 22:27 | コメント(0)

今回は、『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』(翔泳社)というビジネス書を取り上げましょう。主著者のニール・イヤール氏は、心理学とテクノロジーを経営学に取り入れて活動しているコンサルタントです。

原書のサブタイトルに、「How to Build Habit-Forming Products=商品の習慣化を築く方法」とあるように、本書は一貫して「いかにして商品やサービスを習慣的に使ってもらう仕掛けをつくるか」をテーマにしています。

例えば、フェイスブックやツイッター、LINEなどのサービスは、皆さんの日常生活で自然と使われていますよね。ビジネス的な視点でいうと、これらは誰もが認める成功したサービスといえるでしょう。でも、もちろん、成り行きで何となく成功したはずはありません。これらのサービスが皆さんに選ばれるのには、きちんと理由があるようです。

それは本書によると、顧客に対して「習慣を提供すること」に成功したからだといいます。つまり、戦略的に「人々がハマるように仕掛けた」結果だというわけです。

本書では、このような豊富な事例から、人々の行動が習慣形成されるメカニズムを心理学的に解明しています。そして、そのメカニズムを「フックモデル」と名付け、ビジネスに活用できるように体系化しています。このモデルは、早くもスタートアップ企業にとってのバイブルといわれているようです。

本書が唱えるフックモデルは、顧客に対する4つのアプローチから成り立っています。まとめると、おおよそ以下のようなものです。

①トリガー(きっかけをもたらす)
これは、顧客に「次にどういう行動をしてもらうか」を促すものです。たとえば、よくウェブサイトに出てくる「今すぐクリック」などという直接的な誘因などはまさにそう。こういったものは、外的トリガーと定義されています。
しかし、もっと大事なのは内的トリガーと定義される、人の心の奥にあるトリガーを引くことです。たとえば、孤独やさみしさを感じた時に友だちの様子を知りたくてフェイスブックを見たりしますが、これはそもそもフェイスブックというサービスが、内的トリガーを引くプロダクトとして設計されているからなのです。まずは、このトリガーをどう引くかからフックモデルは始まります。

②アクション(行動を促す)
これは、③のリワード(報酬)に期待を持たせ、シンプルな行動をしてもらうことです。シンプルな行動とは、例えばフェイスブックやツイッターなら画面をスクロールする(報酬=友だちの近況)とか、グーグルなら検索ワードを入れてクリックする(報酬=欲しい情報)とか、iPhoneカメラならシャッターを押す(報酬=写真が保存されること)などのことです。
当たり前のことように思えますが、顧客にとってみれば、ここがシンプルであるほど習慣化しやすいということなのです。

③リワード(報酬を与える)
報酬とは、顧客が行動の結果として獲得できるものですが、これは予測不能なものであることが大事だといいます。たとえば、フェイスブックの画面をスクロールしていく場合の報酬は友だちの近況ですが、ここにどんな情報が出てくるか分からないことが大事です。
またフェイスブックに投稿するという行動も、報酬としてどれだけの「いいね!」をもらえるか分からないことがミソなのです。LINEでメッセージを送るという行動もそうです。そのあとの報酬として、友だちからどのような返信が来るか分からないからいいのです。つまり、どのような報酬かが予測できないからこそ興味が持続し、ワクワクが継続するわけです。

④インベストメント(投資させる)
これは、顧客にちょっとした労力を掛けてもらうというものです。イケアの家具は自分仕様に組み立てるというちょっとした作業が入っていることで、自分にとって繰り返し使いたい家具が完成します。それと同じく、たとえばツイッターではアカウント作成時に、数名フォローすることを強要されます。
しかし、このちょっとした労力によって、次回また訪問しようというモチベーションが生まれます。

顧客にこれら4つのステップをグルグルと循環してもらうことで、日常生活における習慣形成がなされ、どんどんそのサービスにハマっていくというわけです。さらに本書では、フックモデルを実際に組み立てる際に役に立つよう、これらをチェックする5つの項目も用意されています。

1.ユーザーが望んでいることは何だろうか?(外的トリガー)

2.なぜユーザーはあなたのプロダクトを使い始めるのだろうか?(内的トリガー)

3.報酬を期待したユーザーがとるもっともシンプルな行動はなんだろうか?その行動を起こしてもらうためにプロダクトをシンプル化できるだろうか?(アクション)

4.ユーザーは現在の報酬に満足しているのだろうか?もっと報酬を欲しがっているのだろうか?(リワード)

5.ユーザーはあなたのプロダクトにどのような「ちょっとした作業」を行ってくれるだろうか?その作業は次のトリガーを生み出し、プロダクトを使用すればするほど改善が見込めるような価値を蓄積するだろうか?(インベストメント)

これらの質問項目に答えることができれば、そのサービスは、晴れて顧客に「習慣を提供する」ことができるでしょう。

ところで、本書の翻訳を手掛けられた株式会社VASILYのCEO金山裕樹さんとは、本書を読む前からお付き合いがありました。金山さん持ち前の野心と論理に裏付けられた経営姿勢には、いつも感服させられていました。

実際、VASILYが展開するファッションコーディネートアプリ「iQON」は、100万ダウンロードを超える成長を遂げていますが、今回、本書によってその成功の陰にはフックモデルがあるということを知り、とても興味深く思いました。

その金山さんは、サービスの提供はもちろん、その広告においても人々を行動させることにこだわりたいと、いつも言っています。そういう意味では、この理論は僕たち広告に関わる者にも、大いに参考にできるものです。

もはや広告に求められるものは、単なる認知の獲得だけではありませんよね。人々を行動させ、その行動を習慣にするところまで期待されていくものです。本書で紹介されたフックモデルは、そんなこれからの広告を考える際にも、大きな示唆を与えてくれるものだと思います。


Posted: 2014年9月 5日 10:08 | コメント(0)

次の10年、広告マンに必要なスキルとは何か?

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、『広告ビジネス次の10年』(横山隆治・榮枝洋文著、翔泳社)を取り上げましょう。
本書は、デジタル化とグローバル化の波によって、広告会社のビジネスモデルが大きな転換を迫られていることがテーマになっています。
これから10年、広告ビジネスが生まれ変わるためには何が必要か、広告マンには何が求められるのか?
僕たちにとっても耳の痛い話が、たくさん課題としてあげられています。

本書には、「広告マンの8割はいらなくなる」とあります。
実際、先行してデジタル化とグローバル化が進んだ金融業界では、この15年で証券会社の営業マンが半減しているといいます。
そんな状況をみて、以下のような広告マンは必要なくなるというのです。


「広告主の前でお天気と株価の話しかできない幹部」
「メディアの事情通というだけのメディア担当」
「広告主が素人だったので通用していた御用聞き営業マン」
「15秒と30秒の広告しか作れないCM職人」
「自ら分析できないプランナー」


ややあおっているようにも聞こえますが、大きくは間違っていないでしょう。
では、なぜこうなってしまうのでしょうか?
それは広告主が必要としているものが「マーケティング」だからです。
そしてマーケティングとは「広告販促」ではなく、「経営の根幹」だからです。
経営の根幹であるマーケティングは、デジタル化とグローバル化によって、開発、生産、物流、労務などなど、どんどん広告販促以外の領域に浸透するようになるからなのです。

ならば、広告会社と広告マンは、仕事を再定義しなければなりませんよね。
本書では、「データを制するものがビジネスを制す」と述べられています。
つまり、マーケティングで主導権をとるために、データの保有合戦が始まり、これを制しなければならないというのです。
しかし現状は、広告会社は厳しい立場に置かれているようです。


広告、マーケティング領域においてはコミュニケーションの対象者であるオーディエンスデータを整備することが喫緊の課題である。
いわゆるユーザーの購買・行動履歴データを指すオーディエンスデータはグーグルをはじめ多くの有力ウェブサイトが保有している。
また、広告主も顧客データや会員データ、ウェブサイトへの訪問者というオーディエンスデータを保有する。
そのほかにもポイントカード、クレジットカードや外部のデータ供給会社も存在する。
ところが、広告代理店はオーディエンスデータを保有する立場にないのだ。
これは致命傷である。


つまり、マーケティングの通貨はオーディエンスデータになるわけです。
ならば、オーディエンスデータを持たないプレーヤーは、無用の存在になってしまいます。
広告会社が広告主のマーケティングを支援しようというなら、彼らが持っていないデータを保有し、提供できる立場になる必要があります。
本書では、広告会社が狙うべき3つのオーディエンスデータを挙げています。


・購買データ(オンラインとリアル店舗)と購買意識データ
・ソーシャルメディアデータ
・テレビ視聴を中心とするメディア接触データ


これらを広告主に提供できるのならば、広告会社の優位性は増します。
しかしいずれのデータも、調査会社が持つような数千人単位のパネルデータではなく、ビッグデータでなければ説得力がありません。
購買もソーシャルメディアも視聴率も、全数の時代なのです。
ならば、広告会社がアマゾンやTポイントカードのように、こういったデータの取得システムを持てるかどうかがカギです。
これができれば、チャンスが訪れるというわけですね。

一方、広告マンに求められる再定義とはどのようなものでしょうか?
本書では、次世代広告マンに必要なスキルセットが詳細に述べられていますが、大きくまとめると以下のようになるでしょう。

・データマーケティングと向き合う「インサイト&プランニング」スキル。これまでのマーケティングプランナーや戦略プランナーが「仮説言い切り型」だとしたら、これからは生活者の行動分析に基づくカスタマージャーニーデータからの「文脈発見型」のプランニングのスキルが必要。

・ターゲットとのコンタクトポイントを設計する「メディア/コネクション」スキル。これまでの広告会社のメディアプランナーとは意味が違うため、セールスプロモーションやメディア開発の経験が欲しい。これからのコンタクトポイントは、同時にデータ収集ポイントになるため、様々な接点でのコミュニケーションと同時にデータを収集し、それを他の接点に生かして企画するスキルが必要。

・「ビジュアルデザイン/コピーライティング/インタラクションデザイン」というこれまでとは全く別物のクリエーティブスキル。これまでのクリエーティブの概念をリセットして、デジタルを中心にすべてのスキルに関わりながら考えることができること。コミュニケーションプランニングの領域まで拡張して捉え(本書では「コミュニケーションプランニング」は「広告」よりもはるかに広い概念と定義されている)、ペイドメディアからの発想ではなく、オウンドメディアからアーンドメディアへ発想し、それを補足するペイドメディアという考え方ができること。また、戦略PRにおける情報クリエーティブや、広告を超えたブランデッドコンテンツ、さらにはサービス開発や新たなビジネス開発への発想も求められる。

・「テクノロジー」「アナリティクス」スキル。「テクノロジー」は、広告配信からCRM、ウェブ最適化からソーシャルまで多様なテクノロジーの導入と運用のコンサルティングができるスキルだが、今の広告会社には全く欠けているという。社内育成はかなり難しいので外部からの獲得になるが、マーケティングの本質を理解しているテクノロジーの専門家も希少。また「アナリティクス」については、単独の職種というより、すべての広告マンに求められるスキル。たとえばクリエイターでも各ユーザー接点での反応データを分析し相乗効果を最大化する発想が求められる。

本書では、このようなスキルを次世代広告マンに必要なものとした上で、一番重要なのは「フロントライン=営業」の改革だと述べられています。


営業かスタッフかという古い考え方を一旦捨て、広告主との窓口は誰であるべきかをじっくり考え直す必要がある。


つまり、プロジェクトの性質によって窓口の適任は違うということでしょう。

また、売上の大きい広告主には、その企業用のビジネスユニットを構成することもひとつの対処策と述べられています。
つまり、広告会社の組織として機能するのではなくて、広告主の組織として課題解決に対応する人材配置をするというものです。
こういったビジネスユニットは、ひとつひとつがそのまま次世代広告会社のプロトタイプになるのかもしれませんね。

厳しい視点も多い本書ですが、最後まで読んでみると、これらは長年この業界に身をおく著者お二人からの熱いエールなのだと理解できます。
デジタル化、グローバル化に直面する、広告会社と僕たち広告マン。
十分過ぎるほどの課題があぶり出された分、逆にこれからの成長に向けたチャンスも明確になった一冊でした。


Posted: 2014年6月 4日 20:06 | コメント(0)

5年後メディアが稼ぐためには何が必要か?

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

今回は、『5年後メディアは稼げるか』(佐々木紀彦著、東洋経済新報社)を取り上げましょう。
ご存じ、佐々木紀彦さんは、東洋経済オンラインの編集長。1979年生まれで、まだ30代半ばのニューヒーローです。
本書は、主に新聞や雑誌の紙メディア業界の話ですが、テレビ、そして広告業界にも当てはまるでしょう。
すべての変化は「メディア新世界」の到来に起因しています。
メディア新世界とは、紙からデジタルに主役が逆転する世界です。
しかし単に、紙の読み物がウェブになるというだけの話ではありません。
本書によると、「デジタルを起点にして、紙、広告、イベントなどのすべての戦略を考えるようになり、人事面でもデジタル部署に社のエースを投入するようになる」といいます。

本書では、メディアのマネタイズモデルは8つに整理されています。
「①広告、②有料課金、③イベント、④ゲーム、⑤物販、⑥データ販売、⑦教育、⑧マーケティング支援」の8つです。
現在、この中の収益の柱は「広告」と「有料課金」。ただ収益の安定性とジャーナリズムの強化という観点で、広告依存度が高いことはリスクだといいます。
ならば、デジタル化したメディア新世界では、有料課金こそを収益の本命にしていくべきという主張です。
その具体的な方法論は、「フリーミアム」。ヒントは成功しているネット企業のビジネスモデルにあるとしています。

たとえば、ドワンゴが運営するニコニコ動画です。
ここは、無料視聴でPVを稼ぎながらも、収益の柱はプレミアム会員からの収入になっています。プレミアム会員には、混雑時の優先権の他、出演者と電話で話せるなどの特典があります。
また、料理レシピサイト「クックパッド」もフリーミアムの成功モデルです。プレミアム会員は、人気順検索が使え、殿堂入りレシピなどがすぐに閲覧できます。
本書では、これらから学べばメディアができることはたくさんあるとして、例が挙げられています。

「広告表示もページ分割もない特別なレイアウトを提供する」
「無料のイベントに会員を優先招待する、もしくは有料イベントを割引する」
「好きな筆者に質問を送ることができる」
「自分の興味に合った記事が読めるパーソナライズ機能を追加する」
「世界中の企業を網羅した企業検索サービスを使える」
などなど、考えうるオプションを総動員し、コンテンツと組み合わせて有料会員を募る。

有料課金へのシフトとは、すなわち、広告収入に頼っていたためにPV至上主義になっていた体質からの脱却を意味しています。
では、広告はどうすればいいのでしょう?
本書では、「広告を面白くする。それに尽きる」と明言しています。
これは今年のバズワードのひとつ、コンテンツマーケティングに通じるものでしょう。

デジタルに置き換えられるものは、際限なく価格が落ちていきます。しかし、面白いもの、クリエイティブなもの、数字に換算できないものは、過当競争に陥りません。ですから、広告主がおカネを出したくなるような、面白い広告を創る力を高めることに全力を注ぐべきです。ネット広告をコモディティー化から救うのは、テクノロジーではなく、人間の力なのです。

ネットの世界ではメディアの数が無数になる一方で、広告主企業の数は変わりません。となれば、相対的にメディアの価値が下がり、広告主企業の力が高まります。
さらに今後は、本書にもある通り、広告主企業がジャーナリストを雇ってオリジナルコンテンツを創ったり、読者データを集めてターゲッティングしたりすることも増えていくでしょう。広告主企業の力は、ビジネス、コンテンツの両面で増していくわけです。
そうなると、「メディア側の広告担当はこれまでと比較にならないほどの能力とセンスが求められる」と述べています。

単なる営業力だけでなく、コンテンツの企画力、アドテクノロジーへの造詣、紙やイベントとパッケージ化した販売戦略など、あらゆることに精通しなければなりません。複数の領域をまたぎ、つなげるという点では、編集者の素養とも重なります。つまり今後は、広告担当者の"編集者化"が進むのです。

これまでのメディアでは、「編集」と「広告・ビジネス」とは分離されているものでした。しかしこう見ると、今後この2つは融合していかざるを得ないことが分かります。

このようなメディア新世界で生存していくために、具体的に必要なスキルセットはどのようなものでしょう。
本書では、メディア界隈に存在する人たちを「紙メディア族」「ウェブメディア族」「ビジネス族」「テクノロジー族」の4つに分類しています。
本来の有望なキャリア形成は、これらの族のなかで抜きん出る存在になることですが、それは簡単なことではありません。
なので、これからは、今の自分のポジションがどの族なのかを理解した上で、異なる族のスキルを掛け合わせて差別化していくことだといいます。

たとえば、

- 紙メディア族+ウェブメディア族=コンテンツ作成のプロ:次世代エディター、次世代ライター。
- ウェブメディア族+ビジネス族=ネットマネタイズのプロ:オンラインプロデューサー。
- ビジネス族+テクノロジー族=データのプロ:データサイエンティスト、デジタルマーケター。

などなど、計10パターンが例示されています。

5年後の稼ぐ姿が、おぼろげに見えてきたメディアビジネス。
今度は、それを実現する人の育成が急務になっているようです。


Posted: 2014年3月25日 20:52 | コメント(0)

ウェアラブルが変える僕たちの未来とは?

Book reviewer: 京井 良彦 / Yoshihiko Kyoi

昨年あたりから、急速に話題になっている「ウェアラブル」。今回は、佐々木俊尚さんの新著『ウェアラブルは何を変えるのか?』を取り上げましょう。

「ウェアラブル」(正確には「ウェアラブル・デバイス」ですが)とは、人の身体に装着できる形状のITデバイスのことです。すでに、眼鏡型、腕時計型、フィットネス・ブレスなどは、一般向けに販売されていますね。
先日ラスベガスで開催されたエレクトロニクスの見本市「CES 2014」でも注目度が高く(編集部注:CES2014のイベントレポートはこちら)、3月にはウェアラブルのイベントが東京で開催される予定だったり、2014年はウェアラブル祭りになること必至です。
ただ、このように次々と発表される製品が、ウェアラブルの本質的な価値を見極められてのものかどうかは、まだ疑問という感じもあります。

本書では、ウェアラブルの登場をIT業界における一過性の流行りではなく、僕たちの未来を大きく変えるであろう、重要な兆しとして位置付けています。
たとえば、こんな捉え方がされています。

「単に眼鏡にカメラをつけたとか、腕時計に液晶画面をつけてメール着信ができるようにしたといった『電子オモチャ』的な捉え方ではなく、体に装着することで体の感覚を拡張し、インターネットと身体をダイレクトにつなげていく基盤になるものだ」

ウェアラブルの価値は、常に身体に装着されているところにあります。それによって、身体内部の情報と外界環境の情報が蓄積されていくのですね。
つまり、ウェアラブルは、単にスマートフォンの情報を眼鏡や腕時計上に表示するものではなく、心拍や運動量、体温、血圧といった身体の状態や、気温や湿度といった外界の状態をセンサーで取得し、これらをクラウドに送信してビッグデータ解析をしていく入り口になっていくわけです。

本書では、ウェアラブルが活用されていく世界についても解説されています。たとえば、自動車メーカーやグーグルが開発を進めている自動走行車から、高速道路や水道設備、ビル設備、病院、送電、街角の防犯カメラなど、あらゆる都市インフラにセンサーを組み込んでリアルタイムに計測し、その情報に基づいて運用が行われる構想です。

「アナログなモノをネットにつなげるための『媒介役』になるのが、センサーです。モノそのものはネットにつながらなくても、モノの状態をセンサーで測り、そのデータを通信モジュールによってクラウドに送信することで、擬似的にネットにつながることが可能になる」

米インディアナ州のある市は、頻繁に氾濫事故を起こす古くなった下水を、多額の予算をかけて作り直すのではなく、下水路の各所にセンサーを取り付けて汚水の量をコントロールするという選択をしたそうです。このようなことが、あちこちで起きているというのです。

これが、ウェアラブルとどうつながるか、分かりますか?
今後5年、10年で、ITの世界は、単にバーチャルなネット空間の中に存在するものではなく、リアルな空間を、センサーを媒介役として取り込んでいく方向へと大きく進んでいきます。
これは、「Internet of Things」、つまり「モノのインターネット」と言われる概念です。あらゆるモノ(それは人の体内の要素も含みます)とクラウドが接続され、ネットワークが形成されていく。そんな中、ウェアラブルもこの大きな潮流の一部として位置づけられるべきというわけです。
本書にはこのような説明がされています。

「ウェアラブルによって、身体とITがダイレクトに接続されていくような未来が作られ、クラウドに置かれている情報や知識は、すべて身体とリアルタイムでシンクロナイズしていくということになるのかもしれません」

こうなると、ウェアラブルで取得される情報から、本人の意識していないニーズを捉え、コミュニケーションを成立させることが可能になっていきますね。
たとえば、ターゲットの体内の情報から空腹値を算出し、GPS情報との掛け合わせで最寄りのハンバーガーショップをレコメンドしたり、その情報を自動的にソーシャルにシェアしたりするというようなものです。

果たして僕たちがこんな世界を望むかどうかは別にして、これはもうSFの話ではなく、目の前に迫っている現実です。人とテクノロジーは、ますます共進を遂げていき、コミュニケーションは無意識の領域に進んでいくということです。
このままいくと、これまでのコミュニケーションのあり方もガラリと変わりそうです。人間はどんどんバカになっていきそうな気もします。僕たちも、広告人として、いやその前に一人の生活者として、来るべき世界に向けて準備をしなければなりませんね。

京井良彦


Posted: 2014年1月30日 00:18 | コメント(0)

今回は、ロンドン・ビジネススクール教授で、英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりに選ばれたリンダ・グラットンの著書『ワークシフト』を取り上げます。
本書は「2025年、僕たちはどんな働き方をしているか?」がテーマになっています。2025年といえば、東京オリンピックの5年先。そう考えると、そんなに遠い話ではなさそうですね。

2010年には中国が45カ所の空港の建設を進めていた、携帯電話を使用した送金システムのイノベーションを牽引しているのはケニア、2025年までに世界の50億人以上が携帯端末で結びつくなどなど、ふんだんなデータから僕たちの未来に何が待っているかが明らかにされていきます。
本書では、人々の働き方が変わる要因は、以下の5つのトレンドによるものだと述べられています。

①テクノロジーの発展
②グローバル化
③人口構成の変化と長寿化
④個人、家族、社会の変化
⑤エネルギーと環境問題

そのような環境変化の中で、人々が主体的に以下の3つにワークシフトすることが必要になってくると説かれています。

①広く浅いゼネラリストではなく、専門技能を次々習得する連続スペシャリストへ
②孤独な競争から、みんなでイノベーションする協創へ
③金儲けと消費から、価値ある経験の選択へ

このようなシフトは、「予想」ではなく「予測」、つまり今すでに起きているトレンドの延長上にある必然だということです。

企業やブランドは、この未来予測をどう捉えるべきでしょう。
人々の働き方が変わるなら、当然、ライフスタイルや価値観も変わっていきます。ならば、企業やブランドから人々への提案も変わっていかなければならないはずですよね。

特に③のように「お金や消費ではなく、自分にとっての価値ある経験」を主体的に選択する働き方は、そのまま消費行動にも影響を与えます。企業やブランドの従来の価値観による一方的な商品やサービスの提案は、意味がなくなっていきます。企業やブランドは、一人ひとりにとってどれだけ価値ある経験を提供できるか、そのサービスや商品に、一人ひとりと関与するどんな意味やストーリーがあるのかが問われるようになっていくわけです。
ならば、企業やブランドは今からその対応をしていく必要があります。提案するサービスや商品もコミュニケーションも、究極的には一人ひとりの価値観にどう最適化していくかを考えていかなければなりません。

これらは「すでに起こった未来」です。本書には以下のように結論づけられています。

「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生がある。

これは人々に向けられたメッセージですが、企業やブランドにも同じことが言えるはずです。人々の未来を拓く提案をしていくために、今こそ動く必要があるわけですね。

京井良彦


Posted: 2013年12月12日 13:17 | コメント(1)