DMCラボ・セレクション 〜次を考える一冊〜
滝村 泰史 / Yasushi Takimura ARCHIVE

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー著の『クリエイティブ・マインドセット―想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』(日経BP社)を取り上げます。

皆さんは、ご自分のことを「クリエイティブ」だと思いますか?
本書で紹介されている調査によれば、75%の人がそう思っていないとか。

この本の画期的なところは、どんな職業に就いていても、潜在的にはすべての人が「クリエイティブ」である、という前提に立っていること。にもかかわらず、これまでの人生経験から、それを封印している人があまりにも多く、もっとたくさんの人がクリエイティブの楽しみを知ることで、「世界は変えられる。より良くできる」という強いメッセージが込められています。


「世界はよりクリエイティブな政策立案者、マネージャー、不動産業者を求めている。(P.25より)」


しかも、そうしたメッセージは、単なる希望的観測ではないのです。著者の2人が、「IDEO(アイデオ)」というデザインファーム(世界的なイノベーションのコンサルティング会社)で、クライアントとして付き合ったお堅い企業人たち、あるいはスタンフォード大学の「dスクール」で演習を共にしたさまざまな専門学生たちとの実際の経験をもとにした発言であり、説得力があります。

たとえば、「IDEO」に依頼してくるクライアント企業の経営幹部たちは、プロジェクトの最初は、「われわれはクリエイティブではないから」と口をそろえるそうです。チーム作業をしても創造の過程には興味を示さず、最終結果だけを求めがちだとか。ところが、プロジェクト後半になると、「IDEO」のメンバーと肩を並べてそのやり方を熱心に観察し、自分たちでも新しいアイデアを生み出そうとするのです。

また「dスクール」の授業を受けたある学生は、終了後、何カ月もしてから教室を訪ねてきて、「初めて自分をクリエイティブだと思うようになりました」「どんな課題にも創造性を発揮できるようになりました」と興奮して伝えに来たり、なかには感極まって泣き出す学生までいるのだそうです。

著者の一人である兄のデイヴィッド・ケリー氏は、こうした変化を「宙返り」(flipping)と名づけました。いままでの頑なな心理状態から、創造的な意欲が芽生えて別の心理状態にくるりと変わる様子を、うまく表現しているのではないでしょうか。

弟のトム・ケリー氏は、これまでにも、『発想する会社!』『イノベーションの達人!』という2冊のベストセラーを発表し、「IDEO」で培ったさまざまな方法論を公開してきました。けれども、そうした方法論以前に、なによりも"人のクリエイティビティ"を阻んでいるのが、「自分はクリエイティブではない」という自信のなさであることにあらためて気づき、兄とともに本書を書きはじめたというわけです。

ですから、本書のキーワードは、ずばり「Creative Confidence(創造力に対する自信)」。原題にもなっている、印象的な言葉です。


「自分の創造力を信じることこそ、イノベーションの「核心」をなすものなのだ。」「こうした自信は筋肉のようなものだ。努力や経験次第で、強くしたり鍛えたりできる。(p18より)」


では、その自信をどうやって身につけていくのか? 著者は、「恐怖の克服」を第一に挙げます。

そもそもクリエイティブに自信のない人は、自分には才能がないと決めつけていたり、子どもの時にイヤな思いをした経験から、「うまく行かないのではないか」「馬鹿にされて恥をかくのではないか」といった恐怖を抱えているケースが多く、まずはそれを克服することが大切というわけです。

そこで紹介されるのが、「ヘビの恐怖症」の治療エピソード。ヘビの恐怖症を克服するには、「指導つきの習熟」と呼ばれるプロセスが必要なのですが、それは、大きな恐怖にいきなり立ち向かうのではなく、専門家の指導のもと、自分が対処できるほどの小さなステップを一つずつこなしていき、最終的にヘビが触れるところまでもっていくやり方です。一生治らないと思っていた恐怖症が克服できた時、患者さんは「自分は変わる能力がある」「成し遂げることができる」と、人生への見方までが劇的に変わるのだそうです。

ヘビの恐怖に比べれば、クリエイティブは本来楽しいはずのこと。いま現在は、クリエイティブに対して自信がなくても、いくつかの恐怖を少しずつ克服していければ、自分に対する見方が変わり、本来の創造性が発揮できる、と著者は背中を押してくれます。

なかでもクリエイティブの場合、最大のハードルが、「失敗に対する恐怖」。そこで著者は、失敗はイノベーションを成功させる上で不可欠なものと捉え直し、むしろ失敗するのが当たり前、という心理状態をつくることが肝要だ、とアドバイスします。


「世間では、『天才的な創造力の持ち主は、ほとんど失敗しない』と根強く信じられている。(中略)モーツァルトのような芸術家から、ダーウィンのような科学者まで、天才的な創造力の持ち主は、失敗の数も多い。ただ、失敗したからといって、それを挑戦をやめる口実にしないというだけだ。(P66・67より)」


「最終的に"天才的ひらめき"が訪れるのは、ほかの人よりも成功率が高いからではない。単に、挑戦する回数が多いだけなのだ。(中略)もっと成功したいなら、もっと失敗する心の準備が必要なのだ。(P67より)」


そのために、失敗してもいい心構えや環境、チームをつくり上げて、どんどん失敗しやすくすることを推奨しています。自分の挑戦を「実験」や「ゲーム」と周りに印象づければ、たとえ失敗しても傷つかずにすむとか、自分をさらけ出し、いざという時に助けを求められる仲間をつくるとか。

こうして、「恐怖の克服」のやり方を丁寧に解説してくれたあと、いよいよ後半では、クリエイティビティを発揮していくための、さまざまなコツが紹介されていきます。いわく「旅行者のように考える」「リラックスした注意を払う」「問題の枠組みをとらえ直す」。この本を読み進めて行くと、自分でも、なにかしらの変化が起こせそう、とだんだんその気になってきます。それが、本書の一番の効能かもしれません。

しかも、日本人の妻を持ち、大の親日家のトム・ケリー氏は、「日本人は本当にクリエイティブだ」と断言しています。世界5カ国5000人を対象にした最近の調査(Adobe State of Create Study・2012)では、「もっともクリエイティブだと思う国は?」という質問に対して、日本がアメリカを10%も引き離して1位を獲得したとか。ところが、肝心の日本人は、自らをもっともクリエイティブだと回答した人の割合が、一番低かったそうです。

日本人の謙虚さを表している気もしますが、いまこそ「Creative Confidence(創造力に対する自信)」を一人一人が獲得することで、さらなる"イノベーション立国"をめざせないか、と考えさせられます。

ただ、個人的には、「クリエイティブ」や「イノベーション」という言葉自体が、ハードルを上げている気がするので、日本人向けに「よい思いつき」とか「なるほどジャンプ」ぐらいの軽い単語を開発するのもアリかもしれません。


Posted: 2014年10月 3日 11:32 | コメント(0)

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著の『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』(早川書房)を取り上げます。

アップルやP&Gなど多くの一流企業の製品デザイン、顧客サービスのコンサルティングを請け負い、世界最高のデザイン・ファームと呼ばれる「IDEO(アイデオ)」の立役者が、その方法論を惜しげもなく明かしたのが、前著『発想する会社!』。2002年の本ですが、徹底した情報収集、実効あるブレイン・ストーミング、迅速なプロトタイプ製作など、その内容はさまざまなイノベーション本でも引用され、もはや古典と呼べる一冊となりました。

本書はその第2弾。これまた2006年の本なので、いささか古さを感じさせる事例もありますが、今でも十分に本質をついた内容となっています。

その中身はというと、イノベーションを生み出すチームに必要な人材をロールモデルとして10個挙げ、それぞれの果たしている役割・キャラクターを、具体的なイノベーションの事例を交えながら解説するというもの。

・情報収集のステップ
1 人類学者
2 実験者
3 花粉の運び手

・土台づくりのステップ
4 ハードル選手
5 コラボレーター
6 監督

・実現のステップ
7 経験デザイナー
8 舞台装置家
9 介護人
10 語り部

以上がその10個ですが、ここではイノベーションの3つのステップそれぞれから、代表するキャラクターを1つずつご紹介しましょう。

まずは、「人類学者」。最初の「情報収集をする」段階のキャラクターです。顧客本人も自覚していない潜在的なニーズを「エスノグラフィー」や「行動観察」を通じて、探り当てる人のことです。

例えばIDEOでは、新しい医療サービスの開発に当たり、病室でまるまる2日間を高齢者の方と一緒に過ごしたり、健康スナックの開発で、いくつかの一般家庭に上がり込み、その食生活をつぶさに観察したりしています。統計的に多くのデータを集めるのではなく、限られた顧客に徹底的に密着することで、どんどん仮説をつくっていくのです。

通常ニーズを探るのに使われるアンケートやインタビューでは、本人が自覚し、言語化できるニーズしか分からない。自動車王ヘンリー・フォードの有名な言葉に、「もし私が顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」というのがありますが、まさしく顧客が意識化しているニーズは、現在の延長線上のものでしかない。過去や現在と非連続なイノベーションが求められる今、「人類学者」の役割は、ますます注目を集めています。

ここで押さえておきたいのは、「人類学者」の重要な資質です。それは、「自分の世界観に疑問を持てるだけの謙虚さがある」ということ。「観察」というと、なにか客観的で、ともすると「上から目線」な印象ですが、どちらかといえば、相手のふところに入り込み、その気持ちにどれだけ共感できるかが一番のポイントだそうです。


次にご紹介したいのが「ハードル選手」。ステップとしては、情報収集の後の「土台をつくる」段階のキャラクターです。イノベーションを実現するには多くの障害物がばらまかれていることを知っていて、そうした障害を乗り越えたり、ときにはやり過ごしたりするコツを心得ている人のことです。

本書に登場する、数十年前にスリーエムで「マスキングテープ」を発明した社員は、3つのハードルを乗り越えたといいます。

1つ目は、「自分の仕事に専念しろ」というハードル
2つ目は、「社内の官僚主義」というハードル
3つ目は、「最初の失敗であきらめる」というハードル

結果、この社員リチャード・ドルーは、最終的に数十億ドルの累積収益を会社にもたらし、今では同社の伝説的人物として語られています。

イノベーションの難しいところは、発想を得るだけでなく、それを実現すること。初めてのことに障害はつきものですから、「ハードル選手」になったつもりで軽々と飛び越えるタフさを持ち合わせていないと、イノベーションは起こせないということです。5番目のキャラクターである「コラボレーター」の協力も得て、ときには機転を利かせて壁を乗り越えることを説いています。

そして、3つ目にご紹介したいのが、「経験デザイナー」。イノベーションのステップでいえば最終段階にあたる「実現する」キャラクターです。今、さまざまなビジネス本で「経験デザイン」のことが書かれていますが、その大本になった考えを提出した一人が、本書の著者、トム・ケリーだと思います。

商品であれ、サービスであれ、全ては顧客に対して、なんらかの「経験」を与えるもの。そうした視点で、顧客とのあらゆる接点を洗い出し、これまでの平凡な経験を非凡なものにできないか、つねに見直し続けるキャラクターです。

例えば、本書では、アイスクリームチェーン店「コールド・ストーン」が紹介されるのですが、彼らはアイスクリームを製品としてではなく、「究極のアイスクリーム経験」として提供しているそうです。フレーバーのバリエーションから陳列方法、実際にフレーバーを混ぜ合わすところをパフォーマンスとして見せる「コールド・ストーン」と呼ばれる舞台など、見る者を楽しませる経験にあふれているのです。

最近は、「カスタマー・ジャーニー」という言葉が定着していますが、顧客のあらゆる経験を「旅」に例えることも本書ではすでに提案されています。旅に例えることで、顧客の経験を見直す際にも、五感の全てを刺激するような、非凡で感動的なものに変えられないかという視点が生まれ、より大きなイノベーションにつがるというわけです。

以上、「情報収集→土台づくり→実現」という3つのステップに対応したキャラクターをご紹介しましたが、他にも、いち早くプロトタイプをつくって検証する「実験者」や、経験をケアにまで高める「介護人」など、イノベーションを起こすための興味深いキャラクターが次々と登場します。古びることのない良書だと思いますので、未読の方は、ぜひオススメします。


Posted: 2014年7月15日 10:59 | コメント(0)

『GIVE&TAKE』―「与える人」はなぜ成功するのか?

Book reviewer: 滝村 泰史 / Yasushi Takimura

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、アダム・グラント著の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)を取り上げます。

広告の本でもマーケティングの本でもない本書が、なぜラボで話題になったのか? そもそものきっかけは、ラボの読書会で『ツイッターノミクス』(タラ・ハント著、文藝春秋)という本を読んだことにあります。ソーシャルメディア時代の人間関係について書かれたこの本では、「ウッフィー」というキーワードが紹介されるのですが、それがメンバーの記憶に強く残っていました。

「ウッフィー」とは、SF小説に出てくる仮想通貨の名前。経済的な「お金」に代わって未来で流通している貨幣なのですが、他人に対して善行を行うたびに「信用」や「評判」が蓄積され、その多寡によってすべての決済が行われるというもの。つまり、評判が高い人ほどリッチであり、低い人ほどプアというわけです。

ソーシャルメディア時代には、オープンなネットワークの発達によって、個人や企業の「評判」が短期間で流通するようになる。『ツイッターノミクス』では、貨幣経済は残るものの、一方で「評価経済」とも呼びうる「評判」を介したつながりが、これから重要になると予測しています。

そこで今回の『GIVE & TAKE』ですが、そうしたソーシャルメディア時代の特質をベースに、人に惜しみなく与える人(=ギバー)が、長期的に見た場合にいちばん成功するということを、豊富な事例をもって実証的に明らかにしようとしています。「相手のことを考え、真っ先に相手に与える人」(=ギバー)は、「つねに自分の利益を優先させる人」(=テイカー)や「自分と他人の損得バランスを考える人」(=マッチャー)より、幸せな成功者になれるというのです。

これまでの人間関係、特にビジネス社会では、ギブ&テイクが常識的な態度であり、本書の分類でいえば「マッチャー」が主流になっていて、与えてばかりいる「ギバー」は損をするのではないかと思われがちですが、著者はそこに3つの時代の変化があると言います。

1つ目は、先ほども触れましたが、インターネットやSNSが普及し、良い評判が形づくられ流通するまでの時間が短くなったこと。2つ目は、ビジネスにおいて、個人の作業よりチームの作業が多くなり、「ギバー」がその真価を発揮する場面が増えたこと。そして3つ目は、サービス業が主流になり(現在ではアメリカ人の80%以上)、会社や自分の利益より、顧客の利益を一番に考えることが、成功のカギになってきたこと。

こうした時代を背景に、他者志向の「ギバー」が同僚や顧客の評判を獲得し、結果として成功するというわけです。

ただ、こうした「評判形成」の話に加えて、より本質的なのは、「ギバー」は、ビジネスを「ゼロサムゲーム」と考えず、全体のパイを増やそうとするので成功するという話です。

「ゼロサムゲーム」とは、一方が勝つと、もう一方が必ず負ける(利益の総和がゼロになる)ゲームのことですが、ビジネスは必ずしもゼロサムゲームではないことを、著者はいくつかの具体例とともに説明していきます。

たとえば、限られた市場ではパイの奪い合いになるが、その市場に新しい価値を持ち込み市場全体のパイを拡大すれば、すべての人が今より多くの恩恵を受けられること。あるいは、チームの作業では、個人個人が競争原理で動くより、おたがいに助け合い、伸ばし合うことで、チーム全体のパフォーマンスが格段に上がること...etc.

つまり、従来のような、どちらかが勝てばどちらかが負けるという世界観ではなく、ともに利益を増やせるやり方を模索するのが「ギバー」の世界観です。

そして「ギバー」は、関わる人すべてに利益をもたらす重要な場として、ネットワークやコミュニティーをとらえます。チームの作業が増え、仕事の8割がサービス業である現在、同僚や顧客とどれだけ有効なネットワークを築き、そこで全員のメリットになるような新しい価値を生み出せるかが勝負になる、と著者は述べています。

「ネットワークとは自分のためにつくるものではなく、すべての人のために価値を生み出す道具であるべきだ」

上記は、本書に登場する究極の「ギバー」、リフキンという人物の言葉ですが、自分のメリットだけを求めてつながる、いわゆる「人脈づくり」とは違う、ソーシャルメディアの本質的な価値を言い当てています。


Posted: 2014年4月10日 08:30 | コメント(0)

『幸福な広告』― 現場でつのる危機感とは?

Book reviewer: 滝村 泰史 / Yasushi Takimura

次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、今村直樹さんの『幸福な広告』を取り上げます。

帯に「現場でつのる危機感」とありますが、著者の今村さんは、現役のCMディレクター。30年以上CMづくりの第一線で活躍されていて、最近では吉永小百合さんが出演されたシャープのアクオスのCMなどを監督されています。
僕もコピーライターとして、一度お仕事をさせていただきましたが、「クラフトマン」という言葉がぴったりの、誠実なものづくりをされる監督です。

その今村さんが、長くCM制作の現場にいた肌感として、90年代後半あたりから、「気がつけば、がらりと空気が変わっていた」と言います。

その変化は、大きな流れでいえば、大量生産・大量消費の行き詰まりとメディア環境の推移によって、CM自体が効きにくくなったこと。その結果、「予算がない」「スケジュールがない」現場で、文字どおり「現場監督」としての役目をディレクターが果たさざるを得なくなった、ということなのですが、そうした現象だけを見れば、「時代の流れ」という一言で片づけられてしまうかもしれません。

けれど今村さんは、もっと本質的な原因を探ろうと2010年から1年間、早稲田大学の大学院に通って自分なりの研究を進めます。

50代も半ばになって、大学院に通う熱意にも頭が下がるのですが、見方を変えれば、それほどまでに、今村さんの中で違和感が膨れ上がっていたのかもしれません。
「CMといまの時代の間にある、このズレの正体は何だろう」

「広告とは何か」から始まり、慣れない言葉の定義や指導教授とのやりとりを通じて、徐々に明らかになってきたのは、より本質的な問題は、経済構造やメディア構造の変化よりも、「広告主と制作者の信頼関係の喪失」ではないか、ということでした。

広告も含めたコミュニケーションは、つながりを生み出すためのもの。「企業と消費者」「製品と生活者」とのいい関係をつくる現場で、「広告主と制作者」がいい関係になければ、いいコミュニケーションなど生まれるはずもない。
そんな、当たり前の結論に達したのです。

その仮説を裏付けようと、今村さんは成功していると思われる広告コミュニケーションの関係者に取材し、事例研究を進めます。たとえば、サントリーの烏龍茶。たとえば、三和酒類のいいちこ。たとえば、ソフトバンクの一連のCM。それらの制作現場に共通していたのは、「広告主と制作者の信頼関係」、それも強い想いをもった「個と個」のつながりでした。

「人と人が向き合うこと。対等に、フラットに。信頼や広告の継続性は、その結果もたらされるものでしかない。それこそが、『幸福な広告制作の現場』に共通して言えること、つまり普遍性ではないかと思うのだ」

そんな個と個がつながる「幸福な現場」から生まれたCMは、結果として生活者とも「幸福なつながり」を生み出します。それは、つくり手の想いがCMを通して生活者に伝わり、積み上げられることで、「強いブランド」になっていくからです。

ところで、今村さんが挙げているキーワードに、「対等」「個と個」「つながり」「信頼感」があるのですが、これらはまるごと、いまのネット時代のキーワードでもあります。というより、そもそもこれらのワードこそが、「コミュニケーションの本質」であり、インターネットやソーシャルメディアの登場によって、その本質がますますあらわになってきた、ということではないでしょうか。

いま思えば、マスメディア全盛の時代から、送り手が一方的な情報発信をしても受け手には伝わらないことを、現場の優秀な人は知っていましたし、実践もしてきました。

現在、企業や制作者のさまざまな事情で、「消費者の利益を優先することを許さない空気」が現場に生まれていることを、今村さんは強く危惧しています。今村さんは、こんな言葉で、ある項を締めくくります。

「確かにぼくは、マスメディアの側にいる『送り手』かもしれないけれど、一度も、漠然と『受け手』や『消費者』という人に向かって何かを伝えようとしたことなどない」

「広告も、CMも、それがコミュニケーションである以上、広告を作る上でも、消費者に届ける上でも、対等に、個と個として、信頼感に結ばれる関係を目指していくべきである...(中略)...たとえそれが、広告にとって苦手なことだったとしても、もともとそれは、広告が目指すべき本質だったはずなのだから」

コミュニケーションというものに、現場で真摯に向き合ってこられた今村さんの言葉には、強い説得力があります。それは、TVCMであれ、ソーシャルメディアであれ、あるいはメディアを超えた企業と生活者のつながりであれ、すべてのコミュニケーションやエンゲージメントに通じる本質ではないでしょうか。


滝村 泰史 / Yasushi Takimura


Posted: 2014年2月13日 12:12 | コメント(0)

はじめまして。DMCラボ書評、廣田、京井に続く三番バッターの滝村泰史と申します。コピーライターをやっています。

20年以上もコピーライターをやってきたので、すっかりテレビ・新聞ありきで表現を考える「メディア中心脳」になっていましたが、このラボに参加して、少しずつ脳もほぐれてきました。

旧世代のトラディショナルな広告経験も踏まえつつ、次のコミュニケーションを考える本をご紹介できたらと思います。趣向としてはコピーライターらしく、本の帯にある言葉をとっかかりにしようと考えています。

で、今回は、山崎亮さんの『コミュニティデザイン』を取り上げます。帯の言葉は、「モノをつくるのをやめると、人が見えてくる」。

建築デザインから人をつなぐデザインへ
著者の山崎さんは、もともとは建築デザイナー。帯にもあるように、建築という「モノづくり」を通じて、ランドスケープや公園をデザインされてきました。それが徐々に人のつながりに関心が移り、いまでは自らのことを「コミュニティデザイナー」と呼んでいます。

「コミュニティデザイン」とは、過疎や観光集客といった地域コミュニティの課題をその地域の人たちが自ら解決できるよう、場やしくみをデザインする仕事。具体的には「まちづくりのワークショップ」を開いたり、「住民参加型の総合計画づくり」を手伝ったりしながら、人と人をつなげ、長期的な課題解決を目指されています。

建物や公園が必要になるケースでも、そうした具体的なモノづくりは他の建築家にゆだね、自らはコミュニティづくりというソフトに力を注ぐことが多いそうです。

そんな山崎さんですが、コミュニティデザインをはじめた当初は、「ハードをデザインする仕事に従事していた人間として、僕はその部分をほかの人に任せるというのが本業を捨てるような感覚だった」と言います。

これは、畑ちがいとはいえ、同じモノをつくる人間として、よくわかります。広告クリエーティブは、作品とはいえませんが、どうしても「自分が企画し、アイディアを出した仕事」という感覚が捨てきれない。逆にそれを捨ててしまうと、なんだかモチベーションが下がることもあるのです。

自分が離れても成り立つしくみづくり
ただ、山崎さんは、思いきって「モノづくり」を人に任せることで見えてきたことがあると言います。それは、一言にまとめると「使う人の気持ちに寄り添うこと」。

自分が建築家として「こんなものがつくりたい」と思っていると、どうしてもその考えに引っ張られてしまう。まずは、住人の方の話をとことん聞き、誰に話をもっていくか、誰を中心に据えるかといった座組みに頭を使うそうです。

ワークショップの時にも、自分のプロとしてのアイディアを押しつけるのではなく、住人の方からアイディアが出るのをじっくり待つ。その結果、新しいモノはつくらず、ソフトだけを変えていくという結論も、十分あり得るわけです。

いずれ自分は地域から離れてしまう。けれど、楽しみながら街を変えていこうというコミュニティを地元に生み出せれば、長い期間にわたって活動が持続する。そんなふうに考えているのです。

この言葉を読んで、僕はある人の発言を思い出しました。それは、前に講演をお聞きしたウェブデザイナーの中村勇吾さんの言葉。「ウェブデザインは、農園業みたいなもの」という主旨でした。

グラフィックデザインとちがい、ウェブのデザインはつくったら完成ではなく、そこからユーザーといっしょに育つものである、と。「育っていく器をつくる感覚」ともおっしゃっていました。

いまのSNSやソーシャルメディアでは、ユーザー主導のコミュニティがカギを握るといわれていますが、まさしくその本質をついた言葉ではないでしょうか。そして、今回山崎さんの本を読んで、リアルな場である地域コミュニティでも、デザイナーの果たすべき役割は同じなんだと感じました。

トラディショナルな広告でも同じような発想の人がいた
さらに、もっと昔にも同じニュアンスの言葉を聞いたことがあると思ったら、僕らの大先輩、コピーライターの糸井重里さんでした。

正確な言葉は忘れてしまったのですが、コピーを書く時に、「遊び場をつくる」ことを意識しているという内容でした。コピーや広告は、遊び道具を世の中に提案するようなもの。バットとボールを原っぱに置いておけば自然と野球がはじまるように、コピーを通じて遊んでもらえれば、その言葉は成功する、と。

たとえば、「昼間のパパは光ってる」という某建設会社のコピーですが、これは、「働くお父さん」をテーマにしたCMソングとして、忌野清志郎さんの曲もつくられました。「昼間のパパはちょっとちがう」「昼間のパパはいい汗かいてる」「昼間のパパは男だぜ」という歌詞は、「夜中のパパはちょっとちがう」「夜中のパパはいい汗かいてる」「夜中のパパは男だぜ」ともじられることを意識して書いたとか(笑)。

糸井さんは、現在では「ほぼ日刊イトイ新聞」という日本最大級のコミュニティを主宰されていますが、コピーライター時代の「みんなの遊び場をつくる」という感覚の延長に、ネットでの成功がある気がします。

一瞬の完成度はもちろん、時間とともに育てる感覚を
ほかにも少しずれるかもしれませんが、小学館のCMで「ピッカピカの一年生」という器をつくり、その中でいろんなクリエーターを遊ばせた杉山恒太郎さんなど、「育っていく器をつくる感覚」は昔からあったようです。

そして、コミュニティづくりがカギとなるいまの時代こそ、こうした感覚がどんどん重要になっているのではないでしょうか。

僕たちの世代は、一瞬一瞬の完成度を上げる「瞬発力」の訓練は受けてきましたが、これからは「持久力」も身につけなければならない。「持久力」というとなんだかしんどいですが、みんなと一緒に育てていく感覚。どこまでこれまでの「モノづくり」の感覚を抜け出せるか、かなり意識的になる必要があるかもしれません。



滝村 泰史
第3CRプランニング局

コピーライター(東京コピーライターズクラブ会員)。言葉を核に、コピーライティングから、コンセプトメイキング、コミュニケーションデザインまで手がける。ACC金賞、読売広告大賞グランプリ、毎日広告デザイン賞最高賞、準朝日広告賞、クリオ広告賞銀賞、ニューヨークフェスティバル金賞ほか。日本映画好き。特に70〜80年代のもの。


Posted: 2013年12月26日 16:15 | コメント(0)